73 / 75
第5章
65・神子の祈り
しおりを挟む「国王様、どうしてここに……」
兵士や神殿騎士たちが探しているはずの人が、どうしてここにいるのだろう。
「お前を探していたのだがな。追っ手がなかなかに多くて、対処に苦労した……」
対処、とはどういうことなのだろうか。
国王様を探していた神殿騎士たちは無事なのだろうか。
「神子様、私の後ろに」
いつの間にか水場から上がってきたらしいニコラスが私のそばに来ていた。
ぐいと腕を引っ張られて、ニコラスの背に隠される形になる。
「陛下! お戻りください……!」
上階から兵士と思われる人が駆け下りてきて、国王様に声をかけた。
だが、国王様が杖をひと振りするだけで、兵士が吹っ飛んでいく。
「……っ」
前に会った時よりも、国王様の感情が荒ぶっているような気がする。
国王様の周囲に黒く澱んだ気配がまとわりついていて、なんだか見ているだけで胸が苦しい。
――これ、もしかして……神様の力に乗っ取られかけてるんじゃ……?
嫌な考えが私の頭を過ぎる。
国王様はゆったりとした足取りで、こちらへゆっくり近づいてくる。
ジェラルドは警戒するように剣を構えていた。私とニコラスを守るように立つ。
「神子よ……。お前のせいで私の計画はめちゃくちゃだ」
「計画……?」
「神の力をもち、神子をそばに置くことで私は誰からも認められる王となるはずだったのに……」
国王様は低く怒りを孕んだ声で言いながら、赤い宝石のついた杖の先端をぱしりと自身の手のひらに打ち付けている。
国王様が酷く苛立っているのが、私にも伝わってきた。
「それがどうだ。お前が逃げたせいで私は、臣下たちから神に手を出した愚王と蔑まれる始末。このままでは私は、王の座から引きずり下ろされるだろう」
「……っ」
「元々、臣下の大半も貴族たちも、ジェラルドを王にしたい連中ばかりだからな。ちょうど良い口実ができたと思っているのだろうよ」
国王様はくつくつと笑っている。
だが、その冷えた瞳からは憤りが感じられた。
私があの森の屋敷から逃げたあと、城でどのように国王様へ事情確認がされたのか、私には分からない。
だけれど、それは国王様の劣等感を余計に刺激する形になったのは想像に難くなかった。
「それは自業自得でしょう。そもそも俺は、玉座になど興味はありません」
ジェラルドが真っ直ぐに国王様へ向かって言い放つ。
あああ……。ジェラルド、それ余計に国王様を怒らせるだけだから。
正直なのはジェラルドのいいところだし、好きなんだけども……。
「……っ、この私が、喉から手が出るほど欲しいものを簡単に手に入れられるくせに……。お前というやつは!!」
案の定、ジェラルドの一言は国王様の逆鱗に触れたらしい。
国王様の纏う黒いオーラが、ぶわっと広がる。
私たちの様子を少し離れて伺っていた騎士や兵士たちが、オーラに弾き飛ばされていく。
――あのオーラって、やばくない!?
『やばいともさ!! あの国王、完全に僕の力に呑まれるぞ!』
どこからか神様の声が聞こえたとほぼ同時、国王様を中心に、ぶわっと強く風が巻き起こった。
私の後ろにあった水辺までが風に煽られて、不自然に波立つ。
「神子殿も、ジェラルドも……。お前たちが私の前にいなければ、こんなに苦しむことはなかったはずだ!」
国王様はジェラルドに向かって横なぎに強く払った。
それだけで、杖から衝撃波のようなものが発生してこちらに向かってくる。
「く……っ」
ジェラルドは咄嗟に剣で衝撃波を受け止めた。
謎の衝撃波に対処出来ているのは、さすがはジェラルドと言うべきか。
だがさすがに厳しそうな様子で、圧されているのが明らかだった。
「ジェラルド……っ!」
国王様は、無茶苦茶に杖を振るっている。
それに対して、ジェラルドは後ろに私たちがいるということもあってか防戦一方だ。
「……っ」
杖から放たれた無数の衝撃波の一つが、ジェラルドの右腕を掠めた。
騎士服がひとすじ破れ、そこからじわりと血が染み出ている。
――嫌だ。
ジェラルドが傷つけられる様を見て、私は何も考えられなくなってしまった。
「どうした、このままだとお前を殺してしまうぞ?」
そう言う国王様だって、口の端から血を垂らしているというのに。ニタリと笑いながら、ジェラルドに向かって杖を向け直す。
――嫌だ。
私は堪えきれなくなって、両手でこめかみを押さえた。
頭がガンガンする。
心臓がばくばくと早鐘を打って、上手く呼吸が出来ない。
――こんなの嫌だ!
