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六章 シュエット・ミリーレデルの秘密

82 コルネーユとベルジュネット③

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「でもさ、この文面から見るに、シュエット自身は嫌だと思っていないみたい。ほら、またアレなんじゃない? シュエットの悪い癖。三人きょうだいの一番上はうまくいかない、だっけ? シュエットがよく言うやつ。相手はかなりの美形らしいし、またそれで渋っているのかもよ?」

 堅実で愛のある結婚を夢見るシュエットは否定するかもしれないが、彼女は面食いの傾向がある。

 そのくせ、好きになりそうな相手が美形だからという理由で、シュエットは諦めてしまうのだ。

 相手がシュエットの気持ちに気づいて気になり始める頃には、すっかり諦めてしまっている。

 だから、彼女は今の今まで浮いた話がなかったのである。

 美形というのはそれだけでなんでも許されるので、問題のある男が少なくない。

 変なところで純粋なシュエットが、ジンクスを信じているおかげで騙されずに済んでいるのは良かったと言えるが、さすがにそろそろ恋の一つくらいしても良いのではないだろうか。

 学生時代から今に至るまでの、シュエットの恋とも呼べない遍歴を思い返して、二人は悩ましげに深いため息を吐いた。

「ああ、アレね。でもそれって本来は、年上のきょうだいたちになめられていた末っ子が、成功を掴み取ってきょうだいたちは損をするっていう、末子成功譚まっしせいこうたんなのよ。シュエットは妹たちを馬鹿にしたりしていないし、むしろ模範になっているじゃない。だからどうしてああまで気にするのか、不思議ではあるのよね」

 三人きょうだいの一番上は、うまくいかない。

 そのジンクスを、シュエットはことあるごとに、自身を戒めるように呟いていた。

「まるで呪いみたい」

「呪い……そうね、そうかもしれないわ」

「今回の人は、シュエットのお父様も認めているくらいだもの。きっと、シュエットにとって悪い話ではないはず」

 そう言って、ベルジュネットはカバンからメモ帳とペンを取り出した。

 メモ帳からビリリと一ページ破り取って、ペンを走らせる。

 書かれた言葉に目を落として、コルネーユは「まぁまぁね」と満足げにほほえんだ。
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