9 / 122
序章
09 親離れを決意②
しおりを挟む
ヴィアベルは、ことあるごとにペリーウィンクルを中央の国へ誘う。
八百屋のおじさんがペリーウィンクルだけおまけしてくれなかったとか、男爵家はペリーウィンクルにお茶休憩もさせないとか、本当にささいな、どうでも良いようなことで。
心配されて、嬉しくないわけじゃない。
ヴィアベルはペリーウィンクルにとって、最後の家族とも言える存在だから。
離れていたって平気だけど、全然会えなくなるのは寂しい。
彼が熱心に誘うものだから、「そんなに心配なら行ってあげようか」と思ったこともある。
しかし。しかし、だ。
いざ調べてみると、そんなに簡単なことではないことが分かった。
ペリーウィンクルとしては、春の国から夏の国へ遊びに行くような感覚で考えていたのだが、そんなにお手軽な話ではなかったのだ。
四季の国と中央の国では、時間の流れが違う。
中央の国での一日は、四季の国での三日にあたる。
中央の国で一年生活する間に、四季の国では三年も経過してしまうのだ。
(浦島太郎ほどではないけれど、びっくりよね)
天涯孤独ではあっても、友人や知り合いがいないわけではない。
ペリーウィンクルが中央の国で暮らすうちに、周囲はどんどん老いていくなんて、悲しすぎる。
(ああ、でも……)
ローズマリーが、婚約破棄されて第二の人生を歩むまで手を貸す。
そう決めた以上、中央の国へ行かなくてはならないだろう。
ヴィアベルに頼んで契約してもらうか、別の妖精と契約するか、またはローズマリーの侍女としてついて行くのか。
行く方法はさまざまあるが──、
(中央の国へ行ったら、ヴィアベルは喜んでくれそう)
目が届く範囲にペリーウィンクルがいないと、心配でたまらない過保護な妖精だ。
一年という制約付きではあるけれど、それで少しは安心してくれるだろうか。
(ずっとはいられないけれど、一年なら。一緒にいてもいいかもしれない)
これは、良い機会のように思えた。
ペリーウィンクルが親離れするための、ヴィアベルが子離れするための機会。
それはつまり、ヴィアベルとの別れを意味する。
寂しいと思う。
けれどこのままでは、ヴィアベルはペリーウィンクルがおばあちゃんになっても、見守り続けそうな気がする。
長い寿命を持つ妖精からしてみたら、人間の寿命なんてほんの少しの時間だろう。
瞬きするくらいの一瞬とまではいかないが、ほんのちょっとなのは確かだ。
だからたぶん、そんなに負担にはなっていないはずだけれど、何も手につかなくなるほど心配させ続けてしまうのは、嫌だった。
「よし、決めた! 親離れしよう!」
中央の国にいる一年の間に、ローズマリーの婚約破棄への道のりを作り、第二の人生のプランを練る。
同時に、ヴィアベルから親離れする準備もする。
決めてしまえば、気持ちはスッキリした。
エイエイオーと拳を突き上げれば、気持ちは確固たるものになる。
「ぺ、ぺりぃいんくる、まだ、ですの……?」
声をかけられて、ペリーウィンクルははっと我に返った。
今はそんなことを決意している場合ではなかったのだ。
目の前では、出荷直前の丸々としたブタから子ブタになったローズマリーが、汗だくになりながら屋敷の敷地内を走っている。
ペリーウィンクルはそんな彼女の後ろを走りながら、「ピッピッ」とホイッスルを吹く係なのだ。
「ローズマリーお嬢様ぁぁ! あと三周したら朝ご飯ですからねぇぇ!」
「グフゥ! ま、まだ走りますの⁉︎」
「入学まで数ヵ月しかありませんからね! 少々手荒ですが、スローライフのためだと思って辛抱してくださいませぇぇ」
「わ、わかりましたわぁぁぁぁぁ!」
食事前の運動は、減量したい人におすすめだ。
さらに効果を上げるには、筋力トレーニングも欠かせない。
そこへ妖精の魔法が入ったハーブティーを追加することで、ダイエットが加速度的に進む、というわけだ。
「朝ごはんはシェフが腕によりをかけていますので、楽しみにしていてくださいね!」
「楽しみですわぁぁぁ……グフゥ……」
今朝も公爵家の屋敷は賑やかだ。
高らかに鳴り響くホイッスルの音に、屋敷の者たちは密かにエールを送った。
どうかそのままお嬢様を改心させてくださいまし、と。
八百屋のおじさんがペリーウィンクルだけおまけしてくれなかったとか、男爵家はペリーウィンクルにお茶休憩もさせないとか、本当にささいな、どうでも良いようなことで。
心配されて、嬉しくないわけじゃない。
ヴィアベルはペリーウィンクルにとって、最後の家族とも言える存在だから。
離れていたって平気だけど、全然会えなくなるのは寂しい。
