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第2章
32・神子様は落ち込む
しおりを挟むさすがにこれ以上街を見て回るような気分ではなくて、私はジェラルドとともに神殿へ戻ることになった。
私の制服は、エルミナさんに後日神殿へ届けてもらように手配するとのことで、少しだけ安心する。
ジェラルドが買ってくれたワンピースに不満があるわけではない。ただ、制服がないのは不安だった。
制服だけが、私が異世界から来たことを証明してくれるものだから。
「神子様、本日はお疲れ様でした。ゆっくりとお休みください」
「……うん。ありがと」
神殿の、私の部屋の扉の前。
部屋まで送り届けてくれたジェラルドに、私は小さな声でお礼を言った。
声が暗いと自分でもわかる。
こんな声では、ジェラルドに余計な心配をかけてしまうとわかっている。
それでも、反神殿派なる存在にも、ジェラルドに迷惑をかけてばかりの自分にも、ショックを受けてしまって上手く隠せない。
エミールくんの作ってくれた夕食もあまり喉を通らなかった。
食事の時、エミールくんが「ボクがあれほど忠告したのにジェラルドにご迷惑をおかけするなんて!」と小言を言ってきたが、それに反応する気力もなかった。
あまりにも大人しい私の姿に、結果的にエミールくんにまで心配そうな顔をさせてしまったから申し訳ない。
「ジェラルド……ごめんね」
聞こえるか聞こえないかというくらい小さな声で、私は謝罪を口にする。
何となく顔を見られなくて、ジェラルドに背を向けて部屋のノブに手をかけた。
「神子さ……」
何かを言おうとしてか私に呼びかけるジェラルドの声が聞こえる。私に向かって手を伸ばすのが見える。
だけど、私はそれを見て見ぬふりをして部屋の扉を閉じた。
「はぁ……」
扉に背を預け、ため息をつく。
そのままズルズルとしゃがみこんで、私は膝を抱えた。
『……あまりため息ばかりついていると、幸せが逃げるぞ?』
「……っ」
突然気遣うような声が降ってきて、私は再びつきかけていたため息を飲み込んだ。
『何も、落ち込むことはないだろう?』
顔を上げると、すぐ目の前に神様がいた。
心配そうに眉を寄せてこちらを見ている。
「……っ落ち込むよ」
私は、何も出来なかった。
神様が馬鹿にされたのに。
私の存在する理由を否定されたのに。
私にはどうすることも出来なかった。
それどころか、ジェラルドに迷惑をかけてばかりで……。
こんな私が、神様の力を奪っている原因を探ることなんてできるのだろうか。考えると苦しい。
私の気持ちが読めているであろう神様は、そっと私の頭に触れた。
透けているためか感触はない。それでも、触れられている部分が温かいような気がした。
『君は優しい子だ。僕のために怒ってくれたんだろう? 嬉しいよ』
「……そんなの当たり前でしょ」
私はむすっとしながらも答えた。
私が元の世界に帰れるかどうかは、この神様の力にかかっているのだから。
私たちは、いわば運命共同体だ。
そう思うものの、さすがに面と向かって言うのは恥ずかしい。だが、よく考えたらこの神様、人の心が読めるのだから、きっとバレているに違いない。
嬉しそうに目を細めている神様から、私はふいと視線を逸らした。
『人というのは身勝手なものだ。だからこそ、愛おしい。君が気にすることはない』
「なにそれ。慰めてくれてるの?」
神様の言葉には、慈愛がこもっているように感じられた。
次の瞬間にはえへんと胸を張るものだから、ミステリアスな雰囲気は霧散したけれど。
『もちろんだとも!』
この神様は不思議だ。
子供っぽくふるまったかと思えば、こうして神のような余裕を見せてくる。
『騎士のこともそんなに気にしてやるな。あいつは君を守ることができて喜んでいると思うがな』
「そんな馬鹿な」
神様の言葉を私は一蹴した。
さすがにそれは頷けない。
きっと、ジェラルドは私のお守りなど嫌になったに違いない。
『馬鹿じゃないさ。もっと頼ってやれ』
「何言ってるの? もう十分頼っているんだけど」
そう返した私に、神様はふぅと一つ息を吐き出した。
『あいつも大変だなぁ……』
「ど、どういうことっ?」
聞き返しても神様は教えてくれなくて、私は一人首をひねった。
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