好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第十一章 “DEATH”TINY

幻聴と薄笑み

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 本部の前で、傭兵達が三々五々に集結しつつある。
 牢舎で発生した時ならぬ轟音に、ある者は安寧の眠りを破られ、ある者は楽しい酒盛りを中断され、ある者は艶めかしい閨事ねやごとを妨げられ――、その顔々には不満と焦慮と、そして恐怖の感情が、ありありと浮かんでいた。
 彼らは頭を突き合わせ、持ち寄った情報を示し合う。錯綜し、もつれた情報の結び目を、何とかほぐそうと必死だった。

 「脱獄者は何処だ!」
「――中庭らしい! バッカロンさんの隊が応戦しているらしい」
「助太刀に行った方が――」
「いや! 止めとけ! さっき、様子を見に行った奴らが泡食って戻ってきた! が出たらしい……巻き込まれたら――喰われる!」
「……お、おい! アレって……ひょっとして――アレか!」
「ああ……」

 長髪の傭兵が、隻眼の傭兵の言葉に小さく頷き、言葉を発するのも憚られるかのように、小声で囁いた。

「――“しろがねの死神”……」
「…………」
「…………中庭には、近付かないようにしようか」
「……そうしよう……」

 彼らは、顔を見合わせて、深く頷き合った。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 「……お邪魔シマ~ス……」

 大広間の巨大な鉄扉が、微かに軋みながらほんの少しだけ開き、陰鬱でだだっ広い室内には場違いな、緊張感の抜けた声が響く。

 ……………………。

 ――中からは、何の返答も無い。
 次の瞬間、鉄扉の隙間から、何かが、まるで泥棒猫の様な身のこなしで大広間の中に滑り込んだ。
 暗闇の中で、ゴロンゴロンと音を立て、絨毯の上を転がる何か。と、カチンという金属音がし、唐突に部屋の中央でピンク色の目映い光が溢れた。
 ピンク色の光は、一本の光へと収束し、ドンドンと伸びていく。その先端は、一直線に大広間の階の上――玉座へと向かって伸びてゆく。
 階の上で、激しい衝突音と破壊音が発生し、――縦に二つに裂けた玉座が階の上から転げ落ち、再び派手で耳障りな音を立てた。

「……ちっ。やっぱり、もういないか……」

 ジャスミンは、膝立ちで、真っ直ぐ前にピンク色の長刃を突き出した姿勢のまま、小さく舌打ちをした。
 ふうと溜息を吐くと、目を瞑り、無ジンノヤイバの光刃を消し去った。
 そして、膝を伸ばして立ち上がる。

「さて……ここじゃないとすると――あとは」

 彼は、キョロキョロと辺りを見回す。夜光虫の光しか灯りがない室内。部屋の四隅は、澱のような重苦しい暗闇が垂れ込めてい――

「――隙だらけだな、貴様!」
「――!」

 突然、あらぬ所から声がかけられ、驚愕の表情で、声の方向に振り向くジャスミン。
 一瞬後、彼の胸に、銀色に鈍く輝く三本の刃が突き立った――。

 ◆ ◆ ◆ ◆

「私の部屋へようこそ。――さあさあ、アザレア。どうぞ、遠慮なく掛けてくれ」

 自室に、アザレアを招き入れた白面の白装束男シュダは上機嫌で、彼女に椅子を勧める。だが、アザレアは険しい面持ちで、扉の前で佇んだままだった。
 そんな彼女の態度に苦笑いを浮かべながら、シュダは壁際のワインセラーから、うっすらと埃の積もったワインボトルを抜き取り、ナイフを使って栓を開ける。

「ふふ、私の部屋だからといって、緊張する事はないよ。自分の部屋のように寛いでくれ給え」

 サイドテーブルにゴブレットを置き、ボトルを傾けて血のような色のワインを注ぎ込みながら、鼻歌交じりに彼女に声をかける。

「――おっと。つい、いつものクセで赤ワインを開けてしまった。……アザレア。君は、赤はいける口か――」
「シュダ様! ……お話しがあります」

 彼の言葉を遮ったアザレアの声が、居室内に響く。
 シュダは、ゆっくりと振り向き、微笑みを浮かべた顔で、アザレアの紅い瞳をじっと見つめた。
 ――表情は柔らかな笑みを浮かべてはいるが……その瞳は、
 シュダの冬の湖の色と冷たさをした瞳に見据えられ、彼女の身体は、まるで金縛りにでも遭ったかのように硬直した。
 肺も痺れ、息すらままならない。心臓が、危険を知らせるように、その鼓動をドンドン早めていくのが分かる。

(――今なら、引き返せるぞ)

 アザレアの頭の中に、誰かの声が響き渡る。何重にも反響し、耳に触る不明瞭な声だったが、それが何を言おうとしているのか、彼女にはハッキリとわかった。

(――口を噤め。――目を瞑れ。――耳を塞げ。――全て忘れろ。その矛盾も――その疑念も――その過去も――)

 アザレアは、頭を絶えず反響し、彼女の心を蝕もうとする悪意に満ちたその声に、思わず両手で耳を押さえた。――が、脳内から聴こえるその恐ろしい呪声には、効果がない。
 ――彼女の喉の奥から、くぐもった悲鳴が漏れ出た。

「話……ああ、そう言えばそうだったね」

 だが、シュダはそんな彼女の様子に気付いていないかのように、いつもと変わらぬ静かな口調で呟くように言うと、小さく頷き、一人掛けのソファに身体を埋めた。
 そして、肘掛けに体重を預け、薄目を開けて、ニヤリと酷薄な笑みを浮かべて言った。

「――いいよ。君の話なら幾らでも聞こうじゃあないか。
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