【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那

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第4章

53・カフスボタンを贈る意味

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 一通り食事を終えたあと、私はシリウス様と共にそっと席を立った。
 シリウス様に手を引かれるまま、庭園の中央から外れていく。
 星型ランタンの光は次第に遠ざかり、周囲は静けさを増していった。
 
 やがて辿り着いたのは、小さな小川が流れる一角だった。
 浅い川面には星空が映り込み、ゆらゆらと揺れている。
 そのそばには、木製のベンチがひっそりと置かれていた。

「周囲の光が強いと星が見えにくいですからね。ここの方が良く見えます」

 シリウス様はそう言って、ベンチへ腰を下ろした。
 私も隣に座って夜空を見上げる。

「わぁ……本当ですね。綺麗です」

 確かにシリウス様の言う通り、茶会の会場よりもこの場所のほうが星の光が強く感じられた。
 透明なドーム越しに広がる星々は、まるで手を伸ばせば届きそうなほど近い。
 ここが王都にある王宮庭園であることを忘れてしまいそうなほどだ。

 (こんなにゆっくり星を眺めたのなんて、久しぶりだわ)

 シリウス様も私も、しばらくただ黙って星空を眺めていた。
 小川の水音だけが響き、心穏やかな時間が過ぎていく。
 そうして――ここに来てようやく私は気づいたのだ。

 (……今って、もしかしてプレゼントを渡すチャンスなのでは?)
 
 私はそっと隣の様子をうかがう。
 シリウス様は星空へ視線を向けたまま、穏やかな表情をしていた。
 その横顔は、星明かりに照らされて美しい。

 (こんなロマンチックな夜に二人っきり……。それなのに渡さなかったら絶対後悔するわ……!)
 
 ここまでの絶好の機会は、もう二度と訪れないかもしれない。
 私は、ポケットに入れたままの小箱へ服の上からそっと触れた。
 心臓の鼓動がやけにうるさくて息苦しい。
 落ち着かせるように深く息を吸うと、私は意を決して口を開いた。
 
「あ、あの……シリウス様」

 声をかけると、シリウス様は私の方へ視線をずらした。
 アンバーとライトブルーのオッドアイが、真っ直ぐに私へ向けられる。

「どうしました?」

「……実は、お渡ししたいものがあって」

 私はポケットの中から、リボンのかかった小箱を取り出した。
 手のひらにのせたそれは、星明かりを受けてほのかに光っている。
 シリウス様へと差し出した手が緊張で震えた。

「これを、受け取っていただけますか……?」

「私に? 開けてもよろしいですか?」

「はい。あの、使っていただけたら嬉しいです」

 シリウス様は私から小箱を受け取る。丁寧にリボンをほどき、蓋をそっと開けた。
 
「……これは」

 金の縁取りがされ、中央でアンバーとライトブルーの混ざりあったカフスボタン。
 箱に収められたそれを見た瞬間、シリウス様の動きが止まり、瞳をわずかに見開いた。
 
「……なぜ、私にこれをプレゼントしてくださったのか、理由をお聞きしても?」

「ええと、それは……」

 静かに問われて、私はすぐに言葉が出てこなかった。
 なんと伝えればいいのだろう。

 (好きだから贈りたかった? 私の気持ちを受け取って欲しかった?)

 どちらも事実だし、プレゼントをした本質ではある。
 けれど私の口をついて出たのは、もっと単純な想いだった。
 
「……シリウス様に、どうしても贈りたかったんです。そのカフスボタンの石が、シリウス様の瞳にそっくりだったから……身につけてほしくて」

 カフスボタンを見た時、あまりの美しさに一目惚れしてしまった。
 まるで、シリウス様の瞳を初めて見たあの日のように。
 『綺麗』だと、思ってしまったのだ。
 
 シリウス様の顔がなんだか見られなくて、どんどんと私の視線は落ちていく。
 膝まで視線を落としていると、シリウス様が私の名前を呼んだ。

「セレフィア」

「……はい」

 そろりと視線を上げると、シリウス様は真剣な表情でカフスボタンを見つめていた。
 
「あなたは、カフスボタンを贈る意味をわかっていますか?」

「い、意味……?」

 そう言えば、買った時に店員が「カフスボタンを贈るのは意味がある」と言っていたことを思い出す。
 けれど、その意味を私は知らないままだった。

「カフスボタンは袖口を留めるもの。相手の腕を独占することだ。そこから転じて、『あなたの腕は私のもの』『私だけを抱きしめて』という意味になるんですが……」

「え……っ!?」
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