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第1章
8・全員ある意味いつも通り
しおりを挟む約束の週末は、思っていたよりも早く訪れた。
自室の鏡の前に立った私は、そっと自分の姿を確かめていた。
今着ている優しい水色のドレスは、生地がまだ傷んでいない……手持ちの中で一番ましなものだ。
(少しは綺麗に見えるかしら……)
義両親の前でシリウス様に恥をかかせるわけにはいかない。
できる限り着飾ってみたつもりだが、上手くできているかは自信はなかった。
そわそわとして、なんだか心が落ち着かない。
鏡の中には、緊張して強ばった顔つきの私が映っている。
(大丈夫……、なるようにしかならないわ、セレフィア)
そろそろ、シリウス様と約束した時間だ。
言い聞かせると、私は自室を出て階段を降りた。
リビングへ行くと、ソファに沈んだ義父が朝っぱらからワインをあおっており、その横では義母が甲高い声を張り上げて怒鳴っていた。
「あなた! そのワインは高額なのよ!? ほどほどにしておいてくださいな! 私がドレスを買うお金がなくなるでしょ!?」
「ドレスなんて何着も持っているだろ! うるさいな!」
(ああ、本当に大丈夫かしら、これ……)
私は思わず頭を押さえてしまった。こめかみがじんじんと痛む……。
いつもの光景といえばいつもの光景だ。
だが、よりにもよって今日の日に……と思ってしまうのは仕方がないだろう。
「お義父様、お義母様……今日は来客があると伝えたはずですが……」
声に険しさが滲むのを自覚しながらも問いかける。
二人はこちらへと振り返ると、私の姿を見るなり不快そうに眉根を寄せた。
「……ああ、そういえばそんなことを言っていたわね」
義母は気のない声で呟くと、面倒くさそうに片手をひらひらと振った。
「まぁ、あんたの来客なんて大した人じゃないでしょ」
「な――」
鼻で笑いながら言われ、さすがにカチンときてしまった。
私に対してだけではなく、来客に対してもその態度なのか。
失礼にもほどがあるだろう。
珍しくも言い返しそうになったその時、私の背後から落ち着いた声が聞こえてきた。
「母さん、そんなことを言ってはいけないよ。俺の大事な義妹が人を連れてくるなんて、滅多になかったじゃないか。ちゃんと歓迎しないと」
振り返れば、そこには穏やかな笑みを浮かべたアルフレッドがリビングへと入ってきていた。
(……あれ、気のせい?)
その張り付いたような微笑みは、いつもと同じはず。
それなのに、今日はどこか薄っぺらく見えてしまった。
「ほら、父さんも準備して」
アルフレッドは義父の手からグラスとワインボトルを取り上げ、手際よく机の上を片付けていく。
義父は不満げにうなりつつも、しぶしぶ立ち上がった。
そんなこんなでようやく準備を終えたちょうどその時だ。
コンコン、と玄関の扉が叩かれる音が聞こえてきた。
(……来た)
跳ねる心臓を押さえながら、私は玄関へと向かう。
扉を開けると、朝の光を背にしたシリウス様が立っていた。銀の髪が朝日を弾いていてまぶしい。
「おはようございます。セレフィア」
落ち着いたシリウス様の声に、どうしてかほっとしてしまった。
ある意味彼も、いつも通りだからだろうか。
張り詰めていた肩の力が抜けていくのが、自分でもわかる。
「お、おはようございます。その……わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「お気になさらず」
シリウス様は淡々と返事をすると、家の中へと視線を向けた。
その視線を追って振り返ると、義家族たちが総出で玄関へと来ているようだった。
一応、来客を出迎えようという気はあるらしい。
「……紹介します。こちらは――」
シリウス様を紹介しようと私が口を開いた瞬間、義母と義父がほとんど同時に息を飲んだ。
「しっ、シリウス・ヴェルナー!?」
「ま、魔術師長が、どうしてこんなところへ!?」
二人の顔色が、みるみるうちに青くなっていく。
さっきまでの横柄な態度は跡形もなく消え去り、まるで別人のように慌てふためいている。
そんな中、アルフレッドだけは一瞬目を見張っただけで、落ち着いているように見えた。
「……ようこそ、魔術師長様。うちの義妹が、いつもお世話になっております」
アルフレッドが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。
そして顔を上げて、にこりと笑みを浮かべる。
けれどやはり瞳の奥は笑っておらず、細められた赤い瞳はシリウス様を値踏みするかのように向けられていた。
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