腹違いとはいえ兄弟が憎みあったままなんて嫌だし、ジェラルドが傷つけられるのはもっと嫌だ!
あの杖さえ壊せれば……!
『使えばいい。僕の力を』
神様の声が、再び聞こえる。
ただし姿は見えない。
声は、私の体の中から響いてくるようだった。
『君が祈れば、僕は応えよう』
私は神様の言葉に導かれるようにして、強く願う。
「お願い神様! 杖を壊して――!!」
私が叫ぶと同時に、私の胸の奥から杖に向かって白い光が走っていくのがわかった。
光は一直線に国王様の持つ杖へと向かっていく。
やがて白い光は、杖にはまっていた赤い宝石を粉々に打ち砕いた。
「陛下……!」
宝石が砕けるとともに、意識を失ったのか国王様が膝から崩れ落ちる。
「おい! 雨が止んだぞ……!」
「アオイ様、ご無事ですか……!」
上階から響いてくる兵士たちの声とジェラルドがこちらに駆け寄ってくる足音を聞きながら、私は自分の意識が遠くなるのを感じていた。
22
あなたにおすすめの小説
喚ばれてないのに異世界召喚されました~不器用な魔王と身代わり少女~
浅海 景
恋愛
一冊の本をきっかけに異世界へと転移してしまった佑那。本来召喚されて現れるはずの救世主だが、誰からも喚ばれていない佑那は賓客として王宮に留まることになった。異世界に慣れてきたある日、魔王が現れ佑那は攫われてしまう。王女の代わりに攫われたと思い込んだ佑那は恩を返すため、身代わりとして振舞おうとする。不器用な魔王と臆病な少女がすれ違いながらも心を通わせていく物語。
【完結】異世界で勇者になりましたが引きこもります
樹結理(きゆり)
恋愛
突然異世界に召還された平々凡々な女子大生。
勇者になれと言われましたが、嫌なので引きこもらせていただきます。
平凡な女子大生で毎日無気力に過ごしていたけど、バイトの帰り道に突然異世界に召還されちゃった!召還された世界は魔法にドラゴンに、漫画やアニメの世界じゃあるまいし!
影のあるイケメンに助けられ、もふもふ銀狼は超絶イケメンで甘々だし、イケメン王子たちにはからかわれるし。
色んなイケメンに囲まれながら頑張って魔法覚えて戦う、無気力女子大生の成長記録。守りたい大事な人たちが出来るまでのお話。
前半恋愛面少なめです。後半糖度高めになっていきます。
※この作品は小説家になろうで完結済みです
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~
浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。
御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。
「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」
自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。
男装獣師と妖獣ノエル 2~このたび第三騎士団の専属獣師になりました~
百門一新
恋愛
男装の獣師ラビィは『黒大狼のノエル』と暮らしている。彼は、普通の人間には見えない『妖獣』というモノだった。動物と話せる能力を持っている彼女は、幼馴染で副隊長セドリックの兄、総隊長のせいで第三騎士団の専属獣師になることに…!?
「ノエルが他の人にも見えるようになる……?」
総隊長の話を聞いて行動を開始したところ、新たな妖獣との出会いも!
そろそろ我慢もぷっつんしそうな幼馴染の副隊長と、じゃじゃ馬でやんちゃすぎるチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる