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第十三章 屍鬼(したい)置き場でロマンスを
違和感と答え
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バキバキと乾いた音を立てて、遂に床が破られ、屍鬼たちが溢れ出てきた。
が、その中心に三人の姿は無い。
大きくジャンプした三人は、一斉に部屋の奥――屍鬼たちの後方に控えるフジェイルに向けて突き進む。
屍鬼たちを操る頭を潰そうという作戦か――、が、もちろんフジェイルは、彼らがその行動を選ぶであろう事は充分に予測している。
彼は、手を掲げると、パチンと指を鳴らす。すると、彼の周囲の屍鬼たちが密接し、彼と三人との間に分厚い屍肉の壁を創り出す。
屍鬼たちの前で急停止を余儀なくされる三人。
「退けよ、死に損ない共ッ!」
「――退くのはアナタよ、ジャス!」
目の前に立ち塞がる屍鬼たちに毒づくジャスミンを制して、叫ぶアザレア。彼女は、ナイフを手にし、先日ファジョーロで切り取ったばかりの後ろ髪を、更にぶつりと切る。
「……また、髪の毛が短くなっちゃうわ……」
「いっそ、ベリーショートにしたらどうだい? それはそれで似合いそう……」
「――考えとくわ」
ジャスミンの軽口に、僅かに口元を緩めたアザレアは、直ぐに表情を引き締めると、切り取った後ろ髪を掴んだ手を掲げて、厳かな声で聖句を編む。
『火の女神 フェイムの魂 猛る火炎! 我が身に宿り 千々に爆ぜ散れッ!』
聖句の詠唱と共に、炎に包まれた髪を、前方の屍鬼の群れへと投げつける。
次の瞬間、轟音と共に髪は弾け、轟音と爆炎を生み出した。
猛炎と爆風に巻き込まれ、悲鳴を上げる事もなく、まるで山火事に晒される枯れ木のように燃え上がり吹き飛ばされる数多の屍鬼たち。
――が、
「フン……その程度の花火では、私の屍鬼共は駆逐しきれないよ」
冷笑を浮かべるフジェイルの言葉通り、爆炎に巻き込まれなかった屍鬼たちが、すぐにアザレアの攻撃によって開いた、防御陣形の穴を埋めるべく、のろのろと蠢き出す。
と、
「――させないよ!」
ジャスミンが叫ぶや、無ジンノヤイバの柄尻を叩いた。鍔元からマゼンタ色の光が溢れ出し、極太の光の刃と化した。
「いけえ――――っ!」
ジャスミンの手元から真っ直ぐ伸びた光の刃は、立ち塞がる屍鬼たちを貫き、弾き飛ばす。身体を貫かれた屍鬼は、無ジンノヤイバの膨大な生氣に晒されたことで体内の不安定な瘴氣を消し飛ばされ、たちまち塵へと還る。
どんどんと伸び続ける無ジンノヤイバの刃先は、遂にフジェイルまで届く。
「――っ!」
フジェイルが目を剥き、咄嗟に身体を捻って無ジンノヤイバに串刺しにされるのを避ける。
と、彼を目がけて伸びていたマゼンタ色の刃が、掻き消すように消えた。
フジェイルは横目で、無ジンノヤイバが消えたのを見届けると、ニヤリと笑い、正面に向き直る。
「どうやら、そのけったいな光の剣の形を維持できないほど、君の精魂も尽きたようだね。残念だが、もう終わり――」
「――ああ、そうだな」
「ッ!」
背後から聞こえた色事師の声に、フジェイルは顔色を変えて、マゼンタの刃が伸びてきた方向に目を凝らした。
そこには、古ぼけた剣の柄だけが、ポツンと落ちていた。それを握っているはずの、軽薄な顔をした色事師の姿は――影も形も無かった。
「貴様――いつの間に……!」
慌てて背後に振り返ろうとしたフジェイルの言葉は、中途で途切れる。彼の脇腹には、刃を上にしたクナイが深々と突き刺さっていた。
「……!」
「もう終わりだね、フジェイル……アンタの命運が……さ」
唇を歪めながら、フジェイルを皮肉ったジャスミンは、彼に突き立てたクナイを抜いた。そして、クナイを投げ捨てるや、すかさず彼の背後に回り、腕を固めて締め上げる。
「く……! 放せ!」
フジェイルはもがき、何とか拘束から逃れようとするが、完全に極まった関節技から逃れる事は出来ない。
