ステージの裏側

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

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「「アクセラレーター起動」」

 戦闘型キメラノイドの動きが、目に見えて速くなっていく。

「どうしたんだ、これは?二人がかりでも押さえきれない」
「何なんだ?速度もパワーも倍近いぞ」

 実際には速度の増加に伴うパワーのアップであるが、その差に意味はない。
 五対三で優位な筈のニューフェイス側が完全に押されている。
 高速で力強いキメラノイドの攻撃に、ろくな受け流しも回避もできずに、ニューフェイス達は一方的に攻撃を浴びはじめた。

 マスコミ用に透明にしてあるニューフェイスのヘルメットバイザー越しに、苦汁の表情が浮かぶ。
 対してキメラノイド側は形状が特殊な上にスモークがかかっているので表情がつかめない。

 徐々に形勢は逆転していく。
 援護に飛び込んだレッドはスーツのアーマーが幾つか吹き飛んでアンダースーツが見えている状態だ。
 レッドに参戦してもらったブラックは、脚を撃ち抜かれて出血している。

「レッド、気を付けろ!コイツ等、徹甲弾まで隠し持っていやがった」
「道理で銃口が二つ必要な訳か。しかし、あのサイズでは・・・」

 徹甲弾は強力な弾丸だが、ソレを撃つ銃の負担も大きい。
 強固に作られたライフル系の銃でも連射が躊躇ためらわれる弾丸だが、キメラノイドの右手に埋め込まれた銃のサイズでは、一発でもバレルやハンマーが傷むだろう。

 周りを見れば、殆どのニューフェイスが弾丸を撃ち込まれたり、アーマーが剥がれ落ちて骨折や流血状態だ。
 辛うじて、遠距離攻撃のみのプルーが無キズに近いが、銃弾の痕は見えるので内部は出血しているのだろう。

「だけど、相手も無傷って訳じゃないみたいよ」

 ブルーの指摘に観察を深めると、青竜刀の根元からは血が滴っていた。
 威力が増した分だけ、生体部分への負荷も大きいのだろう。

 フィクションの物語りには有りがちな点だが、強靭なパワーや動きをする主人公に、特別あつらえでない服や靴が耐えきっているものがある。
 特に靴は岩をも砕くパワーの反動を受けても、隕石並みの着地の衝撃を受けてもびくともしない描写など、滑稽でしかない。
 超常的な魔法かバリアの様な物でもない限り、アメコミのハルクの様に全裸に近くなるのが【当然】なのだ。

 同様に、どんなに肉体を鍛え上げても、外部的補助で剛力を得ても、生物の細胞としての強度は増す事はない。
 生身の部分は、全身が強くなっただけ、細部が耐えきれないのだ。
 過度なバットの素振り練習が血マメをつくる様に、それは肉体を破壊する。
 長期的に肉体は、タコを作って対応するが、ソレは前もって幾つかの細胞を犠牲にした行為でしかない。

「持久戦に持ち込めば、活路が開けるかも」
「そんな悠長な事は言ってられんだろう」

 こうしてニューフェイス達が戦っている間にも、遊園地の外壁側では、女性や子供が殺されていくのだから。



 このニューフェイスとネフィリムの戦いを、当初よりリアルタイムWeb配信している男が居た。

「ニューフェイスの皆さんは、人質だった我々を助ける為に、あの様な苦戦を強いられているのです(弱すぎるぞニューフェイス)」

 時勢柄、ニューフェイスにネガティブな配信は評価が低いので、彼も心にもないコメントを挟んでいる。

 子供や親子連ればかりの人質の中で、一人だけ20代前半の単身者である彼は、比較的有名なネット配信者ライバーだ。
 この遊園地にネフィリムが現れるとの謎メールに、半信半疑で訪れて、偶然(?)人質になっていた。
 望遠マイクでニューフェイスとネフィリムの会話も、ある程度は配信中だ。

「(ヤベエぜ!アクセスが爆上り中だぜ)」

 ユーザーは勿論、噂を聞いた者や情報を聞き付けた警察も、現場の状況を知る為にアクセスをしていた。
 かなりの流血も映っているが、配信を止めさせると状況が掴めなくなるので、警察からのゴリ押しがあったのだ。
 現場の警察官は、犬系キメラノイドに追われていて、現状報告どころではなかったのだから。

「御覧ください!怪物達はニューフェイスを釘付けにして、その間にも市民を惨殺しているのです」

 カメラはニューフェイスだけではなく、外壁側で殺されている来客達も写し出した。

「一般の警察では相手にならない上に、たった五人のニューフェイスでは日本の未来は守れないのでしょうか?」

 ニューフェイス計画にポジティブな報道をすれば、スポンサーが増えるというという噂もあるので、彼は心にもないコメントを入れてみる。
 リアルタイムWeb配信と言えど、そのコメントがフェイクでないとは限らないのだ。

『こんなんじゃ、ニューフェイスにミサイルとか持たせた方が良いんじゃないか?』
『警察も、なんとかならないのか?』
『ニューフェイスってメチャメチャ強いって訳でもないのね?』
『ネフィリムとかって、今回は総勢50体くらい来てるんだろ?五人で相手しろって無理ゲーじゃね?』

 配信に書き込まれる一般の反応も、様々だ。この反応も、コメント同様にフェイク書込みではないとは言えないが。

 また、配信はニュース番組でも特報としてとりあげられ、この配信のお陰で、周辺部で行われている虐殺にニューフェイスが駆け付けられない免罪符ともなっていた。

 今までは、編集された映像しかマスコミには流されていなかったが、ニューフェイスが苦戦する場面や、周辺部の人質が殺される場面を見て、ニューフェイスの人数不足と身の危険を感じた者は、急激に増えていく。
 また、自分や子供を、怪物に簡単にはやられないニューフェイスに成りたい、したいと思う者の増加率も加速していった。



 この配信視聴者の一人に、【不知火しらぬい 幸子さちこ】が居た。
 ニューフェイスの一人、不知火 亜美の母親であり、亜美の父親【不知火 玄馬げんま】の妻である。

「何をしてるのよ!もっと撃ち込みなさいよ!そんな娘は殺してしまうのよ」

 不知火 玄馬とは、彼が大学助教授時代の師弟関係から始まった仲で、彼女もAI関係の博士号を持っている。
 元々は遺伝子組み換えに賛同していなかった彼女だが、夫の玄馬がニューフェイス計画に加わった為に、半強制的に遺伝子組み換え人間の母親にされたのだ。
 当然だが、亜美の事を快く思っておらず、夫とも別居生活が続いている。

「幸子さん、そう感情をむき出しになさらないで。少なくとも貴女の娘なんでしょう?」
「あなた達がしっかりしないから、こんな奴等がのさばってるのよ!何の為に出資してると思ってるの?少しはこのバケモノを見習って成果を出しなさいよ」

 旧姓【渡瀬 幸子】は、玄馬と結婚した事により、【不知火幸子】【不幸】になってしまった様だ。
 全ての母親が子供を愛していると言うのは幻想で、母性本能より理性や自尊心が勝る場合も現実には少なくないのである。

 元より、『本能より理性が優先する』のが【人間】という生物の筈なのだから。 

「そもそも、本当に私の子かも怪しいのよ!遺伝子操作して体外受精したとか、すり替え放題じゃない」

 彼女や夫の専門はバイオテクノロジーではないし、処置の一部始終を見れる訳でもない。
 性行為をして膨らむ腹を見れば納得でもするが、実際に彼女を妊娠させたのは、遺伝子操作された受精卵を彼女の子宮に再着床させた細い管と言うのが現実だ。

「もっと、亜美がやられる所を映してよ。早く消し去ってしまうのよ」

 彼女が別居しても離婚しないのは、ニューフェイスの母親という嫌な物をのこしてでも、ソレから得られる利益を捨てきれない利己的な点にあった。
 ただ、それには【亜美自身】が生きている必要性は必ずしも無いのだから。
 実は、そんな利己的な母親は、彼女だけでは無いのかもしれなかったが。

「我々も、政界や財界、起業家に手を回してはいるんですよ。ただ、我々に協力した人が病死や事故死する例が多くてですね。企業も業績不振になるのが増えてるんです」
「そんなの、明らかにニューフェイス側の仕業じゃないの!陰謀として騒げば打撃を与えられるわ」
「ニューフェイス計画は国の政策ですよ。反対派なんて共通点を公表できるわけないでしょ?母親である幸子さん自身が反対派だと公表しますか?」
「それは困るわよ!離婚の上に収入も無くなるわ」
「でしょ?」

 幸子をはじめニューフェイスの親達には、テレビ出演などの副収入もある。
 彼女は完全な裏表活動をしているのだ。
 その裏側で彼女が支援している【反ニューフェイス団体】は、主に宗教団体やナチュラリストなどの集りである。
 神仏という絶対者の加護を受けていいのは現在の人間で信者だけという、彼等の理念を根本から揺るがすニューフェイスの存在は、実質的に容認できるものではない。

「だったら、あのバケモノとかに協力しなさいよ」
「それだと、亜美さんだけを集中的にってのも難しいし、彼等の狙いには日本人である我々も含まれるんでしょ?」

 幸子は、あからさまに顔を歪めた。

「これだから視野の狭い馬鹿は嫌なのよ。ネフィリムは他の国でも『お前達の国を』って言ってるじゃない。つまりは金で動く傭兵部隊よ。札束で殴れば言うことを聴くわよ」

 彼女の見立ては【当たらずも遠からじ】だった。
 ネフィリムに襲われている国は、世界中に存在していたのだ。

「特にネフィリムって奴等は宗教団体や国家を目のかたきにしていますし、彼等の存在自体が我々の主義に反します。他の支援者達が許しませんよ」

 実際には、コンサート会場やイベントも襲われているのだが、定期的に行われる宗教団体のミサや集会は、襲いやすいと言える。
 いや、宗教団体を嫌っているのはニューフェイス開発者達も同様なのかも知れないが。

「本当に、みんな使えないわねぇ」
「・・・・・・(一番使えないのは、このババアだよ)」

 反ニューフェイス派の崩壊も、どうやら加速している様である。
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