98 / 153
七章
18、脅迫ですけど
しおりを挟む
アフタルは、おろおろと視線をさまよわせている。
鏡がないので、自分の鎖骨をうまく見ることはできないようだが。
それでも、肌に残る痛みから赤い痕が残っていることを察している。
「困ります……こんなの」
「侍女に着替えさせてもらっているのか?」
「いえ、そうではありませんけど」
「じゃあ、風呂に入った時に侍女に体を洗ってもらっているのか?」
「自分で洗っています。子どもじゃないんですから」
口を尖らせて反論するが、やはり鎖骨の辺りが気になるようだ。
デコルテの開いたドレスは、当分着ることはできないだろう。
まぁ、夜会なんぞ開ける状態でもないから、これは問題なしとしよう。
「じゃあ、別にいいじゃねぇか」
「……でも、入浴後の香油はつけてもらっています」
「自分でつけりゃいいだろ」
「一度、香油をこぼしてしまって。部屋がとんでもない匂いになってしまったんです。それ以来、任せてもらえません」
「あらまー」
からかう口調で言うと、恨みがましい瞳で睨まれた。
でも、今さら痣を消すことなんかできやしない。
「よし、分かった。俺にもつけていいぜ。それで、おあいこだろ?」
「おあいこって、全然平等じゃないです。わたくしがつけるんでしょう?」
「それじゃあ、他の奴に頼もうか? ミーリャとか?」
提案すると、アフタルは明らかに動揺した。胸元は開いたままで、襟のボタンを留めようともしない。
「俺は、アフタル以外は嫌だぜ」
「わたくしもです」
「なら、交渉成立だな」
シャールーズはにやっと笑った。自分の襟元を広げ、鎖骨の辺りを指さす。
「すぐに放すなよ。あと、力が弱いと痕がつかない。ちゃんと痕を残すまで、何度でもさせるからな」
「脅迫ですよ、こんなの」
「脅迫ですけど、なにか?」
いつまでもこうして二人で軽口をたたいていたい。
けれど時間は有限だ。だからこそ、こんなバカなやりとりが愛おしくてしょうがない。
愛している、アフタル。お前だけが俺のすべてだ。
戸惑いながらも、アフタルが唇を寄せてくる。
ぴりっとした痛みが走った。初めての感覚だ。
今日もジャスミンの香りがする。
甘くて懐かしくて、涙が出そうになる。
アフタルは色んなことを教えてくれた。香りも味も、酒を飲むと人は変わることも。
そして恋をすると、こんなにも切ないということも。
彼女と出会わなければ、何一つ知らなかったことだ。
だから勘違いしそうになる。アフタルと一緒ならば、自分も人になれるのではないか……と。
「……これで、いいですか?」
アフタルが上目遣いに見上げてくる。
それくらいで解放するわけないだろ。
シャールーズは、アフタルと唇を重ねた。
鏡がないので、自分の鎖骨をうまく見ることはできないようだが。
それでも、肌に残る痛みから赤い痕が残っていることを察している。
「困ります……こんなの」
「侍女に着替えさせてもらっているのか?」
「いえ、そうではありませんけど」
「じゃあ、風呂に入った時に侍女に体を洗ってもらっているのか?」
「自分で洗っています。子どもじゃないんですから」
口を尖らせて反論するが、やはり鎖骨の辺りが気になるようだ。
デコルテの開いたドレスは、当分着ることはできないだろう。
まぁ、夜会なんぞ開ける状態でもないから、これは問題なしとしよう。
「じゃあ、別にいいじゃねぇか」
「……でも、入浴後の香油はつけてもらっています」
「自分でつけりゃいいだろ」
「一度、香油をこぼしてしまって。部屋がとんでもない匂いになってしまったんです。それ以来、任せてもらえません」
「あらまー」
からかう口調で言うと、恨みがましい瞳で睨まれた。
でも、今さら痣を消すことなんかできやしない。
「よし、分かった。俺にもつけていいぜ。それで、おあいこだろ?」
「おあいこって、全然平等じゃないです。わたくしがつけるんでしょう?」
「それじゃあ、他の奴に頼もうか? ミーリャとか?」
提案すると、アフタルは明らかに動揺した。胸元は開いたままで、襟のボタンを留めようともしない。
「俺は、アフタル以外は嫌だぜ」
「わたくしもです」
「なら、交渉成立だな」
シャールーズはにやっと笑った。自分の襟元を広げ、鎖骨の辺りを指さす。
「すぐに放すなよ。あと、力が弱いと痕がつかない。ちゃんと痕を残すまで、何度でもさせるからな」
「脅迫ですよ、こんなの」
「脅迫ですけど、なにか?」
いつまでもこうして二人で軽口をたたいていたい。
けれど時間は有限だ。だからこそ、こんなバカなやりとりが愛おしくてしょうがない。
愛している、アフタル。お前だけが俺のすべてだ。
戸惑いながらも、アフタルが唇を寄せてくる。
ぴりっとした痛みが走った。初めての感覚だ。
今日もジャスミンの香りがする。
甘くて懐かしくて、涙が出そうになる。
アフタルは色んなことを教えてくれた。香りも味も、酒を飲むと人は変わることも。
そして恋をすると、こんなにも切ないということも。
彼女と出会わなければ、何一つ知らなかったことだ。
だから勘違いしそうになる。アフタルと一緒ならば、自分も人になれるのではないか……と。
「……これで、いいですか?」
アフタルが上目遣いに見上げてくる。
それくらいで解放するわけないだろ。
シャールーズは、アフタルと唇を重ねた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
485
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる