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二章 シュエット・ミリーレデルの過去
20 最悪な巡り合わせ①
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エリオットは思わず、
「げ」
と声を漏らした。
彼は、信じられないような気持ちで、ベランダを見上げていた。
王立ミグラテール学院を卒業してから四年。
ずっと会うことがなかった、永遠に会う予定もなかった彼女がそこにいたからだ。
記憶よりも少し大人びた顔立ち。
以前はきつく結われていた女家庭教師みたいな髪型はもうやめたのか、柔らかそうな長い髪が春の夜風に揺れている。
服装は、相変わらずのようだ。制服とそう変わらないかっちりとしたデザインのものを、一分の隙もなく着込んでいる。
(名前は……なんだったか……)
ふと目の前にある店の看板を見れば、『ミリーレデルのフクロウ百貨店』と書かれている。
ああそうだ、とエリオットは思った。
(彼女の名前は、ミリーレデル。シュエット・ミリーレデルだった)
彼女はたいてい「せんせい」と呼ばれていたから、名前をすっかり忘れていた。
彼女のことをシュエットと呼ぶのは、よく一緒にいた女子二人くらいだったように思う。
エリオットが彼女を知ったのは、ミグラテール学院の五年生の時だった。
せっかく入った学校にもなじめず、ただ一人、時間を持て余していたあの時期。
彼女はエリオットの目の前を、通り過ぎていった。
指定された制服をきっちり着込んで。
赤みがかった茶色の髪を、三つ編みにして。
校則そのものが歩いているんじゃないかと思うくらい、彼女は規則通りの格好をして歩いていた。
(今時、あんな子がいるのか)
ミグラテール学院は、身分の差なく広く門戸を開いている。
王族が通う王立リシュエル学園がほぼ貴族だけなのに対し、ここに通う生徒のほとんどが下位の貴族か一般庶民だった。
そのため、校則はわりと緩めである。
特に制服に関してはゆるゆるで、スカートの丈をいじるだけならかわいいもので、原型を留めないくらい改造してしまう者も多々いた。
そんな中、大真面目に校則を全部守っている生徒は珍しい。
エリオットは彼女を一目見て、
(苦手だな)
と思った。
彼女は、似ているのだ。
エリオットが、ここへ逃げてきた元凶──兄のアルフォンスと。
「げ」
と声を漏らした。
彼は、信じられないような気持ちで、ベランダを見上げていた。
王立ミグラテール学院を卒業してから四年。
ずっと会うことがなかった、永遠に会う予定もなかった彼女がそこにいたからだ。
記憶よりも少し大人びた顔立ち。
以前はきつく結われていた女家庭教師みたいな髪型はもうやめたのか、柔らかそうな長い髪が春の夜風に揺れている。
服装は、相変わらずのようだ。制服とそう変わらないかっちりとしたデザインのものを、一分の隙もなく着込んでいる。
(名前は……なんだったか……)
ふと目の前にある店の看板を見れば、『ミリーレデルのフクロウ百貨店』と書かれている。
ああそうだ、とエリオットは思った。
(彼女の名前は、ミリーレデル。シュエット・ミリーレデルだった)
彼女はたいてい「せんせい」と呼ばれていたから、名前をすっかり忘れていた。
彼女のことをシュエットと呼ぶのは、よく一緒にいた女子二人くらいだったように思う。
エリオットが彼女を知ったのは、ミグラテール学院の五年生の時だった。
せっかく入った学校にもなじめず、ただ一人、時間を持て余していたあの時期。
彼女はエリオットの目の前を、通り過ぎていった。
指定された制服をきっちり着込んで。
赤みがかった茶色の髪を、三つ編みにして。
校則そのものが歩いているんじゃないかと思うくらい、彼女は規則通りの格好をして歩いていた。
(今時、あんな子がいるのか)
ミグラテール学院は、身分の差なく広く門戸を開いている。
王族が通う王立リシュエル学園がほぼ貴族だけなのに対し、ここに通う生徒のほとんどが下位の貴族か一般庶民だった。
そのため、校則はわりと緩めである。
特に制服に関してはゆるゆるで、スカートの丈をいじるだけならかわいいもので、原型を留めないくらい改造してしまう者も多々いた。
そんな中、大真面目に校則を全部守っている生徒は珍しい。
エリオットは彼女を一目見て、
(苦手だな)
と思った。
彼女は、似ているのだ。
エリオットが、ここへ逃げてきた元凶──兄のアルフォンスと。
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