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二章
18、浜辺へお散歩【2】
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ぼくが見てるのは、つつじみたいな色で一重咲きの薔薇みたいなきれいな花やった。
「これはハマナス。薔薇の仲間ですよ」
母さんは花を指さして教えてくれた。
こんな時にと用意しておいた鉛筆と紙に、花や葉の絵と、どんな色かを書いていく。
ほんまは花やら草やらを摘んで帰ったらええんかもしれへんけど。
押し葉や押し花にするための道具があらへんから、きっと帰った頃にはしおしおに萎れとう。
「こたにいっ」
突然、欧之丞の声がした。それも、とびきり明るい声や。
「どないしたん」
「ほーせき、見つけた。きらきらっ」
「ほーせき? ああ、宝石か」
翡翠とか瑪瑙とかが見つかる海岸もあるらしいけど。ここでは、そんなん聞いたこともない。
どうせ、素敵な石でも見つけたんやろと思って、ぼくは欧之丞が差し出す手を覗きこんだ。
「うわっ。なに、これ。きれいやん」
「ほーせきだから」
ぼくらはその小さくて薄っぺらい石みたいなのから、目が離されへんかった。
水色と茶色のがあって、透明やのに、外側は砂糖をまぶしたように見える。
琥珀羹を薄くしたみたいな見た目や。
「飴やろか?」
「だれかが落としたのかな。でも、こんなにあついのに、とけてないよ」
欧之丞は、その平べったい飴みたいなんをじーっと見つめとった。
「はい、あげる」
「え? くれるん。こんなに綺麗やのに」
「うん。食べて」
へ? 今、なんて言うた?
冗談やろかと思て、ぼくは欧之丞の反応を待ったけど。あろうことか「こたにい、あまいの好きだもん」と言われてしもた。
「なぁ、これほんまに飴なん?」
「こたにいが、あめって言った」
「いや、ぼくは飴やろか、って言うただけで」
欧之丞は膝を揃えてしゃがみこんで、やっぱり目をきらきらさせとう。
「俺、あまいの苦手だから。さぁ、どうぞ」
え? ちょっと待とか。もしかして、ほんまに心からの親切心やねんな?
どうしよ。こんなんぜったいに飴とちゃうし。そもそも落ちとうもんは食べたらあかんねんで。
にこにこにこ。
欧之丞は、ぼく嬉しそうに眺めとう。
困った。ほんまに困った。
その時、ふわりとラヴェンダーの香りがした。
「母さんっ。これあげるっ」
ぼくは、青い空の下でくるくると回る白い日傘に声を掛けた。
ごめん、母さん。ぼくには無理や。なんとかして。
いくら大人びとて褒められても、しょせんは五歳やねん。
欧之丞の優しい気持ちを傷つけずに、いらんって言われへん。
「絲おばさん。それ、あめなんだって。たべて」
「あら、綺麗ね」
母さんのてのひらに、その綺麗なのんを載せる時、胸がバクバクした。
うう、母さんは大人なんやから何とかして。
ぼくは、ええ子でおりたいんや。卑怯者と思われても、ええ子でいたいんや。
「ありがとう」と言いながら、母さんは静かに微笑んだ。そして「いただきます」とまで言うたんや。
しなやかな白い手が、口許へと動く。
「ちょ、あかんやん。母さん。落ちとうもんを食べたら」
ぼくは焦って、母さんに飛びついた。
「口あけて。ぺっ、ってして」
「大丈夫ですよ」
母さんは楽しそうな笑みを浮かべると、てのひらを開いて見せた。
そこには、さっきの平たい綺麗なのが載っていた。
「食べたんとちゃうん?」
「これは波と石に磨かれたガラスですからね。食べられませんよ。それに落ちてるものは食べてはだめでしょ?」
がくっと力が抜けて、ぼくは砂浜に膝と手をついた。
なんやねん。父さんならともかく、母さんが人を騙すようなことをするとか思わへんやん。
「もーっ、ほんまに食べたかと思て心配したのにっ」
「こたにいは、心配性だな」
「欧之丞っ。お前のせいや」
そしてお決まりの口喧嘩が始まった。
「これはハマナス。薔薇の仲間ですよ」
母さんは花を指さして教えてくれた。
こんな時にと用意しておいた鉛筆と紙に、花や葉の絵と、どんな色かを書いていく。
ほんまは花やら草やらを摘んで帰ったらええんかもしれへんけど。
押し葉や押し花にするための道具があらへんから、きっと帰った頃にはしおしおに萎れとう。
「こたにいっ」
突然、欧之丞の声がした。それも、とびきり明るい声や。
「どないしたん」
「ほーせき、見つけた。きらきらっ」
「ほーせき? ああ、宝石か」
翡翠とか瑪瑙とかが見つかる海岸もあるらしいけど。ここでは、そんなん聞いたこともない。
どうせ、素敵な石でも見つけたんやろと思って、ぼくは欧之丞が差し出す手を覗きこんだ。
「うわっ。なに、これ。きれいやん」
「ほーせきだから」
ぼくらはその小さくて薄っぺらい石みたいなのから、目が離されへんかった。
水色と茶色のがあって、透明やのに、外側は砂糖をまぶしたように見える。
琥珀羹を薄くしたみたいな見た目や。
「飴やろか?」
「だれかが落としたのかな。でも、こんなにあついのに、とけてないよ」
欧之丞は、その平べったい飴みたいなんをじーっと見つめとった。
「はい、あげる」
「え? くれるん。こんなに綺麗やのに」
「うん。食べて」
へ? 今、なんて言うた?
冗談やろかと思て、ぼくは欧之丞の反応を待ったけど。あろうことか「こたにい、あまいの好きだもん」と言われてしもた。
「なぁ、これほんまに飴なん?」
「こたにいが、あめって言った」
「いや、ぼくは飴やろか、って言うただけで」
欧之丞は膝を揃えてしゃがみこんで、やっぱり目をきらきらさせとう。
「俺、あまいの苦手だから。さぁ、どうぞ」
え? ちょっと待とか。もしかして、ほんまに心からの親切心やねんな?
どうしよ。こんなんぜったいに飴とちゃうし。そもそも落ちとうもんは食べたらあかんねんで。
にこにこにこ。
欧之丞は、ぼく嬉しそうに眺めとう。
困った。ほんまに困った。
その時、ふわりとラヴェンダーの香りがした。
「母さんっ。これあげるっ」
ぼくは、青い空の下でくるくると回る白い日傘に声を掛けた。
ごめん、母さん。ぼくには無理や。なんとかして。
いくら大人びとて褒められても、しょせんは五歳やねん。
欧之丞の優しい気持ちを傷つけずに、いらんって言われへん。
「絲おばさん。それ、あめなんだって。たべて」
「あら、綺麗ね」
母さんのてのひらに、その綺麗なのんを載せる時、胸がバクバクした。
うう、母さんは大人なんやから何とかして。
ぼくは、ええ子でおりたいんや。卑怯者と思われても、ええ子でいたいんや。
「ありがとう」と言いながら、母さんは静かに微笑んだ。そして「いただきます」とまで言うたんや。
しなやかな白い手が、口許へと動く。
「ちょ、あかんやん。母さん。落ちとうもんを食べたら」
ぼくは焦って、母さんに飛びついた。
「口あけて。ぺっ、ってして」
「大丈夫ですよ」
母さんは楽しそうな笑みを浮かべると、てのひらを開いて見せた。
そこには、さっきの平たい綺麗なのが載っていた。
「食べたんとちゃうん?」
「これは波と石に磨かれたガラスですからね。食べられませんよ。それに落ちてるものは食べてはだめでしょ?」
がくっと力が抜けて、ぼくは砂浜に膝と手をついた。
なんやねん。父さんならともかく、母さんが人を騙すようなことをするとか思わへんやん。
「もーっ、ほんまに食べたかと思て心配したのにっ」
「こたにいは、心配性だな」
「欧之丞っ。お前のせいや」
そしてお決まりの口喧嘩が始まった。
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