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第九章 Lakeside Woman Blues
祝宴と懸念
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ファジョーロ村は、久方ぶりに明るい雰囲気に包まれていた。
それはもちろん、数年に渡って村を搾取し続けていたナバアル湖の湖賊達が、四人の旅人達によって討伐されたからである。
湖賊達は、戦意を喪失して大人しく縛につき、彼らの頭領ウィローモは、全身を真っ黒に焦がされた半死半生の体で捕獲された。
そして、彼が使役していた四頭の水龍と一頭の大水龍は、村を挙げての祝宴のメインディッシュのスープやステーキや蒲焼きと成り果て、ホカホカと湯気を立ててテーブルの上に並んでいる。
「さあさあ、神官様! ご遠慮なさらず、ドンドンお召し上がり下さい!」
真っ赤な顔をして、これ以上なく機嫌の良いファジョーロ村の村長が、上席に座る少年神官に対し、『水龍のリブステーキ』が載った大皿をドンと置いた。
「……あ、ありがとうございます。――美味しくいただいてます」
パームは、少し辟易しながらも、ニコリと微笑んで会釈する。
「パーム様ぁ。豆乳ばかりでは無くて、ファジョーロ特産の豆酒は如何ですか?」
と、村長の三人娘がくねくねと科を作りながら、ガラス瓶を差し出す。
パームは慌てて、コップを手許に引き寄せて、
「あ、す、すみません! 僕は、まだ修行中の身なので、お酒はご遠慮させて頂いてます。お気持ちだけは有り難く……」
申し訳なさそうな愛想笑いを浮かべて、それでいて断固とした調子で断る。三人娘は残念そうな顔をして、ボトルを引っ込める。
「おう、じゃあ、代わりに俺が飲んでやるよ。ジャンジャン注いでくれい!」
と、パームの傍らに胡座をかいて床に直接座ったヒースが、ピッチャーを掲げて声をかける。
が、三人娘は、怯えた顔を見合わせるばかりで、ヒースの側に寄るのを躊躇している。
その様子を見かねた村長が、オロオロしながら、彼女達に注意する。
「こ……これ、お前達! 傭兵様にも、一献お注ぎしなさい――!」
「ガハハハハ! そりゃ、若い娘なんだからしゃーない! こんな厳つい怪物みたいなヤローなんかよりも、お人形みたいにキレイな顔した坊ちゃんの方と仲良くしたいのは当然だわなぁ!」
ヒースは、彼女達の態度も意に介さず、豪快に笑い飛ばした。
「も、申し訳ございません、傭兵様! 不束な娘どもで……」
「いいっていいって! 誰が注いでも、手酌でも、酒の味に変わりは無えんだからよ! 適当に俺の前に瓶ごと置いといてくれや。勝手に手酌で飲らせてもらうからよ」
顔を真っ青にして、深々と頭を下げる村長に、鷹揚に手を振ってヒースは言った。
と、彼のテーブルの前に、村の若い男達が群がってきた。
「傭兵様! 是非オレの盃を受けてくだせえ!」
「ヒースさん! アニキって呼んでいいっすか!」
「弟子にして下せえ!」
ヒースは、男達の勢いに目をパチクリさせていたが、ニヤリと笑うと、両手にピッチャーを持つと、彼らの目の前に突き出した。
「何だ何だお前ら! 物好きだなぁ……。――おいおい、一気に来るなよ! 一人ずつボトル持ってこい! 話は俺に1杯ずつ注いでからだ!」
ヒースの言葉に、オオーッと湧き起こる、男達の野太い歓声。次々と、ヒースに向かって殺到してくる。
と、負けじと、村の女衆が、パームの方に群がってくる。
「あららら、パームちゃん、ちゃんと食べてるかい?」
「生っ白い顔しちゃってえ……、ほれ、この豆の煮物、美味しいよぉ!」
「神官様、お嫁さんに、ウチの孫はどうかねエ? まだ3歳なんだけどぉ。別嬪さんになる予定だぁ」
