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後日談
122 祝福の鐘②
しおりを挟む名もなき生き物は、捕獲されてからしばらく経っても種に戻されることはなかった。
種に戻すという試みをする前に、一部の妖精から「名もなき生き物について研究するべき」という声が上がり、保護観察という形を取ることになったのだ。
面白いことに、名もなき生き物は人が作った菓子を食べることで成長するらしい、ということがわかった。
一つ目の菓子で舌を、二つ目の菓子で手を得た名もなき生き物は、実験に協力する代わりに大好きなママと一緒に暮らすことを望んだ。
妖精王はそれを面白がり、スヴェートの幽閉をあっさり解いたばかりか、中央の国の外れに離島を作り、家まで建ててやったらしい。
『これで女王はわたしのものだ!』
という独占欲のかたまりのような言葉は、妖精王のものである。
ペリーウィンクルは知らなかったのだが、どうやら彼がスヴェートを生贄にせよと命じたのは、スヴェートが妖精の女王のお気に入りだったからのようだ。
愛する女王を取られていじけていたのだと聞かされたときは、ペリーウィンクルも呆れるしかなかった。
だが、妖精の番に対する習性とやらを聞かされては、仕方のないことだと思わざるを得ない。
曰く、妖精は基本的に気まぐれで面倒くさがりだが、番だけは例外であるらしい。
番がいる妖精は常に番が気になって仕方がなくなり、困っているなら助けずにはいられなくなり、目が届かないと心配で夜も眠れず、無視されたり要らないと言われた日には死にそうになる──そうだ。
その話を聞いた時、ペリーウィンクルが思ったのは「なるほど」だった。
もう随分前のことのように思えるが、ヴィアベルが「殺す気か」と言ってきたことがあった。
あの時の言葉は、おそらくそういうことなのだろう。
涼しい顔をして翻弄してくるあのヴィアベルが、ペリーウィンクルの一言でそんな思いをしていたのかと思うと、嬉しくてたまらない。
同時に、もっと困らせて夢中にさせたいという意地悪な気持ちが湧き上がる。
ペリーウィンクルは自分の中にそんな感情があったことに驚いたが、それほどまでに彼が好きなのだから仕方がないかと納得もした。
「ねぇ、ヴィアベル」
「なんだ?」
くつろぎきった顔でクッキーを咀嚼するヴィアベルの腰に腕を回し、ペリーウィンクルは甘えるように身を寄せる。ヴィアベルはそんな彼女の体をひょいと抱き上げ、自身の体の上に乗せた。
ヴィアベルの腰のあたりに馬乗りになるような体勢に、ペリーウィンクルの頬が赤く色づく。
「えーっと、その……」
困らせてやろう、と。そう思ったのだが、思いのほかこれが難しい。
大人の女性みたいにスマートにできないことを悔やみつつ、それでも思いついたいたずらがこれしかないのだから仕方がない。
「どうした?」
この涼やかな顔を崩すためだ。
ペリーウィンクルは、覚悟を決めた。
だけどやっぱり恥ずかしかったので、ヴィアベルの胸に顔を埋めてごまかす。
「夜じゃないと、だめ?」
くぐもった声は、確かにヴィアベルの耳に届く。
今にも消えそうな弱々しいお誘いに、彼の顔から表情が抜け落ちた。
「ペリー……」
顎を掬われ、上向けられる。
初めて見る、怖いくらい真剣な顔に、ペリーウィンクルは息をすることも忘れた。
ヴィアベルが最も愛するブラックオパールのような目が、ゆっくりとまぶたに覆われていく。
安心しきった顔をして身を預けてくる腕の中の少女に、ヴィアベルはひそかに幸せを噛み締めた。
そして、その気持ちをたっぷりと思い知らせるために、唇を寄せる。
唇が合わさる瞬間、スルスで鐘の音が響く。
それはまるで、二人を祝福しているようだった。
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