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6 失恋ってやばい
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めっちゃラッキー。
異動辞令の翌日には、新しい配属先に荷物を置きに行った。
まだ引き継ぎなんてできてないけど、スペアのジャケットとか、現場で着る作業着とか、過去の案件資料とか。特にいま必要ないけど、捨てるわけにもいかないものが山のようにある。一年て恐ろしい。
そんな荷物を運びにきたら、いた。
「佐倉くん!」
久しぶり、と楠ノ宮さんが笑う。
やっぱり知った顔がいるだけで安心する。
「まさかまた一緒に働けるなんてね。向こうでは大活躍だったらしいじゃん」
「楠ノ宮さんと働いてた頃は、まだ新卒のひよっこでしたからねー」
「そうそう。こんなにちっさくて、かわいかったのに…」
こんなに、と楠ノ宮さんは米粒くらいのサイズを表現してみせる。
そうだった。
この人は、こんな感じの人だった。
「いや、一年前も、俺のほうが背ぇ高かったっすよ」
「そう? たくさん面倒かけられたことしか覚えてないな」
「そこは忘れてくださいお願いします」
出会いは新卒の頃。
入社して、最初に配属された事務所。そこでよく俺に話しかけて、面倒を見てくれてたのが楠ノ宮さんだった。
楠ノ宮さんと俺とでは、正確に言うと担当する業務が違う。でも彼女は勤続年数が長いので、俺の仕事のことも、ある程度把握していて、先輩たちが忙しくて俺にまで手が回らない時、色々とフォローしてくれてた。
与えられたデスクに荷物を置き、新しい上司や同僚たちに挨拶する。
担当地域や顔を合わせる面子が変わっただけで、俺のやることに大きな違いはない。あとはもうひたすら慣れるだけだ。
なのに、
なのに!
じゃあね。バイバイ
そんなシンプルな文字で俺は彼女からふられた。
面と向かって言われてさえいない。
最後に会ったのはいつだったか。
別れの瞬間はスマホの液晶画面越しにやってきて、そのまま去っていった。
窓の外は雨が降ってる。沖縄は梅雨入りしたって、ニュースで言ってた。
しくしくしくしく。
雨音がうるさい。
仕事をしたい。
異動したせいで、以前の支店での仕事と、新しい仕事と、うまく引き継ぎできてない部分が重なっていて、やることがたくさんある。
しないと、終わらない。
終わらないと、〆切に追われて苦しむのは俺だ。
なのに手につかない。
五月病ってなんだ。
ジューンブライドって、なんだ。
俺はふられてフリーになったのに、なんで来週には大学時代の連れの結婚式に行って、バカ高いご祝儀払って、余興までやって、今でも充分幸せなやつらを祝わないといけないんだ?
やべえ地獄だ。
終わった。
その結婚式、元カノが来るじゃん。
昨日の夜、十一時半に元になったばかりの恋人が。
隣の席にしといたからなって、言われてた気がする。いや、間違いなくそうだ。
終わった。
まじで終わった。
へこむー。
とりあえず元カノに会うまでに、結婚式で馬鹿馬鹿しい余興をする前に、新しい恋人を作ろう。それしかない。おまえとは別れたけど、でも今もう新しい彼女と楽しんでるって、言えるように。
「はい、どうぞ」
デスクに置かれたブラックコーヒー。
楠ノ宮さんは、カフェイン中毒気味だ。
「ついでだったから」
幾らでしたかと聞くと、また今度おごってと言って、さっさと彼女は自分のデスクに戻る。呆けていると、仕事しろと睨まれたので、慌てて資料作成をするふりをした。
そういや楠ノ宮さんて、フリーじゃなかったっけ?
そもそも俺が入社してからこちら、恋人がいるって話を聞いたことがない。その気配もない。
この前の休みはこの本を読んだとか、そういえば、映画も一人で観に行ってたな。去年の長期休暇は一人旅してきたって、言ってた。
これ、いけんじゃね?
