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7 失言ってやばい
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まじでへこむー。
後輩の横峯は、女であって、女でない。
仕事帰りに飲みに行くことになった。最近よく行く居酒屋。へこんでても一口目のビールは旨い。枝豆も旨い。
「これで目の前にいるのが可愛いカノジョだったらなー」
「横峯だって、一緒に飲むなら横峯を可愛いがってくれる男の人がいいです。あ、やっば。この砂肝まじうまー」
横峯の何が駄目って、こういうとこだと思う。
俺が言えた義理ではないが、まじうまーは、ないだろう。せめて美味しいと、しとやかに言ってくれ。
空腹がやわらぐ頃合いを見計らって、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「そういや、楠ノ宮さんてさ、なんで独り身なんだろうな」
「ご縁がなかったそうですよ」
「あんなにいい人なのに?」
「らしいですね。まわりはもうみんな既婚者だし、浮気や不倫は絶対嫌だって言ってらしたし。それに楠ノ宮さん、一人でなんでもできちゃいますからね」
横峯は今年の新入社員。入社してからこちら、ずっと楠ノ宮さんと同じ部署で働いるので、そのあたりの事情に詳しいかと思って誘ったのだが、予想通りだったみたいだ。
もう少し酔わせて詳しく聞きたい。
ほろ酔いの横峯はよくしゃべった。
入社してからお世話になったこと。
楠ノ宮さんと一緒に遊びにいったこと。
終電を逃して泣きついたら、仕方がないなと家に泊めてくれたこと。手作りの朝御飯が美味しかったこと。
まあ、俺と大した違いはない。
違いはないが、俺は一緒に遊びに行ったこともなければ、彼女の家に泊まったこともない。
なんだか悔しい。なぜだ。
「なんでなんだろうなー」
「何がですか?」
「コンビニ行こうっつったら、一緒に行ってくれるんだけどさ」
「まぁ、コンビニくらい、みんな行きますからね」
「でも、カフェに行こうって言ったら、もう一人で行ってきたって断られた」
「まぁ、もう行ってきたからでしょうね」
「焼き肉に誘ったら、いいよって言ってくれたはずなのに、結局流れたし」
「それは佐倉さんがあの後、打ち合わせ入ってたからでしょ。先週の話ですよね? 横峯、あの後、一緒にイタリアン食べに行きましたよ」
「昨日は」
「あれはだって、楠ノ宮さんも横峯も、突発的残業で、それどころじゃなかったもん」
なんだろう。この、俺と横峯の差は。
タイミング?
あれ、これって俺、脈なし?
はじめて楠ノ宮さんにアプローチしたのは、もう二ヶ月も前のことだ。
ふたりきりになった事務所で、遠回しに付き合いたいなーと言ってみた。
けど、ちょっとミスって、うまく気持ちが伝わらなかった。
でもたしかに俺のこと、好きだよーって思ってくれてる。
気が、してた、
のだが。
もしや気のせいだった?
「なんですか、佐倉さん、この前も女の子とデートしてたじゃないですか。それなのに楠ノ宮さんとも遊びたいんですか」
「それはそれ、これはこれ」
「はー? 意味わかんないんですけど。好きでもないのにデートするとか、付き合うとか。しかも前の彼女と別れてからまだ二ヶ月ちょっとですよね?」
そうだ。
ちなみに大学時代の友達の結婚式には間に合わず、赤っ恥をかいた。忘れたい。忘れよう。
「横峯は、べつに彼氏欲しいなんて思いません。休みは友達と遊ぶし、大学時代のサークルにもまだ顔出してるし、なんやかんや忙しいです」
「おまえはそうだろうけど、…あ」
「あー、楠ノ宮さん、原さん!」
なんと楠ノ宮さんと原さんが店の入口に立っていた。
声がバカでかい横峯のせいで、ふたりはこっちに気づいてやったきた。隣の空席を引っ付けて、四人で焼き鳥を囲んで乾杯する。
「それで、ふたりで何話してたわけ? 仕事の愚痴? あ、上司の愚痴か!」
原さんは俺の上司だ。
この流れはまずい。
横峯がまずい。
何を言い出すかわかったもんじゃない。
ここはとりあえず早急に、すぐさま、先手を打つべし!
