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第1章
一方その頃殿下は(sideウィリアム)
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ソフィリアが父親とガーランド屋敷で言い合いをしていたちょうどその頃……。
◇◇◇◇◇◇
「殿下、殿下! お帰りなさい!」
「……ただいま」
夕方になりウィリアムが城の自室に戻ってくると、侍従であるエリオットが部屋の中で待ち構えていた。
「そろそろお戻りになる頃だと思ってましたよ! 紅茶でもいかがですか? 準備できてますよ!」
「じゃあ一杯もらうよ」
「かしこまりました」
返事を返しながら、ウィリアムは着ていた上着を脱いでエリオットに渡す。
するとすぐさまエリオットの大声が飛んできて、ウィリアムは思わず眉を顰めた。
「……ってあー! まったく殿下ったら! こんなに芝なんてつけて! バレたらまた陛下に叱られますよ!」
エリオットはぶつくさと小言を言いながら、ウィリアムの上着をはたいている。
確かにエリオットの言うとおり、金糸の織り込まれた上着には、ところどころ芝が付着しているようだった。
「……わかってるよ」
ウィリアムにとってこの侍従が口うるさいのはいつものことだ。適当に聞き流しながら、ウィリアムは近くに置いてあった椅子に座った。
◇◇◇◇◇◇
「で、どう思われました? 新しい執務補佐官は」
上着を簡単に手入れをし終えた後、紅茶の準備をしながらエリオットがウィリアムに尋ねてきた。
「どうって……別に」
「えー⁉︎ またまたぁ!」
ウィリアムの返答に、エリオットは大袈裟な反応を見せる。
だが、そう言われてもウィリアムは困ってしまう。
この国の王太子として生まれて20年。自分は人に興味を持ったことがないのだから。
他人にも自分にも、興味が湧かない。
だが――。
白いティーカップへなみなみと注がれていく紅茶を眺めながら、ウィリアムはぼんやりと考える。
ウィリアムが思い浮かべていたのは、今日会ったばかりの執務補佐官、ソフィリアのことだった。
(……不思議な子だったな)
まだ芽吹いたばかりの若葉のような、生き生きとしたソフィリアの瞳。
彼女の瞳が自分へと向けられたとき、ウィリアムは一瞬時間が止まったような心地がした。
そういえば最近似たような瞳を見たような気がする。そう思い至ったウィリアムは、ふと記憶を巡らせた。
(そうだ。この間中庭で会った令嬢の瞳に似ているのか)
つい先日中庭で出会った令嬢のことを思いだす。あの日、自分と同じように婚約を破棄されていた令嬢とソフィリアの瞳はそっくりだ。
(あの令嬢は、あの後大丈夫だったんだろうか)
ウィリアムは数日前、婚約者だったブランカの浮気現場を目撃した。ブランカとのことは、正直なるべくしてなったことだった。自分は誰にも興味を持てないのだから、ブランカに愛想をつかされたとしてもしょうがないだろう。
何度も執務室へ押しかけてきては相手をしろと騒ぐブランカに辟易していたウィリアムからしてみれば、向こうも自分に興味をなくしてくれて逆にありがたく思う。
だけれどあの日予想外だったのは、同じ場所で自分と同じように婚約者とトラブルになっている令嬢がいたことだ。
ブランカの浮気相手に肩を押されて倒れかけた令嬢を助けた時。あの時も、ウィリアムは一瞬目が離せなくなった。
ふわふわと揺れるピンクブロンドの髪にシフォンのドレスを身にまとった令嬢を見て、まるでおとぎ話に登場する「妖精」のようだと思った。
「あなたがあの日、妖精姫ちゃんのことを珍しく気にかけていたからこんな面白い事態になっているのにー」
「? どうしてソフィリアの話をしていたのに、中庭で出会った令嬢の話になるんだ?」
中庭での一件の後、ウィリアムは名前も知らぬ妖精のような令嬢に会ったことをエリオットにぽつりと話した。
なんとなく、彼女の瞳が忘れられなかったのだ。
(だけど、ソフィリアと中庭で出会った子は、なんの関係もないだろ?)
本気で不思議に思ったウィリアムは、エリオットに真顔で尋ねる。
対してエリオットは、ウィリアムの反応にぎょっと目を見張った。
「どうしてって……。え⁉︎ 殿下、もしかして気づいていないんですか⁉︎」
「……何を?」
エリオットは一体何を言っているのだろうか。
言葉の意味をつかめずにウィリアムは少し首をひねる。
ウィリアムの様子に呆れたのか、エリオットは片手で額を押さえながら、喉の奥から全ての息を吐き出すようなため息をついていた。
「ッは――……っ。さっすが長年人に興味を持ってこなかった方はわけが違う……。たかが髪型と服装が違うだけだろ? なんで気づいてないんだ? 鈍いとかそういう問題なのか?」
エリオットはすっかり困惑した様子で、顎に手を当てて考え込んでしまった。下を向いたまま、「普通わかるだろ?」とかなんとかぶつぶつと言っている。
だがその声はどんどん小声になっていって、もうウィリアムには聞き取れなくなってしまった。
「どうした?」
ウィリアムが声をかけると、エリオットは俯いていた顔を瞬時にはね上げた。エリオットの顔から困惑の色は消え、逆になぜだか楽しそうに笑っている。
「いーえ! なんでも‼︎」
(なんなんだ?)