異動辞令の翌日には、新しい配属先に荷物を置きに行った。
まだ引き継ぎなんてできてないけど、スペアのジャケットとか、現場で着る作業着とか、過去の案件資料とか。特にいま必要ないけど、捨てるわけにもいかないものが山のようにある。一年て恐ろしい。
そんな荷物を運びにきたら、いた。
「佐倉くん!」
久しぶり、と楠ノ宮さんが笑う。
やっぱり知った顔がいるだけで安心する。
「まさかまた一緒に働けるなんてね。向こうでは大活躍だったらしいじゃん」
「楠ノ宮さんと働いてた頃は、まだ新卒のひよっこでしたからねー」
「そうそう。こんなにちっさくて、かわいかったのに…」
こんなに、と楠ノ宮さんは米粒くらいのサイズを表現してみせる。
そうだった。
この人は、こんな感じの人だった。
「いや、一年前も、俺のほうが背ぇ高かったっすよ」
「そう? たくさん面倒かけられたことしか覚えてないな」
「そこは忘れてくださいお願いします」
出会いは新卒の頃。
入社して、最初に配属された事務所。そこでよく俺に話しかけて、面倒を見てくれてたのが楠ノ宮さんだった。
楠ノ宮さんと俺とでは、正確に言うと担当する業務が違う。でも彼女は勤続年数が長いので、俺の仕事のことも、ある程度把握していて、先輩たちが忙しくて俺にまで手が回らない時、色々とフォローしてくれてた。
与えられたデスクに荷物を置き、新しい上司や同僚たちに挨拶する。
担当地域や顔を合わせる面子が変わっただけで、俺のやることに大きな違いはない。あとはもうひたすら慣れるだけだ。
なのに、
なのに!
じゃあね。バイバイ
そんなシンプルな文字で俺は彼女からふられた。
面と向かって言われてさえいない。
最後に会ったのはいつだったか。
別れの瞬間はスマホの液晶画面越しにやってきて、そのまま去っていった。
窓の外は雨が降ってる。沖縄は梅雨入りしたって、ニュースで言ってた。
しくしくしくしく。
雨音がうるさい。
仕事をしたい。
異動したせいで、以前の支店での仕事と、新しい仕事と、うまく引き継ぎできてない部分が重なっていて、やることがたくさんある。
しないと、終わらない。
終わらないと、〆切に追われて苦しむのは俺だ。
なのに手につかない。
五月病ってなんだ。
ジューンブライドって、なんだ。
俺はふられてフリーになったのに、なんで来週には大学時代の連れの結婚式に行って、バカ高いご祝儀払って、余興までやって、今でも充分幸せなやつらを祝わないといけないんだ?
やべえ地獄だ。
終わった。
その結婚式、元カノが来るじゃん。
昨日の夜、十一時半に元になったばかりの恋人が。
隣の席にしといたからなって、言われてた気がする。いや、間違いなくそうだ。
終わった。
まじで終わった。
へこむー。
とりあえず元カノに会うまでに、結婚式で馬鹿馬鹿しい余興をする前に、新しい恋人を作ろう。それしかない。おまえとは別れたけど、でも今もう新しい彼女と楽しんでるって、言えるように。
「はい、どうぞ」
デスクに置かれたブラックコーヒー。
楠ノ宮さんは、カフェイン中毒気味だ。
「ついでだったから」
幾らでしたかと聞くと、また今度おごってと言って、さっさと彼女は自分のデスクに戻る。呆けていると、仕事しろと睨まれたので、慌てて資料作成をするふりをした。
そういや楠ノ宮さんて、フリーじゃなかったっけ?
そもそも俺が入社してからこちら、恋人がいるって話を聞いたことがない。その気配もない。
この前の休みはこの本を読んだとか、そういえば、映画も一人で観に行ってたな。去年の長期休暇は一人旅してきたって、言ってた。
これ、いけんじゃね?
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