彼が熱心に誘うものだから、「そんなに心配なら行ってあげようか」と思ったこともある。
しかし。しかし、だ。
いざ調べてみると、そんなに簡単なことではないことが分かった。
ペリーウィンクルとしては、春の国から夏の国へ遊びに行くような感覚で考えていたのだが、そんなにお手軽な話ではなかったのだ。
四季の国と中央の国では、時間の流れが違う。
中央の国での一日は、四季の国での三日にあたる。
中央の国で一年生活する間に、四季の国では三年も経過してしまうのだ。
(浦島太郎ほどではないけれど、びっくりよね)
天涯孤独ではあっても、友人や知り合いがいないわけではない。
ペリーウィンクルが中央の国で暮らすうちに、周囲はどんどん老いていくなんて、悲しすぎる。
(ああ、でも……)
ローズマリーが、婚約破棄されて第二の人生を歩むまで手を貸す。
そう決めた以上、中央の国へ行かなくてはならないだろう。
ヴィアベルに頼んで契約してもらうか、別の妖精と契約するか、またはローズマリーの侍女としてついて行くのか。
行く方法はさまざまあるが──、
(中央の国へ行ったら、ヴィアベルは喜んでくれそう)
目が届く範囲にペリーウィンクルがいないと、心配でたまらない過保護な妖精だ。
一年という制約付きではあるけれど、それで少しは安心してくれるだろうか。
(ずっとはいられないけれど、一年なら。一緒にいてもいいかもしれない)
これは、良い機会のように思えた。
ペリーウィンクルが親離れするための、ヴィアベルが子離れするための機会。
それはつまり、ヴィアベルとの別れを意味する。
寂しいと思う。
けれどこのままでは、ヴィアベルはペリーウィンクルがおばあちゃんになっても、見守り続けそうな気がする。
長い寿命を持つ妖精からしてみたら、人間の寿命なんてほんの少しの時間だろう。
瞬きするくらいの一瞬とまではいかないが、ほんのちょっとなのは確かだ。
だからたぶん、そんなに負担にはなっていないはずだけれど、何も手につかなくなるほど心配させ続けてしまうのは、嫌だった。
「よし、決めた! 親離れしよう!」
中央の国にいる一年の間に、ローズマリーの婚約破棄への道のりを作り、第二の人生のプランを練る。
同時に、ヴィアベルから親離れする準備もする。
決めてしまえば、気持ちはスッキリした。
エイエイオーと拳を突き上げれば、気持ちは確固たるものになる。
「ぺ、ぺりぃいんくる、まだ、ですの……?」
声をかけられて、ペリーウィンクルははっと我に返った。
今はそんなことを決意している場合ではなかったのだ。
目の前では、出荷直前の丸々としたブタから子ブタになったローズマリーが、汗だくになりながら屋敷の敷地内を走っている。
ペリーウィンクルはそんな彼女の後ろを走りながら、「ピッピッ」とホイッスルを吹く係なのだ。
「ローズマリーお嬢様ぁぁ! あと三周したら朝ご飯ですからねぇぇ!」
「グフゥ! ま、まだ走りますの⁉︎」
「入学まで数ヵ月しかありませんからね! 少々手荒ですが、スローライフのためだと思って辛抱してくださいませぇぇ」
「わ、わかりましたわぁぁぁぁぁ!」
食事前の運動は、減量したい人におすすめだ。
さらに効果を上げるには、筋力トレーニングも欠かせない。
そこへ妖精の魔法が入ったハーブティーを追加することで、ダイエットが加速度的に進む、というわけだ。
「朝ごはんはシェフが腕によりをかけていますので、楽しみにしていてくださいね!」
「楽しみですわぁぁぁ……グフゥ……」
今朝も公爵家の屋敷は賑やかだ。
高らかに鳴り響くホイッスルの音に、屋敷の者たちは密かにエールを送った。
どうかそのままお嬢様を改心させてくださいまし、と。
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。
髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は…
悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。
そしてこの髪の奥のお顔は…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドで世界を変えますよ?
**********************
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
転生侍女シリーズ第二弾です。
短編全4話で、投稿予約済みです。
よろしくお願いします。
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる