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第4章
とある騎士団長の独白⑤(49話・ジェラルド視点)
しおりを挟む「あれ、団長? どうされたんですか?」
客間から出てきた俺の姿を見て、客間の外で守衛していた部下の騎士団員が不思議そうな表情で首を傾げた。
「いや、ちょっとな……。追い出されてしまった」
俺は言いながら、扉の右側に立つ彼とは反対の左側に立つ。
神殿にやってきた兄は、俺の顔を見るなり不愉快そうに顔をしかめた。
兄は昔から、俺に対してずっとそうだった。
城ですれ違えば睨まれた。
俺が剣術大会で優勝すれば「審査員を買収したのか」と愚弄された。
学術発表で特別賞をいただけば、「お前はニコラスの真似が好きだな」とニコラス様のことまで鼻で笑われた。
理由はすべてわかっている。
俺が、なんでも兄より成果を上げてしまったせいだ。
そのせいか、周囲は何故か俺を持ち上げ始めた。
国王と側室の息子――いわゆる庶子であり、王位継承権を持たない俺を。
王位継承権一位は、当然正妃との息子である兄だ。
俺の能力の如何など、王位継承には関係ない。正統な後継者である兄が継ぐべきだ。
しかし、俺を持ち上げて自身もなり上がろうと目論む貴族は数え切れないほどいた。
リース家との婚約話もそのうちの一つだった。
リース家以外にも、複数の貴族が自分の娘を俺の結婚相手に宛がおうとしていた。
俺は王位を継ぐ資格も、兄からそれを奪うつもりもない。
だが、周囲はそれを理解しない。否、理解していたとしても押し付けてくる。
プライドの高い兄は、それが許せなかったらしい。
俺はそれが嫌で耐えられなかったから、ニコラス様からの助言のもと、城から逃げた。
神殿騎士という身分を得て、貴族の世界から離れ、少しは楽になったと思ったはずなのに――。
――?
ふと、客間の空気が変わった気がして、俺は眉をひそめた。
急にずんと重くなったような、そんな気がした。
「何か、おかしくないか?」
隣にそう聞いてみるが、団員は至って普通の様子で変わらず立っている。何か違和感を感じた様子はない。
「え、そうですか? 俺には何も――」
――なんだか、嫌な予感がする。
こういう時の直感というものは当たるものだ。
俺はその自分の直感を信じて、客間の扉を押し開けた。
「アオイ様……!?」
客間の最奥にある、大きな窓ガラスが開いている。
そこから強い風が吹き込み、白いレースのカーテンが大きくはためいていた。
「何をしているんですか!!」
――アオイ様をどうするつもりだ……!
兄が、アオイ様を横抱きに抱えて窓の前に立っている。
嫌な予感が確信に変わるのを俺は感じていた。
叫ぶと同時に、アオイ様を取り返そうと俺はすぐさま駆け出した。
「神子殿を、貰っていくだけさ」
兄は不敵な笑みを浮かべると、身を翻した。
「ではな」
窓から出てすぐに馬車が止められていたようで、アオイ様をキャリッジの中へ放り込んであっという間に走り去っていく。
俺もすぐに追おうと走り出しかけたが、すぐ近くにニコラス様がうずくまっているのに気づいてしまった。
「……っおい、ほかの騎士全員に伝えろ、今すぐ王家の馬車を追い、アオイ様の居場所を割り出せ」
「は……っ!!」
俺の指示を受けて団員が走り去っていくのを視界の端でとらえながら、俺はニコラス様に駆け寄った。うずくまっているニコラス様の近くに膝をつく。
「ニコラス様、ご無事ですか!? 一体何が――」
「ジェラルド……。私の不手際です。申し訳ありません」
ニコラス様は悔しそうに歯噛みしながら、俺が客間を出たあとに何があったかを教えてくれた。
「兄が……、妙な力を?」
扉の外で俺が感じた違和感は、もしやそれだろうか。
兄にそんな特殊な能力はなかったはずだと俺は首を捻る。
しかし、ニコラス様には心当たりがあるようだった。
「あの力は、ルーチェ様のお力です。間違いありません」
「ルーチェ様の……?」
「ここ数日、陛下に謁見した際、妙な気配を感じておりまして調べてはいたのですが、直に力を使っているところを見て確信しました」
ニコラス様は、強大な神の力に対する怯えと、うちから湧き上がる怒りを堪えるように、ぎゅっと自身の腕を握りしめていた。
「陛下が、陛下こそが、ルーチェ様を呪って力を奪っている犯人でしょう」
それは俺の頭を鈍器で殴りつけるほどの衝撃を与えた。
同時に怒りが湧き上がる。
「陛下の目的は恐らく……、神子様のうちにあるお力までをも奪うこと」
――あの人は俺を愚弄するだけに飽き足らず、神までをも愚弄し、挙句アオイ様をさらった。
「……俺が。俺が必ず、アオイ様を取り戻します」
――俺は、アオイ様の騎士だ。彼女を、命を賭して守ると誓ったんだ。
俺は立ち上がると、ニコラス様にそう一言だけ告げた。
そのまま、客間を出て鍛錬場の方へ向かう。
あそこは騎士団の詰所でもある。
騎士たちに指示を出し、騎士団の総力を上げて、必ずお救いしてみせよう。
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