――と、ジャスミンの顔が曇った。
「……なあ、フジェイル……アンタ、自分でおかしいとは思わないのかい?」
「……は?」
「いや、ちょっと違うな……。自分がおかしいとは思わないのか?」
「……何の事だ?」
突然背後から発せられた、ジャスミンの奇妙な問いかけに、フジェイルは怪訝な顔をした。
ジャスミンは、微かに声を震わせながら、静かに囁く。
「――だって、そうだろ? アンタは俺に脇腹を抉られたんだ。……なのに、何の痛みも感じてない」
「……」
「――それに……」
ジャスミンは、先程投げ捨てたクナイに向かって、クイッと顎をしゃくってみせた。
「あれだけ深く突き刺したはずのクナイの刃に、タダの一滴も血が付いていないんだ。……こりゃ、一体どういう事だと思う?」
「……」
フジェイルは、愕然とした表情を見せて、目を落とす。先程、ジャスミンに刺された脇腹が見えた。確かに、彼の纏う純白の上衣には、一滴の染みも無かった。
「――!」
フジェイルは驚愕に目を見開き、もっとよく見ようと、上衣の裂け目の中を凝視する。
火傷で爛れた左脇腹の地肌には横一文字にパックリと傷口が開いていたが、その不自然に綺麗な傷口は、彼にどうしようもない違和感を感じさせた。
が、違和感の正体は明白だった。
――即ち、脇腹を深く抉られたのにも関わらず、血が全く出ていない……!
その事実に気付いてしまったフジェイルは、茫然として呟く。
「……ど、どういう事なんだ……? 私は――私の身体は、一体――?」
「――答えはひとつです、シュダ……フジェイルさん」
彼の独白に、少年の声が応える。
「――!」
茫然自失している内に、音も無く目の前に立っていたパームを認識したフジェイルが驚く間もなく、金髪の端正な顔をした少年は、彼の顔を両手で挟み込み、ゆっくりと自分の額をフジェイルのそれへと近づけた。
そしてパームは、哀しそうな声色で、その事実を彼に告げた。
「……貴方は、もう既に死んでいるのです、フジェイルさん。……いえ、自分自身に操られた、哀れな屍人形のフジェイルさん――」
が、その中心に三人の姿は無い。
大きくジャンプした三人は、一斉に部屋の奥――屍鬼たちの後方に控えるフジェイルに向けて突き進む。
屍鬼たちを操る頭を潰そうという作戦か――、が、もちろんフジェイルは、彼らがその行動を選ぶであろう事は充分に予測している。
彼は、手を掲げると、パチンと指を鳴らす。すると、彼の周囲の屍鬼たちが密接し、彼と三人との間に分厚い屍肉の壁を創り出す。
屍鬼たちの前で急停止を余儀なくされる三人。
「退けよ、死に損ない共ッ!」
「――退くのはアナタよ、ジャス!」
目の前に立ち塞がる屍鬼たちに毒づくジャスミンを制して、叫ぶアザレア。彼女は、ナイフを手にし、先日ファジョーロで切り取ったばかりの後ろ髪を、更にぶつりと切る。
「……また、髪の毛が短くなっちゃうわ……」
「いっそ、ベリーショートにしたらどうだい? それはそれで似合いそう……」
「――考えとくわ」
ジャスミンの軽口に、僅かに口元を緩めたアザレアは、直ぐに表情を引き締めると、切り取った後ろ髪を掴んだ手を掲げて、厳かな声で聖句を編む。
『火の女神 フェイムの魂 猛る火炎! 我が身に宿り 千々に爆ぜ散れッ!』
聖句の詠唱と共に、炎に包まれた髪を、前方の屍鬼の群れへと投げつける。
次の瞬間、轟音と共に髪は弾け、轟音と爆炎を生み出した。
猛炎と爆風に巻き込まれ、悲鳴を上げる事もなく、まるで山火事に晒される枯れ木のように燃え上がり吹き飛ばされる数多の屍鬼たち。
――が、
「フン……その程度の花火では、私の屍鬼共は駆逐しきれないよ」
冷笑を浮かべるフジェイルの言葉通り、爆炎に巻き込まれなかった屍鬼たちが、すぐにアザレアの攻撃によって開いた、防御陣形の穴を埋めるべく、のろのろと蠢き出す。
と、
「――させないよ!」