ウィリアムからしてみれば、エリオットの反応はまるで自分だけがわかっていないようで面白くは無い。
「こーりゃ面白くなってきたぞ」というエリオットの言葉が聞こえてきたが、ウィリアムは聞こえないふりをすることにした。
◇◇◇◇◇◇
「殿下、殿下! お帰りなさい!」
「……ただいま」
夕方になりウィリアムが城の自室に戻ってくると、侍従であるエリオットが部屋の中で待ち構えていた。
「そろそろお戻りになる頃だと思ってましたよ! 紅茶でもいかがですか? 準備できてますよ!」
「じゃあ一杯もらうよ」
「かしこまりました」
返事を返しながら、ウィリアムは着ていた上着を脱いでエリオットに渡す。
するとすぐさまエリオットの大声が飛んできて、ウィリアムは思わず眉を顰めた。
「……ってあー! まったく殿下ったら! こんなに芝なんてつけて! バレたらまた陛下に叱られますよ!」
エリオットはぶつくさと小言を言いながら、ウィリアムの上着をはたいている。
確かにエリオットの言うとおり、金糸の織り込まれた上着には、ところどころ芝が付着しているようだった。
「……わかってるよ」
ウィリアムにとってこの侍従が口うるさいのはいつものことだ。適当に聞き流しながら、ウィリアムは近くに置いてあった椅子に座った。
◇◇◇◇◇◇
「で、どう思われました? 新しい執務補佐官は」
上着を簡単に手入れをし終えた後、紅茶の準備をしながらエリオットがウィリアムに尋ねてきた。
「どうって……別に」
「えー⁉︎ またまたぁ!」
ウィリアムの返答に、エリオットは大袈裟な反応を見せる。
だが、そう言われてもウィリアムは困ってしまう。
この国の王太子として生まれて20年。自分は人に興味を持ったことがないのだから。
他人にも自分にも、興味が湧かない。
だが――。
白いティーカップへなみなみと注がれていく紅茶を眺めながら、ウィリアムはぼんやりと考える。
ウィリアムが思い浮かべていたのは、今日会ったばかりの執務補佐官、ソフィリアのことだった。
(……不思議な子だったな)
まだ芽吹いたばかりの若葉のような、生き生きとしたソフィリアの瞳。
彼女の瞳が自分へと向けられたとき、ウィリアムは一瞬時間が止まったような心地がした。
そういえば最近似たような瞳を見たような気がする。そう思い至ったウィリアムは、ふと記憶を巡らせた。
(そうだ。この間中庭で会った令嬢の瞳に似ているのか)
つい先日中庭で出会った令嬢のことを思いだす。あの日、自分と同じように婚約を破棄されていた令嬢とソフィリアの瞳はそっくりだ。
(あの令嬢は、あの後大丈夫だったんだろうか)
ウィリアムは数日前、婚約者だったブランカの浮気現場を目撃した。ブランカとのことは、正直なるべくしてなったことだった。自分は誰にも興味を持てないのだから、ブランカに愛想をつかされたとしてもしょうがないだろう。
何度も執務室へ押しかけてきては相手をしろと騒ぐブランカに辟易していたウィリアムからしてみれば、向こうも自分に興味をなくしてくれて逆にありがたく思う。
だけれどあの日予想外だったのは、同じ場所で自分と同じように婚約者とトラブルになっている令嬢がいたことだ。
ブランカの浮気相手に肩を押されて倒れかけた令嬢を助けた時。あの時も、ウィリアムは一瞬目が離せなくなった。
ふわふわと揺れるピンクブロンドの髪にシフォンのドレスを身にまとった令嬢を見て、まるでおとぎ話に登場する「妖精」のようだと思った。
「あなたがあの日、妖精姫ちゃんのことを珍しく気にかけていたからこんな面白い事態になっているのにー」
「? どうしてソフィリアの話をしていたのに、中庭で出会った令嬢の話になるんだ?」
中庭での一件の後、ウィリアムは名前も知らぬ妖精のような令嬢に会ったことをエリオットにぽつりと話した。
なんとなく、彼女の瞳が忘れられなかったのだ。
(だけど、ソフィリアと中庭で出会った子は、なんの関係もないだろ?)
本気で不思議に思ったウィリアムは、エリオットに真顔で尋ねる。
対してエリオットは、ウィリアムの反応にぎょっと目を見張った。
「どうしてって……。え⁉︎ 殿下、もしかして気づいていないんですか⁉︎」
「……何を?」
エリオットは一体何を言っているのだろうか。
言葉の意味をつかめずにウィリアムは少し首をひねる。
ウィリアムの様子に呆れたのか、エリオットは片手で額を押さえながら、喉の奥から全ての息を吐き出すようなため息をついていた。
「ッは――……っ。さっすが長年人に興味を持ってこなかった方はわけが違う……。たかが髪型と服装が違うだけだろ? なんで気づいてないんだ? 鈍いとかそういう問題なのか?」
エリオットはすっかり困惑した様子で、顎に手を当てて考え込んでしまった。下を向いたまま、「普通わかるだろ?」とかなんとかぶつぶつと言っている。
だがその声はどんどん小声になっていって、もうウィリアムには聞き取れなくなってしまった。
「どうした?」
ウィリアムが声をかけると、エリオットは俯いていた顔を瞬時にはね上げた。エリオットの顔から困惑の色は消え、逆になぜだか楽しそうに笑っている。
「いーえ! なんでも‼︎」
(なんなんだ?)
ウィリアムからしてみれば、エリオットの反応はまるで自分だけがわかっていないようで面白くは無い。
「こーりゃ面白くなってきたぞ」というエリオットの言葉が聞こえてきたが、ウィリアムは聞こえないふりをすることにした。
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