【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

文字の大きさ
53 / 75
第4章

46・神子様はもやもやする

しおりを挟む

「アオイちゃんに会いたくてちょっと寄っちゃった」

 エルミナさんは茶目っ気たっぷりに笑う。
 麗しの美女の登場に、鍛錬場に残っていた騎士団員が皆見惚れていた。
 こんな、スタイルも良くて話すと可愛らしい美女、視線を奪われて当然だろう。

「エルミナさん、こんにちは」

 ――あれ、なんかほかの団員の人たちがざわついてる?
 
「お、おい、あの人ってあれだろ」

「あ、ああ……団長の……」

 ふと周囲に視線を向けると、私たちの方へ向かって歩いてくるエルミナさんを見つめながら、騎士団員たちが何やらひそひそと話しているようだった。
 
 ……ジェラルドの? 団員の人たちは二人の関係についてなにか知っているのだろうか。
 
「ねぇ、一緒にお散歩でもしない?」

 団員の人たちの話が気になりはするが、エルミナさんに微笑まれるとどうでも良くなってしまった。
 
「それはもちろんです……!」

 
 ◇◇◇◇◇◇
 

 青空の下、エルミナさんと神殿の庭を歩く。
 ジェラルドは、私たちから少し離れてついてきていた。
 中庭には騎士団によって手入れされているらしく、色々な種類の花が咲き誇っていた。
 さきほど水やりがされたばかりのようで、葉や花びらに残った水滴が日の光を浴びてきらきらと輝いている。

 私は隣を歩くエルミナさんをちらりと見た。
 周囲の景色と相まって、まるで絵画のようだ。

 ――こんな美女とお散歩とか……! 眼福すぎる!

「ねぇ、アオイちゃん」
 
 私が幸福な気持ちに浸っていると、エルミナさんが体をこちらに近づけてこそりと耳打ちするように話しかけてきた。

「ジェラルド様とのデートは楽しかった?」

「えっ!」

 なんで知っているのだろう。
 と一瞬思ったけれど、よくよく考えればジェラルドに花畑の場所を教えてくれたのはエルミナさんだ。
 知っていて当然なのだが、まさか直球で聞かれるとは思っていなくて慌ててしまう。
 しかも後ろにはジェラルドもいる。

「……そ、れはまぁ」

 エルミナさんと同じように声を潜めて言うと、エルミナさんは嬉しそうににまにまとしていた。

「よかったぁ」

 まるで自分ごとのように嬉しそうにしてくれるものだから、私まで心が温かくなってしまう。

「……花畑、教えてくれてありがとうございました。すごく綺麗でした」

「気に入ったのなら、自由に使ってちょうだい」

 なんだか、久々にガールズトークをしている気分だ。
 エルミナさんとは年が離れているけど、女友だちと話しているようで落ち着く。
 エルミナさんと楽しく会話しながら中庭を歩いていると、再びちらちらとこちらに向けられる視線を感じた。
 庭の手入れをしていたらしい騎士団員たちだ。

「あれ、リース家のご令嬢じゃないか?」

「いやぁ……美しいなぁ……」

「俺、声かけたいんだけど、いいかなぁ」

「ばっか、お前やめとけって、エルミナ様ってジェラルド団長の元婚約者候補だって話だろ? お前なんか相手にされるわけないから」

「うぅぅ、だよなぁ……」

 ――え。

 ジェラルドの、元婚約者候補……?
 エルミナさんが?
 彼らの言葉にひどく衝撃を受けてしまって、私はつい足を止めてしまう。

「おい、お前たち! 無駄話をしている暇があるなら次の仕事をしろ!」

「す、すみません、団長!!」

 ジェラルドに叱られた団員たちは、慌てた様子で走り去っていく。

「アオイちゃん、あの団員の人たちの話は気にしないでちょうだい。私とジェラルド様はなんでもないから」

 エルミナさんが、気遣うようにそっと私の背を撫でてくれる。
 私はそんなに酷い顔をしているのだろうか。

「そんな青ざめた顔をして……。あなた、ジェラルド様のことが好きなのね」

「……っ!」

 エルミナさんにひそりと言われて、私ははっと顔を上げた。ジェラルドに聞かれてはいないだろうか。

「大丈夫よ。ジェラルド様は向こうにいるし……あの人はこの手のことにてんで疎いから」

 くすりと苦笑しながらエルミナさんは言った。
 確かにジェラルドは団員たちが去っていくのを見送っていて、私たちの方を見ていなかった。

「わたし、は……」

「今度、二人っきりでお茶会でもしましょ? その時私とジェラルド様のことを話すから」

 動揺してしまったせいか、上手く言葉を発せない。
 どうにか頷きを返すと、エルミナさんはほっとした様子で微笑んだ。

「今日は一旦帰るわ。また来るから、それまでこのことは考えないで。私は、あなたとジェラルド様を応援したいの」

 エルミナさんはそう言うとジェラルドのそばに早足で行き、短く何かを話した。
 それから私の方へ手を振ると、エルミナさんは帰って行く。

「それじゃ、またね」

 私がエルミナさんに手を振り返すと、私の近くへジェラルドが戻ってきた。

「アオイ様……? 顔色があまりよくありませんが、大丈夫ですか? 」

「だ、大丈夫……!」

 ジェラルドに心配そうに顔をのぞき込まれて、私は慌てて距離をとった。
 しかし、ジェラルドは納得がいかなかったらしい。私の顔を見て、難しそうな表情をしている。

「日差しが強かったせいもありますかね……。少し涼しいところで休憩しましょうか。」

「……わかった」

 確かに今日はとても天気がいい。
 まだ午前中とはいえ、日差しは確かに強かった。

 日陰へと移動しながら、私は考える。
 エルミナさんに「このことは考えないで」と言われても、どうしても考えてしまうのだ。

 ――私みたいな小娘より、エルミナさんの方がジェラルドには似合ってる。

 エルミナさんがジェラルドの元婚約者候補と聞いて、私は驚くと同時に納得してしまった。
 ジェラルドは私のことを好きだと言ってくれたけれど、私は彼に不釣り合いすぎる。

 ――ああ、嫌だ。

 私は、自分の心にもやもやとした澱んだ感情が居座っているのを感じていた。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】マッチョ大好きマチョ村(松村)さん、異世界転生したらそこは筋肉パラダイスでした!

櫻野くるみ
恋愛
松村香蓮はマッチョが大好きな女子高校生。 しかし、学校には納得できるマッチョがいないことに不満を抱えていた。 細マッチョくらいでは満足できない香蓮は、友人にマッチョ好きを揶揄われ、『松村』をもじって『マチョ村』と呼ばれているのだが、ある日不注意による事故で死んでしまう。 転生した先は異世界だった。 頭をぶつけた衝撃で前世でマチョ村だった記憶を取り戻したカレンだったが、騎士団の寮で働いている彼女のまわりはマッチョだらけで……? 新人騎士の幼馴染みも加わって、マッチョ好きには堪らない筋肉パラダイスに悶絶するマチョ村さんのお話です。 小説家になろう様にも投稿しています。 『文官貴族令嬢は、マッチョな騎士に首ったけ。』がエンジェライト文庫様より電子書籍で配信されています。 こちらもマッチョに惹かれる女の子のハッピーエンドのお話なので、よろしかったら各配信サイトからお願いいたします。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...