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第3章
25・親友は助言する
しおりを挟む「……な、何もないわよ」
セリナにこれ以上の心配をかけたくなくて、私は精一杯の強がりを口にする。
だが、それもセリナにはお見通しだったらしい。
困った子を見るような目で、眉根を下げて苦笑していた。
「ばか、親友を舐めないでよね。何年あんたと付き合ってると思ってるの?」
「…………15年?」
「そーよ」
セリナとは、父に連れられて行った貴族の茶会で出会った。
幼い頃の話だ。当時から親との関係は良くなかったものの、まだ貴族の集まりの場へ連れて行ってもらう事があった。ミレシアが大きくなってからは、父や義母がそういった外での催しに連れていくのはもっぱらミレシアだけとなり、私は腫れ物のように扱われていたが。
ともかく、セリナとの付き合いはそれからで、茶会で意気投合した私たちは、よく遊ぶようになったのだ。
気づけば、大人になっても縁が切れることなく続いていた。
きっと、彼女との縁は今後も切れることはないだろう。
「で、何があったの? もしかして、クラウス様関連? それともミレシア?」
「……鋭いわね」
「だって、ここ最近であんたに変化があったことって、ミレシアかクラウス様でしょ」
「それもそうだわ」
私たちは並んで礼拝堂の椅子に腰を下ろした。
ぽつりぽつりと、セリナに状況を話す。
親友とはいえ、恋愛の悩みを相談するなんて初めてだ。
だけど、セリナは最後まで真剣に聞いてくれた。
「……うーん」
私の話を聞き終わると、セリナは少し目を伏せ、口元に手を当てて考え込んだ。
「私には、あのミレシアがクラウス様を救ったとは思えないけどねぇ」
「それは私もそう思うけど……でも、分からないじゃない?」
その時の気分というのもあるだろうし、実は私たちには力を使っているところを見られたくなかったのかもしれない。
理由なんて、考えようとすればいくらでも出てくるのだ。
クラウス様の語る聖女が自分じゃないとする理由なんて、いくらでも。
セリナはしばらく黙っていた。
やがて顔を上げると、セリナは真っ直ぐに私を見つめた。
「……それさ、あんたなんじゃないの?」
「なにが?」
「だから、クラウス様を助けた聖女って、あんたなんじゃないのって」
(そんなまさか)
「だってさ、普通に考えるならそうでしょ? ミレシアが祈ってるとこなんて、レティノアでさえ見たことないんだから。ミレシアがクラウス様を助けたって考えるより、あんたが助けたって考えるほうが自然じゃん」
「……」
ごもっともな意見ではある。私だって、最初は自分がクラウス様を助けたのかと思った。彼の口から「神々しい女神のような姿」だった、と語られるまでは。
「……ありえないわよ、私覚えてないし。それに、クラウス様は女神のようだったって言ったのよ? だったら私よりミレシアに決まってるわ」
納得できないのは自己認識の問題なのだ。
私が女神のような姿をしているなんて、到底思えない。反対にミレシアならば、クラウス様がそう感じても不思議じゃない。
私の言葉にセリナはまったく納得がいっていないようで、不満そうに唇を尖らせた。
「そもそもさ、クラウス様の口からミレシアの名前とか、他の特徴とか出たわけ?」
「……なにも」
私は静かに首を横へふった。クラウス様の口から、ミレシアの名前を聞いたこともミレシアの瞳の色も、他の容姿の特徴も、私は一度たりとも聞いたことがない。
「じゃあやっぱりレティノアかもしれないじゃない。少なくとも私は、あんたが祈る姿は綺麗だと思うし、クラウス様が命を救われて最初に見たのがあんたなら、女神だって思ってもおかしくないわよ」
(そう言われても、自分だと思えないのよ)
セリナが友人ながらも客観的な意見を伝えてくれているのはわかっている。
それでも、私が受け入れられないのは、きっとさんざん家族から言われてきたからだ。
『お前はミレシアに比べて華がない』『生意気で可愛げがない』『フランヴェール家にはいらない』
家族に言われ続けた言葉が、体に染み込んで離れない。
「まぁ、さ。気持ちが落ち着いたら、クラウス様ともうちょい話してみたら? なんか分かるかもよ?」
セリナの言葉が、冷えていた私の心にそっと落ちてきた。
無理に私を変えようとするのではなく、そっと寄り添おうとしてくれる優しさに心が温かくなる。
「……ありがとう。そうしてみるわ」
本当に、私にはもったいないくらいの良い友人だ。
「私さ、クラウス様のこと怖いから苦手って思ってたけど、ちょっと印象変わったかも。私の大好きなレティノアが好意をもつくらいだもん。悪い人じゃないんだよね」
「……うん。それは保証するわ」
「っていったそばから悪いんだけど、今この瞬間にクラウス様が現れたら、飛び上がって悲鳴あげながら逃げる自信あるわ」
きっと、彼女なりの気遣いなのだろう。
てへと舌を出して笑うセリナに、私もつられて笑ってしまった。
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