ジャスミンが叫ぶや、無ジンノヤイバの柄尻を叩いた。鍔元からマゼンタ色の光が溢れ出し、極太の光の刃と化した。
「いけえ――――っ!」
ジャスミンの手元から真っ直ぐ伸びた光の刃は、立ち塞がる屍鬼たちを貫き、弾き飛ばす。身体を貫かれた屍鬼は、無ジンノヤイバの膨大な生氣に晒されたことで体内の不安定な瘴氣を消し飛ばされ、たちまち塵へと還る。
どんどんと伸び続ける無ジンノヤイバの刃先は、遂にフジェイルまで届く。
「――っ!」
フジェイルが目を剥き、咄嗟に身体を捻って無ジンノヤイバに串刺しにされるのを避ける。
と、彼を目がけて伸びていたマゼンタ色の刃が、掻き消すように消えた。
フジェイルは横目で、無ジンノヤイバが消えたのを見届けると、ニヤリと笑い、正面に向き直る。
「どうやら、そのけったいな光の剣の形を維持できないほど、君の精魂も尽きたようだね。残念だが、もう終わり――」
「――ああ、そうだな」
「ッ!」
背後から聞こえた色事師の声に、フジェイルは顔色を変えて、マゼンタの刃が伸びてきた方向に目を凝らした。
そこには、古ぼけた剣の柄だけが、ポツンと落ちていた。それを握っているはずの、軽薄な顔をした色事師の姿は――影も形も無かった。
「貴様――いつの間に……!」
慌てて背後に振り返ろうとしたフジェイルの言葉は、中途で途切れる。彼の脇腹には、刃を上にしたクナイが深々と突き刺さっていた。
「……!」
「もう終わりだね、フジェイル……アンタの命運が……さ」
唇を歪めながら、フジェイルを皮肉ったジャスミンは、彼に突き立てたクナイを抜いた。そして、クナイを投げ捨てるや、すかさず彼の背後に回り、腕を固めて締め上げる。
「く……! 放せ!」
フジェイルはもがき、何とか拘束から逃れようとするが、完全に極まった関節技から逃れる事は出来ない。
――と、ジャスミンの顔が曇った。
「……なあ、フジェイル……アンタ、自分でおかしいとは思わないのかい?」
「……は?」
「いや、ちょっと違うな……。自分がおかしいとは思わないのか?」
「……何の事だ?」
突然背後から発せられた、ジャスミンの奇妙な問いかけに、フジェイルは怪訝な顔をした。
ジャスミンは、微かに声を震わせながら、静かに囁く。
「――だって、そうだろ? アンタは俺に脇腹を抉られたんだ。……なのに、何の痛みも感じてない」
「……」
「――それに……」
ジャスミンは、先程投げ捨てたクナイに向かって、クイッと顎をしゃくってみせた。
「あれだけ深く突き刺したはずのクナイの刃に、タダの一滴も血が付いていないんだ。……こりゃ、一体どういう事だと思う?」
「……」
フジェイルは、愕然とした表情を見せて、目を落とす。先程、ジャスミンに刺された脇腹が見えた。確かに、彼の纏う純白の上衣には、一滴の染みも無かった。
「――!」
フジェイルは驚愕に目を見開き、もっとよく見ようと、上衣の裂け目の中を凝視する。
火傷で爛れた左脇腹の地肌には横一文字にパックリと傷口が開いていたが、その不自然に綺麗な傷口は、彼にどうしようもない違和感を感じさせた。
が、違和感の正体は明白だった。
――即ち、脇腹を深く抉られたのにも関わらず、血が全く出ていない……!
その事実に気付いてしまったフジェイルは、茫然として呟く。
「……ど、どういう事なんだ……? 私は――私の身体は、一体――?」
「――答えはひとつです、シュダ……フジェイルさん」
彼の独白に、少年の声が応える。
「――!」
茫然自失している内に、音も無く目の前に立っていたパームを認識したフジェイルが驚く間もなく、金髪の端正な顔をした少年は、彼の顔を両手で挟み込み、ゆっくりと自分の額をフジェイルのそれへと近づけた。
そしてパームは、哀しそうな声色で、その事実を彼に告げた。
「……貴方は、もう既に死んでいるのです、フジェイルさん。……いえ、自分自身に操られた、哀れな屍人形のフジェイルさん――」
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