好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
140 / 176
第十一章 “DEATH”TINY

【回想】幻影と遺言

しおりを挟む
 「感無量ですよ、ロゼリア……」

 虚ろな表情のロゼリアの顔を覗き込みながら、フジェイルはその長い舌で舌なめずりをする。

「美しい貴女を、私の屍人形コレクションに加える日が来ようとはね。末永く大切にしてあげますよ……」
「…………ザリ……ア……アザリー……」
「……は? ――ああ、妹さんの名前ですか」

 うわ言の様に微かに紡がれるロゼリアの言葉に、耳を寄せて聞き取ったフジェイルは、その酷薄な表情を更にサディスティックに歪めた。

「ご安心を。あの妹さんは、私が責任を持って育てさせて頂きますよ。――もう少し育ったら、閨事などもね……クククク」
「……めて……や……めろ……」
「……私の性格はよくご存知でしょう、ロゼリア?」

 と、フジェイルは、目も虚ろなロゼリアに向かって舌を出した。

「私はねえ、人に止めろと言われた事をしてあげるのが、大好きなんですよ」

 そして、今際いまわの際の彼女が、どんな絶望的な表情を浮かべるのかよく見ようと、より近くに顔を寄せる。

「さて、おしゃべりはこの辺で終わりにしましょう」

 そして、微かに目を細め、屍術の呪句を唱えようと、口を窄める。

『我 命ズ ソノ魂 骸ニ留メ 我ガ 僕トナレ……クロキヤミ スベテヲスベル ダレムノチ ムクロニヤド――』
「――やらせないッ!」

 その時、ロゼリアの散大していた瞳孔が収縮し、虚ろだったその真紅の瞳に力が戻る。
 彼女は右手を伸ばして、フジェイルの口を掴むと、左手で自分の側頭部に飾っていた銀の髪留めをむしり取った。

「な――何を! こ、この――死に損ないがっ!」
「私と一緒に……貴方も死ぬのよ、フジェイル! ――灰になりなさいッ!」

 思いがけぬロゼリアの抵抗に焦燥し、思わず声を上ずらせるフジェイルに、美しい顔を歪めて嘲笑したロゼリアは、自分の服の胸元を引き裂く。
 彼女の乳房――心臓の位置には、赤い墨文字のタトゥーが刻み込まれていた。
 ロゼリアは、そのタトゥーと同じ言葉を、掠れた声で唱え上げる。

『火の女神 フェイムの魂 猛る炎! 我が身を代に 全てを燃やせッ!』

 唱えるや、左手に持った髪留めの尖った先端を、胸のタトゥーに向けて、思い切り突き刺した。
 次の瞬間、彼女の身体は真っ赤な豪炎に包まれる――フジェイルの身体ごと。

「ああああああああああああっ――! ガアアアアアアアッ~!」

 全身を炎に襲われたフジェイルが、目を剥き出し、熱さと痛みで絶叫する。ロゼリアの掌が触れている彼の左半面はジュウウウという嫌な音を立てながら、みるみる焼け爛れていく。

「は――離せェッ! この……薄汚い売女ばいたガアアアアアアアッ~!」
「――離さ……ない!」

 彼女は、掠れた声で叫ぶと、左腕でフジェイルの胴を抱え込んだ。ぶすぶすと嫌な音を立てながら、フジェイルのローブが燃え落ち、露わになった肌が爛れ、火ぶくれが至る所に現れ始める。

「あああああああああづいいいいッ! あづいよおおおおぉっ! 離じ……離じでぐれええええ!」

 彼は、顔面を醜く歪めながら泣き叫ぶ。が、もちろん、彼女がその腕の力を緩めるはずがない。
 そのまま、フジェイルを灼き尽くそうと、より一層、その腕に力を込めようとし――、

「――!」

 突然、強い力でフジェイルから引き離された。
 彼女の身体は、床の上に投げ出される。

「……う……」

 炎に巻かれ、真っ赤に染まる視界の中で、黒いローブの銀髪の老婆が、全身から黒い煙が立ち上り、皮膚が焼け爛れてグッタリとしているフジェイルの身体を黒い左腕で抱き上げるのが見えた。

「……ま……ま――て……」

 全身から炎を吹き上げながら、ロゼリアは必死で彼女を呼び止めようとする。
 扉を開けて、外へ出ようとしていた“銀の死神”は、その声に反応し、振り返った。

「…………ろ」

 その唇が何かの言葉を紡ぎ出したようだったが、ロゼリアの聴覚は、既にその機能を喪っていて、死神が何を言ったのかは解らなかった。
 死神は、そのまま彼女に背を向けると、扉を蹴破って、出て行った。

(……待て……待て――!)

 ロゼリアは、右手を伸ばして、声をあらん限りに張り上げた――つもりだったが、既に声は出なかった。力尽き、仰向けに倒れ込む。
 彼女を燃やし尽くさんと、ますます猛り狂う火炎を、ほとんど盲いた瞳で見つめながら、ロゼリアは、左手に持っていた髪留めを両手で固く握りしめる。

(だ……大丈夫……。あれだけの火傷を負わせたのだから……どちらにしろ、生き延びられはしない……)

 世界の敵になり得る狂人……いや、それよりも、最愛の妹に迫る危険を排除できた。
 そう思う彼女の心は平安に満ちていた。
 ――もう、熱さも痛みも感じない。
 灼熱の炎に全身を灼き苛まれながらも、彼女の口元は綻んでいた。

(ごめんね……アザリー……お姉ちゃんは、もう、貴女と一緒に生きられない)

 アザリーいもうとは、泣くだろうか……泣くだろうな……。そう考える彼女の頬を涙が伝い、火炎によって蒸発する。
 彼女の脳裏に、涙を止めどなく流し続ける妹の姿が浮かび、ロゼリアの胸が張り裂けそうになる。
 ――が、泣きじゃくるアザリーの傍らに寄り添うひとりの影を見止めたロゼリアは、優しい微笑みを浮かべた。

(ああ……そうか……あなたが居たわね……。あなたが側に居れば、アザリーも、きっと……泣き止んでくれるわ……)

 意識が途切れる直前、ロゼリアはニッコリと微笑んで、黒曜石の瞳をした少年へ、最期の言葉を贈った――。

(後の事……アザリーをお願いね……ジャスくん――)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...