好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
154 / 176
第十三章 屍鬼(したい)置き場でロマンスを

憎と愛

しおりを挟む
 「タダの人間……?」

 フジェイルは、冬の湖色の目を大きく見開くと、腹を抱えて、愉快そうに笑い出した。

「惚れた女――恋に惑う……ハハハッ! 面白い事を言うじゃないか、色事師! 私が、そこのアザレアに恋をしているというのかい? クハハハハ! センスの無い冗談だ!」
「――違うかい、団長サンよ?」

 ジャスミンは、火傷で崩れた顔を歪めて、嘲笑うフジェイルに、真っ直ぐな目を向けて訊いた。フジェイルは、笑いを噛み殺しながら答える。

「違うに決まっているだろう!とうの昔……いや、生まれ落ちた瞬間から、私の中に“愛”などという不完全極まる感情はこそげ落ちている! だって、そうじゃないか? 私に愛されるには、この世界の人間共は愚かすぎる!」
「……いいえ。貴方は、愛を知っている」
「……何だと?」

 哄笑し続けるフジェイルの言葉を遮ったのは、ジャスミンの後ろで、真紅の瞳を哀しげに伏せたアザレアだった。
 そして、嘲笑を浮かべた表情を硬直させて聞き返したフジェイルを睨みつけ、彼女は、その細い指を彼に突きつけた。

「愛を知らないというならば、なぜ貴方は愛が“不完全極まる感情”だと知っているの?」
「……」
「貴方は、愛を知っている。そして、かつてはその感情の赴くままに、ひとりの女性を愛し慈しんでいたのよ……十年前まではね」
「……止めろ」
「貴方は姉様を愛していた。もっとも……その感情の示し方は、酷く歪にひん曲がっていたけどね……」
「……それ以上喋るな」

 アザレアの言葉を、静かな口調で遮るフジェイル。だが、その言葉には、先程までの余裕は無い。
 だが彼女は、フジェイルの言葉を無視して、口を動かし続ける。

「……十年前のあの日も、貴方は、本当に姉様を助けようと思って、わざわざ訪ねてきたのよ。“銀の死神”に喰べられないように、ね」
「……」
「でも、貴方の言葉はひねくれていて、その真意は伝わらず、結果として姉様は拒絶した。……いえ、姉様の事だから、貴方の真意にも気付いていたのよ、きっと」
「……黙れ」
「貴方も薄々は勘づいていたんでしょう? だから、姉様の拒絶に対して激昂した。その上で、姉様を永久に己のものに出来る方法――屍人形にしようと……姉様を!」
「黙れ黙れぇえ! それ以上、その生意気な口を開くなぁ!」
「……『惚れた女とそっくりな顔で』――てか?」

 激怒して言葉を荒げるフジェイルに、冷笑を浮かべて痛烈な言葉を浴びせるジャスミン。フジェイルの顔が凍りついたように硬直し、目だけがギョロリと彼に向く。

「――そうだよな。何せ、あれから十年……アザリーも18だ。……のロゼリア姉ちゃんと同じ。生き写しだよねえ。……もっとも、ロゼリア姉ちゃんの方が優しくて、腰回りがもっと色ッぽ――イデッ!」
「……、ジャス」
「……スミマセン、アザリーさん」

 ニッコリと、凄味の籠もった微笑を浮かべながら、炎鞭フレイムウィップを掲げるアザレアに深々と頭を下げてから、再びフジェイルの方へ向き直して、ジャスミンは言葉を続ける。

「えっと……どこまで言ったっけ……ああ、そうそう。まあ、そんな訳で、アンタはアザリーにも、姉に対するそれと同じ感情を抱いてしまったのさ。――だから、変装の上に、より大袈裟な白塗りを施して、万が一にも気付かれないように別人を装った上で、更に念入りにアザリーの記憶を弄り、手元に置きながら後生大事に育てていた――」
「……フン、下らん。……アザレアを手元に置いていたのは、ロゼリアに対する復讐だ。それ以上の意味など――」
「じゃあ何で、?」
「――ッ」

 半笑いで、わざとらしく首を傾げながら尋ねるジャスミンを前に、思わず言葉を詰まらせるフジェイル。
 その様子を見たジャスミンは、得たりと、更にニヤニヤ笑いを増してみせる。

「ロゼリア姉ちゃんへの復讐だと言うのなら、生前の姉ちゃんが一番大切にしていたアザリーを屍人形にして、自分の意のままに操ってやる事が一番だと思うけどなぁ。アザリーは、疑う事も無く、アンタを慕ってるんだから、騙しついでに屍人形にするのなんて造作も無い事じゃないの?」
「……それは――」
「あー、ヤダヤダ。これだから、恋愛拗らせ厨は……」

 そう言うと、ジャスミンは呆れたように肩を竦めた。

「もう、いい加減に認めちゃえよ~。もう、バレバレなんだって! “天下無敵の色事師”をナメるなっての!」
「……るさい」
「え? 何だって、恋愛落第生さん? 図星突かれて涙目になっちゃった~?」

 ここぞとばかりにフジェイルを煽りまくるジャスミン。フジェイルは顔を伏せ、身体をプルプルと小刻みに震わせている。

「……さい」
「あれ? マジで泣かせちゃった~? ゴメンね、容赦なくって。――でも、全部ホントの事だか――」
「うるさあアアアアイッ!」

 ジャスミンの挑発に、声を荒げて絶叫するフジェイル。彼を睨みつけるその顔色は、先程までの余裕の色は嘘のように消え失せ、激しく煮えたぎる怒り一色に染まっていた。

「何なのだ、貴様は! 他人わたしの心を、さも知っているかのようにベラベラと!」
「……そんなに激昂するって事は、俺の言葉に対する何よりも雄弁ななんだよなぁ……」

 マグマのようなフジェイルの怒りに触れてもなお、ジャスミンの余裕の態度は崩れない。そんな彼の態度に、更に怒りを募らせたフジェイルは、悪鬼のような顔で、右手の指をパチンと鳴らした。
 ――と、それまでフジェイルの傍らに控え、彫像のように微動だにしなかったワイマーレが、眠りから覚めたようにゆっくりと動き出す。
 フジェイルは、目をギラギラと狂的に光らせ、ジャスミンを指さして叫んだ。

「もう赦さん! 貴様は、タダでは殺さぬ! をしたくなるほど苦しませてから、屍鬼ゾンビに堕としてやろう!」
「へえ、奇遇だね、団長さん……いや、フジェイル」

 冷笑を浮かべたまま、体の前に無ジンノヤイバの柄をゆったりと構えたジャスミンは、そう呟くと――その軽薄そうな表情を一変させ、憤怒に満ちた黒曜石の瞳で、フジェイルを睨みつけた。

「ロゼリア姉ちゃんを殺した事――そして、アザリーへの仕打ち……『もう赦さん』のは、俺の方なんだよ!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...