「アタシはどうかねえ? まだピチピチの45歳だぁ」
「ひ、ひぃ……あ、あははは……ざ、残念ですが……遠慮します!」
津波のように押し寄せる熟女と老女と一握りの若い女性達に、パームは翻弄されて辟易する。
「むふふふ、随分とウチの女達に大人気ですな、神官様……」
村長が、その様子を見て、ニヤニヤとしながらパームに話しかけてきた。
「あの……村長さん……笑ってないで、助けて下さい――」
暢気に微笑みながら顎髭をいじる村長に手を伸ばして、助けを求めるパーム。
と、村長の顔が、つと曇った。
「――それはそれとして……心配ですな。ジャスミン様は……」
「あの……たすけ――」
「あの方だけ、極端にボロボロになっておられましたからな……。てっきり、もう既にお亡くなりになられたのかと思うほど……」
「あ……あの、それは……」
村長の言葉に、なぜか口ごもるパーム。
村長は、パームの妙なリアクションには気付かず、うんうんと頷きながら、言葉を続ける。
「余程の激戦をなされたのでしょうな……。一命を取り留めたのは幸いでしたが……、まだ意識を戻されないとは、実に心配な事でございますな……」
「あ、いや、その…………まあ、はい……」
「そんなジャスミン様に、付きっきりで看病をしておられるアザレア様も、実に健気で素晴らしい女性ですなあ。是非とも、ウチの若い衆の嫁になって欲しいところですが……ジャスミン様相手では、とてもとても太刀打ちできませんな」
「…………」
ひとりで納得して惜しがる村長に、何か言いたげだが、どう言って良いか分からず、口をもごもごさせるパーム。
「ジャスミン様とアザレア様……美男美女で、実に良いアベックですな。――まるで、若い頃の私と婆さんの様……」
「……あ……はあ……そう……なんですか……?」
取りあえず、ツッコみたいところが満載の村長の発言だったが、空気を読んだパームは、言葉を濁して愛想笑いするだけにしておいた。
同時に、“不都合な真実”も口を噤もうと決心した。
(……ジャスミンさんを、あそこまでボコボコにしたのって……実は、アザレアさんなんだよなぁ……)
それはもちろん、数年に渡って村を搾取し続けていたナバアル湖の湖賊達が、四人の旅人達によって討伐されたからである。
湖賊達は、戦意を喪失して大人しく縛につき、彼らの頭領ウィローモは、全身を真っ黒に焦がされた半死半生の体で捕獲された。
そして、彼が使役していた四頭の水龍と一頭の大水龍は、村を挙げての祝宴のメインディッシュのスープやステーキや蒲焼きと成り果て、ホカホカと湯気を立ててテーブルの上に並んでいる。
「さあさあ、神官様! ご遠慮なさらず、ドンドンお召し上がり下さい!」
真っ赤な顔をして、これ以上なく機嫌の良いファジョーロ村の村長が、上席に座る少年神官に対し、『水龍のリブステーキ』が載った大皿をドンと置いた。
「……あ、ありがとうございます。――美味しくいただいてます」
パームは、少し辟易しながらも、ニコリと微笑んで会釈する。
「パーム様ぁ。豆乳ばかりでは無くて、ファジョーロ特産の豆酒は如何ですか?」
と、村長の三人娘がくねくねと科を作りながら、ガラス瓶を差し出す。
パームは慌てて、コップを手許に引き寄せて、
「あ、す、すみません! 僕は、まだ修行中の身なので、お酒はご遠慮させて頂いてます。お気持ちだけは有り難く……」
申し訳なさそうな愛想笑いを浮かべて、それでいて断固とした調子で断る。三人娘は残念そうな顔をして、ボトルを引っ込める。
「おう、じゃあ、代わりに俺が飲んでやるよ。ジャンジャン注いでくれい!」
と、パームの傍らに胡座をかいて床に直接座ったヒースが、ピッチャーを掲げて声をかける。
が、三人娘は、怯えた顔を見合わせるばかりで、ヒースの側に寄るのを躊躇している。
その様子を見かねた村長が、オロオロしながら、彼女達に注意する。
「こ……これ、お前達! 傭兵様にも、一献お注ぎしなさい――!」
「ガハハハハ! そりゃ、若い娘なんだからしゃーない! こんな厳つい怪物みたいなヤローなんかよりも、お人形みたいにキレイな顔した坊ちゃんの方と仲良くしたいのは当然だわなぁ!」
ヒースは、彼女達の態度も意に介さず、豪快に笑い飛ばした。
「も、申し訳ございません、傭兵様! 不束な娘どもで……」
「いいっていいって! 誰が注いでも、手酌でも、酒の味に変わりは無えんだからよ! 適当に俺の前に瓶ごと置いといてくれや。勝手に手酌で飲らせてもらうからよ」
顔を真っ青にして、深々と頭を下げる村長に、鷹揚に手を振ってヒースは言った。
と、彼のテーブルの前に、村の若い男達が群がってきた。
「傭兵様! 是非オレの盃を受けてくだせえ!」
「ヒースさん! アニキって呼んでいいっすか!」
「弟子にして下せえ!」
ヒースは、男達の勢いに目をパチクリさせていたが、ニヤリと笑うと、両手にピッチャーを持つと、彼らの目の前に突き出した。
「何だ何だお前ら! 物好きだなぁ……。――おいおい、一気に来るなよ! 一人ずつボトル持ってこい! 話は俺に1杯ずつ注いでからだ!」
ヒースの言葉に、オオーッと湧き起こる、男達の野太い歓声。次々と、ヒースに向かって殺到してくる。
と、負けじと、村の女衆が、パームの方に群がってくる。
「あららら、パームちゃん、ちゃんと食べてるかい?」
「生っ白い顔しちゃってえ……、ほれ、この豆の煮物、美味しいよぉ!」
「神官様、お嫁さんに、ウチの孫はどうかねエ? まだ3歳なんだけどぉ。別嬪さんになる予定だぁ」
「アタシはどうかねえ? まだピチピチの45歳だぁ」
「ひ、ひぃ……あ、あははは……ざ、残念ですが……遠慮します!」
津波のように押し寄せる熟女と老女と一握りの若い女性達に、パームは翻弄されて辟易する。
「むふふふ、随分とウチの女達に大人気ですな、神官様……」
村長が、その様子を見て、ニヤニヤとしながらパームに話しかけてきた。
「あの……村長さん……笑ってないで、助けて下さい――」
暢気に微笑みながら顎髭をいじる村長に手を伸ばして、助けを求めるパーム。
と、村長の顔が、つと曇った。
「――それはそれとして……心配ですな。ジャスミン様は……」
「あの……たすけ――」
「あの方だけ、極端にボロボロになっておられましたからな……。てっきり、もう既にお亡くなりになられたのかと思うほど……」
「あ……あの、それは……」
村長の言葉に、なぜか口ごもるパーム。
村長は、パームの妙なリアクションには気付かず、うんうんと頷きながら、言葉を続ける。
「余程の激戦をなされたのでしょうな……。一命を取り留めたのは幸いでしたが……、まだ意識を戻されないとは、実に心配な事でございますな……」
「あ、いや、その…………まあ、はい……」
「そんなジャスミン様に、付きっきりで看病をしておられるアザレア様も、実に健気で素晴らしい女性ですなあ。是非とも、ウチの若い衆の嫁になって欲しいところですが……ジャスミン様相手では、とてもとても太刀打ちできませんな」
「…………」
ひとりで納得して惜しがる村長に、何か言いたげだが、どう言って良いか分からず、口をもごもごさせるパーム。
「ジャスミン様とアザレア様……美男美女で、実に良いアベックですな。――まるで、若い頃の私と婆さんの様……」
「……あ……はあ……そう……なんですか……?」
取りあえず、ツッコみたいところが満載の村長の発言だったが、空気を読んだパームは、言葉を濁して愛想笑いするだけにしておいた。
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