魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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二章

34 ミハウ付きメイド、エグレ

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 どうやって看破したのか、定かではない。

 だが少なくとも、ロキースにとってエディという存在は、彼女が好むお伽噺のような、唯一無二のものだということなのだろう。

「魔獣の初恋、舐めてた。文献読んだ時はそんな馬鹿なって思っていたけれど……やっと納得した。そりゃあ、ほとんどの人がクラッといっちゃうわけだよね。美形だからっていうのもあるのだろうけれど、何より、こんなに一途なんだからさ」

 これは秘密だが、ミハウがエディのフリをしたのは何も今回が初めてではない。

 可愛らしい見た目と類稀な弓の腕を持つエディは、男女問わずモテるのだ。

 少年だと思われているから、主な相手は女性になるのだが、中には玉砕覚悟で告白してくる男性もチラホラ。

 長年ミハウの世話係をしてきた、メイドのエグレと結託して、エディが寝ている午前中に告白をお断りしたのは何件だったか。

 双子の姉であるエディが、祖母のために女を捨てて頑張っているのをミハウは知っている。

 彼女がどんなに祖母を愛していたかも知っていたから、ミハウは陰ながら応援していたのだ。

 それは決して、褒められるようなやり方ではなかったけれど、彼に後悔はない。

「ミハウ様」

「エグレ……」

 いつの間に入ってきていたのか、応接間の扉の前で、ロキースをこの部屋へ案内したメイドが静かに佇んでいた。

 ミハウの名を呼ぶ声には、まるで覚悟を決めろと言っているような厳しさが滲んでいる。

 ミハウはしばし反抗するようにエグレを睨んだが、彼女は素知らぬ顔をするばかり。

 諦めたようにため息を吐くと、ミハウは「分かったよ」と拗ねたように呟いた。

「あーあ。完敗だよ。誰も分からなかったのにさ。分かる人が出てきたら諦めるって決めていたし、仕方がない。諦めてあげる」

 そう言ってロキースからツンと顔を背けたミハウを、エグレはたしなめるように「ミハウ様」と呼んだ。

「もう。分かっているってば。……改めまして、僕の名前は、ミハウ・ヴィリニュス。エディタの双子の弟だよ。僕が大事にしてきたエディタを、泣かせないでよね。ちゃんと、大事にすること。それから……」

 ガミガミと娘を嫁に出す過保護な父親のように、ミハウは彼女の取り扱いについて説明しだした。

 エグレは呆れたようにため息を吐いてから、一オクターブ低い声で「ミハウ様」と呼ぶ。

 ミハウとしてはこれ以上ないくらいの譲歩だというのに、中断されて面白くない。

 せっかくの可愛い顔を不細工に歪めて、彼はエグレをギロリと睨みつけた。

「まだ、言いたいことがあるんだけど?」

「廊下で、お嬢様をお待たせしているのです」

「それ、早く言ってよ。廊下で待たせるなんて、酷い。エディタ、もう大丈夫だから入っておいで」

 エグレの言葉に、ミハウは猫なで声で扉の向こうへと声をかける。

 そろりと入ってきたエディに、応接間にいた二人の男たちがホゥと感嘆のため息を吐いた。

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