「横峯にどうやったら男ができるか打ち合わせしてました」
「あー横峯もフリーだっけ」
「そうなんですよー。生涯フリーです。誰とも付き合ったことないです。男の人って、そういう女は引いちゃうんですよね?」
横峯はこのあたりさばさばしている。
「そうだなぁ。そういうやつもいるなぁ」
「誰とも付き合ったことないってことは、どっかおかしい、面倒な女だって思われるってことですか?」
「そうだなぁ」
「原さん、横峯に興味なさすぎです。そうだなぁ、しか言ってませんよ」
「んなこと言ったってなぁ。董子さん、どう思う?」
「んー、横峯は、彼氏が欲しいって本気で思ってないからね。他に楽しいことがたくさんあるから。でも告白されたことはあるんでしょ」
「そんなバカな!」
「佐倉さん、今夜は夜道に気をつけてください。たぶん横峯に刺されますよ。あ、そうだ! 楠ノ宮さん、次の休みの予定って、もう決まっちゃいましたか?」
「まだだけど…」
「横峯、楠ノ宮さんと一緒に行きたい和食のお店があるんです。駅前に十一時待ち合わせとかどうですか? 時間が合えば映画館も近いし、この前観たいって楠ノ宮さんが言ってたやつ、観てもいいですし」
董子さんはわかった、とあっさり頷いて、鞄からスケジュール張を取り出して予定を書き込んだ。
にやりと横峯が俺を見て意地悪そうに笑う。
横峯、恐るべし。
なんてリサーチ力と、董子さんの扱いの巧さ。
董子さんは原さんと仕事の話をし始める。このふたりは同年代ということもあってか、仲が良い。
あれ?
「楠ノ宮さんて、いくつでしたっけ?」
みんなの視線が俺に集まる。
やべ。思ったことが口から出てた。酔ってんのかな俺。
「え、なに。董子さん、36歳だよ。佐倉とひとまわり違う感じだろ」
今更?とみんかが変な顔をする。
やばい。
まじで今更だけど、今更知った。
いや、知ってたはずだ。ただ認識して記憶に留めてなかっただけで。
董子さんも眉間のしわがすごい。なに言ってやがんだ、こいつ的なしわだ。
「急になんの話?」
「あ、いや、なんとなく。原さんと同年代だったよなーと思って」
「俺は、董子さんより二つ年下。そう考えると董子さんは本当に若作りだよなー」
「若作りて言うな」
ひとまわり。
12歳差。
干支は、まさかの同じってことか!
「なに、本当に知らなかったの?」
「原さん、佐倉さんはね」
やばい。横峯がやばい。なにか別の話題を!
この時、俺は酔っていた。
そしてまじで焦ってた。
「俺、新しいカノジョができましたー」
酔いと焦りと理由のわからない見栄で口走った言葉は、さらに俺をやばい方向へと連れていくことになるとは、
…さすがに感じ取っていた。
後輩の横峯は、女であって、女でない。
仕事帰りに飲みに行くことになった。最近よく行く居酒屋。へこんでても一口目のビールは旨い。枝豆も旨い。
「これで目の前にいるのが可愛いカノジョだったらなー」
「横峯だって、一緒に飲むなら横峯を可愛いがってくれる男の人がいいです。あ、やっば。この砂肝まじうまー」
横峯の何が駄目って、こういうとこだと思う。
俺が言えた義理ではないが、まじうまーは、ないだろう。せめて美味しいと、しとやかに言ってくれ。
空腹がやわらぐ頃合いを見計らって、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「そういや、楠ノ宮さんてさ、なんで独り身なんだろうな」
「ご縁がなかったそうですよ」
「あんなにいい人なのに?」
「らしいですね。まわりはもうみんな既婚者だし、浮気や不倫は絶対嫌だって言ってらしたし。それに楠ノ宮さん、一人でなんでもできちゃいますからね」
横峯は今年の新入社員。入社してからこちら、ずっと楠ノ宮さんと同じ部署で働いるので、そのあたりの事情に詳しいかと思って誘ったのだが、予想通りだったみたいだ。
もう少し酔わせて詳しく聞きたい。
ほろ酔いの横峯はよくしゃべった。
入社してからお世話になったこと。
楠ノ宮さんと一緒に遊びにいったこと。
終電を逃して泣きついたら、仕方がないなと家に泊めてくれたこと。手作りの朝御飯が美味しかったこと。
まあ、俺と大した違いはない。
違いはないが、俺は一緒に遊びに行ったこともなければ、彼女の家に泊まったこともない。
なんだか悔しい。なぜだ。
「なんでなんだろうなー」
「何がですか?」
「コンビニ行こうっつったら、一緒に行ってくれるんだけどさ」
「まぁ、コンビニくらい、みんな行きますからね」
「でも、カフェに行こうって言ったら、もう一人で行ってきたって断られた」
「まぁ、もう行ってきたからでしょうね」
「焼き肉に誘ったら、いいよって言ってくれたはずなのに、結局流れたし」
「それは佐倉さんがあの後、打ち合わせ入ってたからでしょ。先週の話ですよね? 横峯、あの後、一緒にイタリアン食べに行きましたよ」
「昨日は」
「あれはだって、楠ノ宮さんも横峯も、突発的残業で、それどころじゃなかったもん」
なんだろう。この、俺と横峯の差は。
タイミング?
