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第十一章 “DEATH”TINY
黒刃と桃刃
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裂帛の気合と共に振り下ろされたヒースの一撃――凄まじい音と共に、夥しい土砂が、まるで煙のように濛々と舞い上がり、中庭の地面に巨大なクレーターが穿たれる。
だが――、そのクレーターの中に、銀の死神の身体の残骸は無い。
彼女は、その驚異的な跳躍力を活かして、後ろに20エイムほども飛びすさり、足を地面に付けるや、すぐさま地面を前に蹴り、今度はヒースに向かって急接近する。
ゼラは、中空で漆黒の左腕を鎌の形に変え、身体を捻って振りかぶる。――狙うは、大棍棒を地面に打ちつけ、隙が出来たヒースの太い首元。
「おおっとぉっ!」
ヒースは咄嗟に体勢を落とし、間一髪でゼラの振るう鎌の一撃を躱した。そして、頭を下げた勢いを活かして、ゼラのローブの裾を掴み、思い切り引っ張る。
「――!」
並外れたヒースの膂力に体勢を崩され、思わずゼラの口から、微かに息が漏れる。
「ふん――ぬうんっ!」
ヒースは、気合の声を上げながら、ゼラの身体を建物の石壁に向けて、渾身の力で投げ飛ばした。
凄まじい速さで宙を舞う死神の前に、灰色の石壁が迫る。このままでは、彼女の身体は石壁に激突し、その運動エネルギーに身体を破壊され、到底無事では済まないだろう。
「……」
と、ゼラの左腕に生えた黒い鎌が煙と化し、次の瞬間、黒光りする巨大な撥条へとその姿を変えた。
彼女は左腕を伸ばす。石壁と撥条が接触するや、撥条がグーッと縮み、激突の衝撃を和らげる。
「……おいおい。出鱈目だな、オイ」
投げつけた体勢のまま、事の経緯を見遂げていたヒースは、思わず苦笑いを浮かべる。
――が、笑っている場合では無かった。
縮み切った撥条が元に戻ろうとする反発力を利用して、ゼラは投げ飛ばされた時に倍するスピードで、再び飛びかかってきたのだ。――今度は、左腕の形状を鉞に変えて。
「――クウッ!」
油断していたわけでは無いが、想定を遙かに超える奇襲に、ヒースの判断が僅かに遅れる。彼は、横に跳んで、死神の鉞を躱そうとするが、右の肩口に鉞の一撃を受けてしまう。
「ちぃっ――!」
斬撃を受けたヒースは、敢えてゴロゴロと転がってゼラから距離を取った後、片膝をついた。切り裂かれた肩の傷から血霧が噴き出す。
「ヒースさんッ!」
パームの悲鳴のような声が飛ぶ。だが、声を投げかけられたヒースは、余裕の笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、坊ちゃん! こんなモン、かすり傷の内にも入らねえ!」
――だが、彼の心の中には、表情ほどの余裕は無かった。
「……この変則的な戦り方、まるでアイツみてえだな……」
と独り言つヒースの頭には、この場にはいない、軽薄な色事師の締まりの無いうすら笑いが浮かんでいた。
◆ ◆ ◆ ◆
一方、その色事師はというと――、
胸に三本の刃を突き立てられ、赤い絨毯の上で、大の字になって仰向けに倒れていた。
「……何だ。案外とあっさりと終わったな……」
闇に沈む大広間の隅から、姿を現したのは、リオルスでジャスミン達を拉致した、黒装束を身に纏った仮面の者だった。
仮面の者は、フカフカの絨毯を音も立てずに歩き、部屋の中央で倒れるジャスミンへと近付いてゆく。
「――ガッカリだ。チャー傭兵団を壊滅させたと言うから、どれ程の実力者なのかと、少しは期待を抱いていたのだがな……所詮は顔だけの男だったか」
心なしか哀しそうに呟きながら、仮面の者はジャスミンの傍らへ至り、その死を検めようと腰を屈める。
その瞬間、口を開け、白目を剥いていたジャスミンの顔に、皮肉気な笑いが浮かんだ。
「――――顔だけじゃ無いんだな、コレがっ!」
「!」
それと同時に、カチンと音が仮面の者の耳朶を打つ。反射的に身を逸らした仮面の者だったが、間に合わず、左上腕部をマゼンタ色の光の刃に貫かれる。
「――つゥッ!」
仮面の奥の顔を顰めながらも、仮面の者は突き刺された腕を振り回して強引に刃を抜き、床を蹴って後ろに飛び退き、ジャスミンから距離を取った。穴の開いた左腕から滲み出る鮮血で、黒装束が濡れる。
