好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
153 / 176
第十三章 屍鬼(したい)置き場でロマンスを

天下無敵の色事師と冒瀆の屍術士

しおりを挟む
 「ジャス……ッ!」

 振り返ったアザレアが、驚きで目を見開いた。その瞳から、大粒の涙がポロポロと零れ落ちる。

「アザリー、大丈夫か?」

 ジャスミンは、素早く彼女の元に駈け寄ると、手にした無ジンノヤイバの柄尻を叩く。桃色の光が剣身となり、その光の刃で、アザレアの脚を握りしめて離さない屍鬼の腕に斬りつけた。
 不思議な事に、あれだけ強い力でアザレアの脚を掴んでいた屍鬼の腕が、無ジンノヤイバの桃色の刃に触れた途端、苦しそうに痙攣しながらボロボロと崩れ出し、やがて、一片の灰と化した。
 アザレアはもちろん、当のジャスミン自身も、その現象に目を丸くする。

「……どうしたの、コレ?」
「……私に聞かないでよ」

 ――何はともあれ、アザレアは自由の身となった。

「――ケガはないか、アザリー?」

 労るように尋ねるジャスミンに、小さく頷いて答えるアザレア。それを見たジャスミンはニッコリ笑って、彼女の肩をポンポンと叩いた。

「――よし、じゃあ、ちょっと休んでな。あとは、俺がキッチリ片をつけてやるからさ」
「だ――ダメよ、ジャス……! 私も戦う……! 姉様の仇を討つ――」
「ああ、そうしろ。――でも、はダメだ」

 ジャスミンは、アザレアの頬に流れる涙を、指でそっと拭いながら、優しく言った。

「そんな乱れた精神状態じゃ、仇を討つどころか、炎鞭フレイムウィップも出せないだろ? 俺が時間を稼ぐから、その間心を静めて、落ち着いて戦えるようになったら――助けてくれよな?」
「……分かった……解ったわ、ジャス……」
「――ありがとう」

 と、アザレアにニコリと微笑みかけてから、彼は振り返り、不気味に佇むふたり……ひとりとを睨みつけ――首を傾げた。

「……あれ? アンタ、本当にシュダ団長か? その頭おかしい白装束で、団長だとばっかり思ってたけど、よく見たら顔が全然違うなあ」

 確かに、昼間に謁見の間で見えた時とは、面相から違う。ジャスミンが戸惑うのも無理はない。
 フジェイルは、引き攣れた唇を歪めて冷笑した。

「……ふん。君も、アザレアの変装は見ているだろう? あれを仕込んだのは、他ならぬ私だ。――あの忌々しいロゼリアが、私の顔に、この酷い火傷を刻んでくれたのでね。火傷を隠して、人目に晒しても恥ずかしくない面相にする為に覚えたメイクアップ技術は、いつの間にか達人の域に達していたよ」
「ふーん……でも、そうは言っても、本当は自信が持てなかったんだろ? 自分の技術にさ」
「……何だって?」

 フジェイルの眉がピクリと跳ねる。ジャスミンは、彼の僅かな表情の変化に気付いてか気付かずか、口の端に皮肉気な薄笑みを浮かべながら、言葉を継ぐ。

「ただ、メイクアップして火傷の傷痕を隠そうとしても、不自然なところが残っているんじゃないのか……そう考えて、気になってたまらなくなったから、アンタはベースの化粧の上から、更に過剰な白塗りをしたんだ。――要するに、不自然を、更なる不自然で覆い隠したって訳」
「……それが、どうしたというのだ?」

 話の着地点が見えない事に、若干の苛つきを覚えながら、フジェイルは上辺では平静を装い、問い返した。

「不自然な化粧を隠す為に、より目立つ不自然な白塗りを施す――だから何だという――」
「要するに、『小心者だね、アンタ』――っていう事さ」
「小心者……だって? ――私が?」
「そ」

 ジャスミンは、ニッコリと微笑んで頷いた。

「それだけ完璧な偽装を施しながら、更に大袈裟な偽装を凝らす。おまけに、アザリーの記憶を弄ってまで、自分の正体を隠そうとする。――でも、そこまでしてでも、アザリーにバレたくなかったんだろ? アンタがシュダでは無く、フジェイルだという事実を」
「……」
「安心したよ、シュダ団長……いや、フジェイル」
「安心した? ……何を、だ?」

 意外な言葉に、当惑の表情を浮かべるフジェイルを、ジャスミンは真っ直ぐ指さして、ニヒルな笑みを浮かべる。

「……初めて会った時は、顔から言葉から態度から、アンタは全てに仮面を被ってて、人間味の欠片も感じられなくって、正直薄気味悪かったんだけどさ。――今は、全然怖くないんだよ。むしろ、親しみすら感じる程にさ」
「……」
「フジェイルさんよ。アンタはだ。惚れた女に、自分の本性を知られたくないと、必死に化けの皮を被って演技し続ける、感情豊かで恋に惑う……タダのひとりの男だ。――だったら」

 ジャスミンはそう言うと、胸を張った。

「――俺がアンタに負けるはずは無いんだよ。人の心の機微を読む事にかけては右に並ぶ者のいない、この俺――『天下無敵の色事師』ならば、ね!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...