【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

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第2章

31・ばったり遭遇‪☆

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「あの、ジェラルド……。ありが――」

 ジェラルドにお礼を言おうとした私の声は、最後まで発せられなかった。広場に闖入者ちんにゅうしゃがあったからだ。

「我々は反神殿派だ!」

「……っ!?」

 ――反、神殿派……?

 現れた一般市民のような数人の男たちが、声高に叫ぶ。
 ジェラルドは私の肩をすぐに抱き寄せた。

「神子様、こちらに」

「ちょ、ジェラルド……っ」

 そのままジェラルドに引かれるままに、建物の影に身を隠す。
 私の背を壁に押し付けると、ジェラルドは私の姿を隠すように長い腕を壁につけた。
 私の顔のすぐ横にジェラルドの腕が伸びて、私の体はジェラルドに囲われる形になる。

 って、はいいいい!?
 こ、これは……!
 まさかの壁ドンですかっ!?

「ジ、ジェラ、ジェラル……」

「し……っ。静かに」

 いや、無理無理無理!
 ジェラルドが近くて、どうしようもなく恥ずかしくて、私の体に熱が上る。
 すっぽりとジェラルドの体で隠されてしまって、自分の小ささとジェラルドの大きさを改めて実感してしまう。

 無理だから!
 この状況で平常心を保てる人がいたら尊敬するから!

「この国は、存在根拠の無い神という存在に操られている! そんな非現実的なものなど存在しない!」

「……っ!」

 広場から聞こえてきたその高らかな声に、私はびくりと肩を揺らした。
 はっと我に返る。

「ジェラルド、あの人たちは何を言っているの? この国の人たちは、みんな神様を信じているんじゃないの?」

 てっきりこの国の国民たちは、誰一人残らずあの神様のことを信じているのだと思っていたが……。そうではないのだろうか。

 尋ねると、ジェラルドは深く息を吐き出した。

「……そうですね。大半の国民はルーチェ様の御加護を信じておりますよ。ですが、さすがに一枚岩ではない。中には不信心な人間もいるということです」

「なるほど……」

 デモのようなものだろうか。
 ようやく何が起こっているのか理解して、私はジェラルドの体越しに広場の様子を盗み見る。
 広場の中央には、20代から30代くらいの男性が数人立っていた。

「神なんて、この国には存在しない!」

「信じられるのは人間だけだ!」

 男性たちが叫べば叫ぶほど、広場にいた人々が散っていく。
 それはそうだろう。私だって、面倒くさそうな人とは関わりたくない。

「信教は自由ですので不信心くらいでは取り締まりは行いませんが、街を乱した罪でそろそろ神殿騎士が駆けつけると思いますよ」

 ジェラルド自身が取り押さえに行かないのは、私の身の安全を守るためと、部下を信頼しているからなのだろう。

「そっか……。神殿騎士って大変なんだね」

 ジェラルドが、街を守るのも仕事だと言っていたのを思い出す。

「ルーチェ神は何もしてくれない! 神なんていない!」

 再び耳に飛び込んできた、反神殿派の男の声。
 その言葉は、酷く私に不快な感情を起こした。

 何を、言っているんだろう。この人たちは。
 聞いていると、なんだかふつふつと怒りが湧いてきてしまった。

 神様は、確かにいるのに。
 私はそのせいでこの異世界にいるのに。
 
 何もしない、出来ないのは、人によって力を奪われているからではないのか。
 人というのは勝手だ。
 神の力を信じたり、奪おうとしたり、否定したり。

 神様の存在丸ごと否定されてしまっては、私の存在まで否定されているかのようだ。

「……っ」

「神子様!」

 気づけば私はジェラルドの体を押しのけて、広場に飛び出していた。
 ジェラルドの焦ったような声が背中に聞こえる。

「あなたたち、ふざけたことを言わないでよ! 神様はいるのに!」

「なんだ……この女」

 男たちが私を見て訝しげな顔をする。
 だけど、私だって止まれなかった。

「神様のこと知りもしないで、勝手なこといわないで!」

 あの神様は、こんな男たちに無遠慮に否定されるような存在ではなかった。
 ふざけた神様だが、それでも確かに信じられるものがあったのだ。

「……どこの娘かは知らないが、あんまりうるさいようだと痛い目見てもらうぜ?」

 男たちは目配せをすると、男のうちの一人が腰に下げていた剣を抜いた。

 ……って、け、剣!?

「……っひ!?」

 頭に血が上って、すっかり忘れていた。
 この異世界が、銃刀法ななどというものがなさそうな世界だということを。

 多分威嚇のつもりなのだろうと、頭ではわかっている。
 男からは殺気を感じられない。
 きっとただの脅しだ。
 けれど、目の前に剣を突きつけられては、恐怖で体がすくんで動けなかった。

「俺たちの邪魔をするなら容赦はしない……っ!?」

「……それはこちらの台詞だな」

 きんっ、と剣が弾かれる音。
 続いてからんと乾いた音がして、弾き飛ばされた男の剣が広場の石畳に転がった。

「……っ」

 いつの間に来てくれたのだろう。
 私の前には、涼し気な顔に静かな怒りを滲ませたジェラルドが立っていた。
 抜き身の剣を手にしたまま、私を守るように背に庇ってくれている。

「この方に手を出すようなら、俺も容赦はしないが?」

「ひっ! 神殿騎士!」

 ジェラルドの有無を言わせない雰囲気に気圧されたのか、今度は男たちが小さな悲鳴をあげる番だった。

 その後、すぐに駆けつけてきた神殿騎士によって男たちは取り押さえられ、連れていかれた。申請もしていないのに街でデモを始めた件で、取り調べられるらしい。

 広場に残されたのは私と、張り詰めた雰囲気のジェラルド。そしてこちらの様子を遠巻きにうかがっている野次馬たち。

「……あ、の」

 ジェラルドが剣を鞘に収める音が、やけに広場に響いた気がした。

 ――まずい。怖い。

 さすがにこれは怒られるかもしれない。
 私は恐る恐るジェラルドの顔を見上げた。

「神子様」

「は、はい! ごめんなさい!」

 自分でも無謀なことをしてしまったと思っている。
 私は叱責を覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。

 …………。
 あ、れ……?

 しかし、いつまで待っても叱責は飛んでこない。
 私がそろっと目を開けたその時、ぐっと強くジェラルドに引き寄せられた。

「っ!?」

 え、なになになに!?

「あなたが無事でよかった……」
 
 混乱する私の肩口に、ジェラルドの押し殺したような声が落ちる。

「お願いですから、ご自分から危険に飛び込んでいかないでください……!」

 ジェラルドの言葉に込められた強い思いに、私は考えもなしに飛び出してしまったことを酷く後悔した。

 私、なんて馬鹿なんだろう。
 こんないい人に、心配をかけてしまうなんて。

「……ごめん、なさい」

 私はここが野次馬の目がある広場だということを忘れ、ジェラルドの腕の中で項垂れた。
 
 
 
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