一方、大の字で寝転がっていたジャスミンは、脚を真上に伸ばすと思い切り振り下ろし、その反動で身軽に起き上がった。
そして、蹲る仮面の者へ向けて、嫌みったらしく舌を出してみせる。
「おっしい~! ちょいタイミングが早かったか……」
「……貴様!」
仮面の者は、怒りに満ちてというより、当惑を隠しきれない様子だった。
「――何故生きている! 胸に某のクナイを受けた筈……」
「……くない? ああ、この小刀みたいなヤツか」
ジャスミンは頷くと、己の胸に突き立つ銀の刃物を指さした。
そして、両手を背中に回して、何やらゴソゴソと動かしている。
そして、彼の胸から何かがずり落ち、絨毯の上に転がった。――それは、三本のクナイが突き刺さった革製の胴丸だった。
「いや~、元々傭兵達の中に紛れ込む為に、気絶してた傭兵から拝借してたんだけどさ。思わぬ所で役に立ったよ。このヨロイが無ければ即死だった……」
「……」
得意そうに言うジャスミンを、黙って睨みつける仮面の者。左腕を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。
そして、左腕から右腕を離し、腰の後ろに差していた、刃を黒く塗った直刀を抜き放った。
「……何処までも巫山戯た男だ、貴様は――」
「そりゃド~モ。よく言われるよ、それ」
怒りに満ちた仮面の者のくぐもった声に、ヘラヘラと軽薄な調子でおちょくるように答えるジャスミン。
――と、その目に真剣な光が宿る。
「――アンタも、左腕をケガしてるんだしさ。……ココはひとつ、退いてくれないかな? 無駄な血は流したくないだろ?」
「――冗談を言うな。今更退くなど、出来るはずも無かろう!」
「あれ……、上手く伝わらなかったかな?」
ジャスミンは、仮面の者の答えに、挑発するように首を傾げてみせた。そして、眉間に皺を寄せると、その黒曜石を思わせる漆黒の瞳に剣呑な光を宿す。
「――俺は急いでいるんだ。サッサと退け……って、言ってるんだけど」
「急いでいる……アザレア様の所へ――か?」
仮面の者は、静かに言った。ジャスミンの頬がピクリと動く。仮面の男は、それには気付かない様子で、言葉を続けた。
「……諦めろ。――アザレア様は……団長と一緒だ。もう――」
「――退けエエエエッ!」
彼の言葉が終わらぬ内に、血相を変えたジャスミンが、無ジンノヤイバを振りかぶって、仮面の者へ向かって、しゃにむに斬りかかった――。
だが――、そのクレーターの中に、銀の死神の身体の残骸は無い。
彼女は、その驚異的な跳躍力を活かして、後ろに20エイムほども飛びすさり、足を地面に付けるや、すぐさま地面を前に蹴り、今度はヒースに向かって急接近する。
ゼラは、中空で漆黒の左腕を鎌の形に変え、身体を捻って振りかぶる。――狙うは、大棍棒を地面に打ちつけ、隙が出来たヒースの太い首元。
「おおっとぉっ!」
ヒースは咄嗟に体勢を落とし、間一髪でゼラの振るう鎌の一撃を躱した。そして、頭を下げた勢いを活かして、ゼラのローブの裾を掴み、思い切り引っ張る。
「――!」
並外れたヒースの膂力に体勢を崩され、思わずゼラの口から、微かに息が漏れる。
「ふん――ぬうんっ!」
ヒースは、気合の声を上げながら、ゼラの身体を建物の石壁に向けて、渾身の力で投げ飛ばした。
凄まじい速さで宙を舞う死神の前に、灰色の石壁が迫る。このままでは、彼女の身体は石壁に激突し、その運動エネルギーに身体を破壊され、到底無事では済まないだろう。
「……」
と、ゼラの左腕に生えた黒い鎌が煙と化し、次の瞬間、黒光りする巨大な撥条へとその姿を変えた。
彼女は左腕を伸ばす。石壁と撥条が接触するや、撥条がグーッと縮み、激突の衝撃を和らげる。
「……おいおい。出鱈目だな、オイ」
投げつけた体勢のまま、事の経緯を見遂げていたヒースは、思わず苦笑いを浮かべる。
――が、笑っている場合では無かった。
縮み切った撥条が元に戻ろうとする反発力を利用して、ゼラは投げ飛ばされた時に倍するスピードで、再び飛びかかってきたのだ。――今度は、左腕の形状を鉞に変えて。
「――クウッ!」
油断していたわけでは無いが、想定を遙かに超える奇襲に、ヒースの判断が僅かに遅れる。彼は、横に跳んで、死神の鉞を躱そうとするが、右の肩口に鉞の一撃を受けてしまう。
「ちぃっ――!」