あれ、これって俺、脈なし?
はじめて楠ノ宮さんにアプローチしたのは、もう二ヶ月も前のことだ。
ふたりきりになった事務所で、遠回しに付き合いたいなーと言ってみた。
けど、ちょっとミスって、うまく気持ちが伝わらなかった。
でもたしかに俺のこと、好きだよーって思ってくれてる。
気が、してた、
のだが。
もしや気のせいだった?
「なんですか、佐倉さん、この前も女の子とデートしてたじゃないですか。それなのに楠ノ宮さんとも遊びたいんですか」
「それはそれ、これはこれ」
「はー? 意味わかんないんですけど。好きでもないのにデートするとか、付き合うとか。しかも前の彼女と別れてからまだ二ヶ月ちょっとですよね?」
そうだ。
ちなみに大学時代の友達の結婚式には間に合わず、赤っ恥をかいた。忘れたい。忘れよう。
「横峯は、べつに彼氏欲しいなんて思いません。休みは友達と遊ぶし、大学時代のサークルにもまだ顔出してるし、なんやかんや忙しいです」
「おまえはそうだろうけど、…あ」
「あー、楠ノ宮さん、原さん!」
なんと楠ノ宮さんと原さんが店の入口に立っていた。
声がバカでかい横峯のせいで、ふたりはこっちに気づいてやったきた。隣の空席を引っ付けて、四人で焼き鳥を囲んで乾杯する。
「それで、ふたりで何話してたわけ? 仕事の愚痴? あ、上司の愚痴か!」
原さんは俺の上司だ。
この流れはまずい。
横峯がまずい。
何を言い出すかわかったもんじゃない。
ここはとりあえず早急に、すぐさま、先手を打つべし!
「横峯にどうやったら男ができるか打ち合わせしてました」
「あー横峯もフリーだっけ」
「そうなんですよー。生涯フリーです。誰とも付き合ったことないです。男の人って、そういう女は引いちゃうんですよね?」
横峯はこのあたりさばさばしている。
「そうだなぁ。そういうやつもいるなぁ」
「誰とも付き合ったことないってことは、どっかおかしい、面倒な女だって思われるってことですか?」
「そうだなぁ」
「原さん、横峯に興味なさすぎです。そうだなぁ、しか言ってませんよ」
「んなこと言ったってなぁ。董子さん、どう思う?」
「んー、横峯は、彼氏が欲しいって本気で思ってないからね。他に楽しいことがたくさんあるから。でも告白されたことはあるんでしょ」
「そんなバカな!」
「佐倉さん、今夜は夜道に気をつけてください。たぶん横峯に刺されますよ。あ、そうだ! 楠ノ宮さん、次の休みの予定って、もう決まっちゃいましたか?」
「まだだけど…」
「横峯、楠ノ宮さんと一緒に行きたい和食のお店があるんです。駅前に十一時待ち合わせとかどうですか? 時間が合えば映画館も近いし、この前観たいって楠ノ宮さんが言ってたやつ、観てもいいですし」
董子さんはわかった、とあっさり頷いて、鞄からスケジュール張を取り出して予定を書き込んだ。
にやりと横峯が俺を見て意地悪そうに笑う。
横峯、恐るべし。
なんてリサーチ力と、董子さんの扱いの巧さ。
董子さんは原さんと仕事の話をし始める。このふたりは同年代ということもあってか、仲が良い。
あれ?
「楠ノ宮さんて、いくつでしたっけ?」
みんなの視線が俺に集まる。
やべ。思ったことが口から出てた。酔ってんのかな俺。
「え、なに。董子さん、36歳だよ。佐倉とひとまわり違う感じだろ」
今更?とみんかが変な顔をする。
やばい。
まじで今更だけど、今更知った。
いや、知ってたはずだ。ただ認識して記憶に留めてなかっただけで。
董子さんも眉間のしわがすごい。なに言ってやがんだ、こいつ的なしわだ。
「急になんの話?」
「あ、いや、なんとなく。原さんと同年代だったよなーと思って」
「俺は、董子さんより二つ年下。そう考えると董子さんは本当に若作りだよなー」
「若作りて言うな」
ひとまわり。
12歳差。
干支は、まさかの同じってことか!
「なに、本当に知らなかったの?」
「原さん、佐倉さんはね」
やばい。横峯がやばい。なにか別の話題を!
この時、俺は酔っていた。
そしてまじで焦ってた。
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