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終章
66・私の居場所①
しおりを挟む国王様との一件から一週間が経った。
あの日、国王様の杖を破壊したあと、私は意識を失ってしまった。
目覚めたら次の日の朝になっていて、その後の事情はニコラスたちから聞いた。
私と同時に気を失ったまま国王様は、一週間たった今もまだ目覚めていない。
とりあえずは先王様が、王位を代行しているそうだ。
神様を呪って力を奪ったということもあり、国王様が今後も王権を振るうことをよく思っていないものが王城内に多くいるらしい。
王位の今後について王城では揉めに揉めたと、ニコラスが苦笑しながら教えてくれた。
国王様は結婚されていないので、当然跡継ぎとなる子どももいない。
このまま国王様の意識が戻らないようであれば先王様が復位することになるだろう、とのことだ。
あの大雨は結局、国王様が力に込まれかけていた影響だったそうだ。
杖が壊れ、力が神様に戻ると同時に雨は止んだ。
浸水しかけた街も、現在は次第に元の姿へと戻っていっている。
全ては一応の収束へと向かいつつあった。
そして私は――。
◇◇◇◇◇◇
神殿の地下祭壇で。
私は一人、神様の石像と水辺を挟んで向き合っていた。
水辺の手前に体育座りをして、神様の石像を見上げる。
私が目覚めた翌日の夜に一度現れたきり、神様が私の夢の中や現実の空間に姿を見せることはなくなった。
だが、この地下祭壇は特別なようで、姿は見えないが話はできるようだった。
『本当にいいのか……?』
ぼう、と神様の声が石壁に反射する。
私は神様の言葉に頷いた。
「うん」
『この機会を逃したら、帰れる保証はないんだぞ?』
私の体の中に貯められていた力は、国王様の杖を壊すためにすべてを使った。私の体には、もう神様の力は残っていない。
杖の中に奪われていた神様の力は、無事に神様の元へ戻っていった。
神様が力を取り戻した結果、同化していた私と分離が始まったらしい。
その結果、私が神様の姿を捉えることが出来なくなったそうだ。
まぁ、私は霊力も何もないただの一般人だから当然と言えば当然のことではある。
弱っていても力が戻っても自由に話せなくなるとは、なかなか難儀な神様だ。
『神は、原則人間の人生に関与できない。まだ完全に僕と分離していない今なら、君を元の世界に返してあげられる』
「分かってるよ」
姿は見えないが、声だけで神様が私のことを心配してくれているのが伝わってきた。
一週間前、私の夢に現れた神様は言った。
『僕の力が完全に回復し、近いうちに君と分離してしまうだろう。そうなると君に力を使うことができなくなる。その前に、元の世界に帰るか否かの決断を下してほしい』と。
その答えを告げに来たのが今、というわけだ。
私は、この異世界に残ることに決めた。
これは私の自分勝手な決断なのだと思う。
元の世界に戻らなかったことを、後悔する日が来るかもしれない。
だけど、私はそれでもジェラルドの傍にいたかったのだ。
ニコラスやエミールくん、エルミナさんたちと過ごしたこの国から離れたくない。
『この国のことを、そんなに気に入ってくれたのか』
「……うん。神様と同化していたせいなのかな。この国にも、人にも、愛着が沸いちゃったの」
『それで元の世界を捨てるというのか。君は……』
「呆れてるの? 馬鹿だなって」
いつか、後悔すると思う。
私のこの決断は、育ててくれた親や、友だち、元の世界での暮らしを全て捨てることを意味する。
『いいや。身勝手で愛おしい……僕の神子だ』
神様の声は嬉しそうだった。
姿は見えないが、きっと見えていたら神様は、泣きそうな笑顔をしているに違いない。
『君に、僕の加護を与えよう。この世界で君が幸せに生きられるように』
ふわりと、私の周囲をきらきらとした光が舞った。
祝福するかのような温かな光が、私を包んで消える。
『君はこれからも、僕の神子だよ。僕の姿は見えなくても、たまにはここで僕と話そうじゃないか』
「……ありがと。神様の話し相手くらいにはなってあげるね」
姿が見えなくなって、同化が解除されても、私は忘れない。
この世界の神様が、とても優しくて、でも子どもっぽくて、神様らしくなくて……。だけど、誰よりも人間を愛しているということを。
この神様の存在に励まされたから、ここまで頑張れたということを。
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