病弱令嬢の戦略

二合 富由美(ふあい ふゆみ)

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29 王家の社交界

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 国王主催の社交界は参加できる者が限られる。
 普通に考えれば王族アーバン公爵バルド、行政や軍備に関わるトップの人間と特別に招待された功労者のみだ。

 家族単位で来ても二十組にも満たないが、このパーティ会場には百名以上の者が入室している。
 それは先に挙げた者達に加えて、護衛や側仕え達が居るからだ。

「ノウルの令嬢が無事に到着したらしいな」
「リゼートは本当に使えない血筋でしたな。暗殺一つできないとは」

 ノウル以外の三つのバルドのいずれかは分からないが、小声でそんな会話が交わされていた。

「預かっていた娘も、貸し出していた金も無駄になってしまったか」
「他のバルドを影から操って勢力を拡大する計画も、目を付けられましたから頓挫してしまいましたね」
「あくまで幾つもの策の一つにすぎん。王子と縁組みに花を添える程度のものしかないのだよ」

 成人前の子女を人質として預かり、主従関係や金の貸し借りの担保とする事は、成人後に戸籍登録をする社会では可能だ。
 未成年を奴隷として売買するのは、平民の間でも口減らしとして行われている。
 まだ人質の方が、健康に育てられて取り返すのが可能となるだけマシだろう。
 一夫多妻制の貴族では、妻達が別々に屋敷を与えられ子供も隠されて育てられる為に、成人以前の子供の存在は父親以外には身内でも不確かとなるのだ。

「確か、あそこの息子は妹の事を知らないのだろう?奴隷にでも売り飛ばすか?」

 存在を知る者の居ない人質に価値は無い。
 誰もが「そんな妹は知らない」と言われれば、身内であっても愛情がわかず人質とは言えなくなる。

「確か、侍従長が知っている筈でございますよ。連絡をとって借款だけでも回収したいものでございます」
「お前も面識があったな。借款は証書も有るし後は任せる」
「御意のままに」

 秘密のはかりごとは、知る者が少ない方が良いが、唯一無二では身動きが取れなくなる事がある。
  暗殺を企てた某リゼート家では、ソライトの他には侍従長が嫌々関わっていた。

 借金は肩替りできるが、人質は肩替りなどできない。
 人質は、裏切り防止の策と言えた。

「おや?そのノウル嬢がお出ましの様ですよ」
「あれが・・・・・っ、何だアノ髪色は?」

 バルドの衣装は、基本色が国によって定められており、勝手に決める事はできない。
 側仕え達はグレーで統一され、所属する派閥の色をワンポイントで入れている。
 他には王族アーバンに属する者は黒い衣装となっているくらいだ。
 これは、主達を目立たせる目的と、入り乱れる会場で所属を明確にする為だ。

 対してバルドや子女は基本色を中心にしており華やかだが、それでも同色で群れていると個々が目立たない。
 なので、アクセサリーなどで個々が飾る為に色とりどりになる傾向がある。
 貴族の一夫多妻制の為に同い歳の娘が複数居る事もまれではなく、お互いに目立とうとしている。

 そんな中でエリーシアがとったのは、金髪に家色である【黄色】に近い【オレンジ色】のヘアピースを多数着ける行為だ。

 王族は美しい金髪を愛でて遺伝子に組み込んだ。
 それに準じる者も、王族に近しい証しとして金髪を好み、他の髪色の子供が産まれれば廃嫡はいちゃくにするほどだった。
 側仕えや護衛の中にも金髪は居るが、この場においてはスカーフなどで隠す習わしとなっている。

 エリーシアも見事な金髪なのだが、並び立つ金髪の中に別の色が有れば目立つ。
 通常ならば忌むべき行為だが、そこに家色を用いれば文句の付けようがない。
 更には、【赤毛】や【茶髪】は存在するが、オレンジ色の髪など無いので【髪飾り】と言い切る事ができる。

「あの手がございましたわね?」
「でも、ノウルの真似とそしられませんかしら?」
「良い案ですが、他を考えなくてはなりませんわ」

 周りの女性陣も驚いているが、こういった物は人前で先にやった者勝ちと言える。

 そして、プライドのある貴族は【ライバルの物真似】と謗られるのを嫌うのだ。

 バルド四家が揃った所で、主催の王族が上座に登場した。

 先に語った様に、社交界は嫁や婿の品定めの場であり、多くの場合は上下関係だけでなく、横の関係での婚姻も有る。
 だが、結託を禁じられているバルド達が参加する国王主催の社交界では、王族アーバンとバルドの婚姻に限られるのだ。

 主催者である国王の他には、成人した王子と独身の姫達が参列する。
 王子が独身限定されないのは、側室を選ぶ必要性があるからだった。

「国王陛下におかれましては、本日も御機嫌麗しく、皇太子殿下も御健勝でなによりでございます。また、王子と姫君におかれましても・・・」

 国王と皇太子には成人の儀で謁見しているが、他の王子と姫が居るので、再び長い挨拶と共に成人子女の紹介が始まる。
 その順番は権力の順とも言え、侍従長同士が話し合ってはいるが、今回は皇太子との婚約が決まっているサズスが筆頭になっていた。

「サズスはカスターラ帝国の件がありますからな」
「現王妃がイスタ出身ですから、イスタから正妻を迎える事はできますまいよ」

 大臣達が小声で勢力図を語り出す。

 皇太子の人間関係はイスタの姫君と親しいのだが、権力者の婚姻は恋愛とは別物として扱わなくてはならないのだ。

「しかし、王族の視線はエリーシア嬢から離れませんな?」
「バルド・ノウル唯一の子女ですから側室にもできませんし、王子達も養子先が決まっているのでしょう?心配には及びませんよ」
「それもそうですな」

 そして、最後にノウルのバルドであるエリーシアが紹介される。

「病弱と聞いていましたが、無事に御成人されたのですね?」

 第二王子のサルーヌが声をかけてきた。
 彼は次世代の宰相となるので、各バルドの存続は他人ごとではないのだ。

「御心配をお掛けして、面目次第もございませんでした」

 父親であるフェラルドが返事をして、エリーシアが無言でカーテシーをする。
 中世西洋では頭を下げる挨拶は無く、下位の男性は膝を付き女性はドレスの両端を詰まんで膝を少し曲げるカーテシーが主流だ。
 そして、女性はお喋りより無口が男性に好まれる。

 それ以上は特に会話も無く、ダンスが始まるが、下手に好奇心でダンスの申し込みはできない。
 美人だから権力者だからとダンスを申し込めば、後で派閥や関係者からと嫌がらせや圧力が掛かるのだ。
 また、変な噂が立っては困ると、身内からもネチネチ言われる。
 だから、既に婚約や養子縁組のできているカップルや身内のみの組み合わせでしか踊れない。

 シンデレラの様に誰とも分からない者や、関係性の無い者とのダンスは現実には起こらないのだった。

 あれは、無知な庶民や下級階層の者に希望を持たせて、反乱を起こさない様にする為の意識誘導、プロパガンダでしかない。

 頑張れば、美しさを磨けば出世できたり玉の輿に乗れると思わせれば、良いように使える道具になるし、妾や性奴隷にしやすいからだ。
 シンデレラシンドロームや英雄願望は、とんだ道化という訳だ。

 貴族の階級は血筋以外には無いのだから。
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