斬撃を受けたヒースは、敢えてゴロゴロと転がってゼラから距離を取った後、片膝をついた。切り裂かれた肩の傷から血霧が噴き出す。
「ヒースさんッ!」
パームの悲鳴のような声が飛ぶ。だが、声を投げかけられたヒースは、余裕の笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、坊ちゃん! こんなモン、かすり傷の内にも入らねえ!」
――だが、彼の心の中には、表情ほどの余裕は無かった。
「……この変則的な戦り方、まるでアイツみてえだな……」
と独り言つヒースの頭には、この場にはいない、軽薄な色事師の締まりの無いうすら笑いが浮かんでいた。
◆ ◆ ◆ ◆
一方、その色事師はというと――、
胸に三本の刃を突き立てられ、赤い絨毯の上で、大の字になって仰向けに倒れていた。
「……何だ。案外とあっさりと終わったな……」
闇に沈む大広間の隅から、姿を現したのは、リオルスでジャスミン達を拉致した、黒装束を身に纏った仮面の者だった。
仮面の者は、フカフカの絨毯を音も立てずに歩き、部屋の中央で倒れるジャスミンへと近付いてゆく。
「――ガッカリだ。チャー傭兵団を壊滅させたと言うから、どれ程の実力者なのかと、少しは期待を抱いていたのだがな……所詮は顔だけの男だったか」
心なしか哀しそうに呟きながら、仮面の者はジャスミンの傍らへ至り、その死を検めようと腰を屈める。
その瞬間、口を開け、白目を剥いていたジャスミンの顔に、皮肉気な笑いが浮かんだ。
「――――顔だけじゃ無いんだな、コレがっ!」
「!」
それと同時に、カチンと音が仮面の者の耳朶を打つ。反射的に身を逸らした仮面の者だったが、間に合わず、左上腕部をマゼンタ色の光の刃に貫かれる。
「――つゥッ!」
仮面の奥の顔を顰めながらも、仮面の者は突き刺された腕を振り回して強引に刃を抜き、床を蹴って後ろに飛び退き、ジャスミンから距離を取った。穴の開いた左腕から滲み出る鮮血で、黒装束が濡れる。
一方、大の字で寝転がっていたジャスミンは、脚を真上に伸ばすと思い切り振り下ろし、その反動で身軽に起き上がった。
そして、蹲る仮面の者へ向けて、嫌みったらしく舌を出してみせる。
「おっしい~! ちょいタイミングが早かったか……」
「……貴様!」
仮面の者は、怒りに満ちてというより、当惑を隠しきれない様子だった。
「――何故生きている! 胸に某のクナイを受けた筈……」
「……くない? ああ、この小刀みたいなヤツか」
ジャスミンは頷くと、己の胸に突き立つ銀の刃物を指さした。
そして、両手を背中に回して、何やらゴソゴソと動かしている。
そして、彼の胸から何かがずり落ち、絨毯の上に転がった。――それは、三本のクナイが突き刺さった革製の胴丸だった。
「いや~、元々傭兵達の中に紛れ込む為に、気絶してた傭兵から拝借してたんだけどさ。思わぬ所で役に立ったよ。このヨロイが無ければ即死だった……」
「……」
得意そうに言うジャスミンを、黙って睨みつける仮面の者。左腕を押さえて、ゆっくりと立ち上がる。
そして、左腕から右腕を離し、腰の後ろに差していた、刃を黒く塗った直刀を抜き放った。
「……何処までも巫山戯た男だ、貴様は――」
「そりゃド~モ。よく言われるよ、それ」
怒りに満ちた仮面の者のくぐもった声に、ヘラヘラと軽薄な調子でおちょくるように答えるジャスミン。
――と、その目に真剣な光が宿る。
「――アンタも、左腕をケガしてるんだしさ。……ココはひとつ、退いてくれないかな? 無駄な血は流したくないだろ?」
「――冗談を言うな。今更退くなど、出来るはずも無かろう!」
「あれ……、上手く伝わらなかったかな?」
ジャスミンは、仮面の者の答えに、挑発するように首を傾げてみせた。そして、眉間に皺を寄せると、その黒曜石を思わせる漆黒の瞳に剣呑な光を宿す。
「――俺は急いでいるんだ。サッサと退け……って、言ってるんだけど」
「急いでいる……アザレア様の所へ――か?」
仮面の者は、静かに言った。ジャスミンの頬がピクリと動く。仮面の男は、それには気付かない様子で、言葉を続けた。
「……諦めろ。――アザレア様は……団長と一緒だ。もう――」
「――退けエエエエッ!」
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