魔獣の求恋〜美形の熊獣人は愛しの少女を腕の中で愛したい〜

森 湖春

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三章

38 次の約束

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「そうだ。蜂蜜もある。好きなだけ、使え」

 そう言って、ロキースは蜂蜜の瓶を二つ取り出した。一つはエディへ、もう一つは自分へ。

 嬉しそうに鼻歌を口ずさみながら、彼は紅茶に蜂蜜をたっぷり落とす。

 ロキースは、ソワソワしながらこっそりエディを見つめた。

 早く蜂蜜を使ってくれないかな、また指についたりしたら舐めるのだろうか、なんて不埒な思惑が見え隠れしている。

 差し出された蜂蜜の瓶に、エディはそういえばと思い出した。

 彼女はロキースへ、言いそびれていたことがあったと。

「あのさ」と言って顔を上げると、ロキースの蜂蜜色の目とかち合った。

 絡んだ視線の甘さに、体が反射的にぴゃっと後退る。

 後ろはソファの背もたれで、逃げ場はない。

 話しかけてしまった手前、黙っているわけにもいかず、ロキースを見る目に力が入る。

「前に……大使館で出してくれた紅茶、とっても美味しかったよ。あれ飲んだおかげで、緊張が解れたと思う。ありがとう」

 緊張のあまり睨みつけるような目になってしまったエディを、ロキースはそれでも愛おしげに見返すだけだ。

 何をしていたって可愛くて仕方がない。そう、言いたげに。

(あぁ、もう。どうして、そんな顔をするかな)

 これでは、ますます無碍に出来ない。
 知らぬ間に懐いた熊さんを、突き放すことが出来ないではないか。

 困ったように固まるエディにとどめを刺すように、ロキースはクスッと笑った。

「そうか。じゃあ、また淹れよう」

「うん」

 また。

 その言葉に、エディは少しだけ嬉しくなってしまった。

 へへへと照れ臭そうに笑い返して、はたと我に返る。

(こういうの、駄目な気がする)

 会えば会った分だけ、エディはロキースのことを好きになる気がした。

 だって、会うのは今日で三度目なのに、もうヘラヘラと笑っている。

 警戒心、ゼロ。
 エディは、寛ぎきっていた。

(ミハウが言っていた、人間ってチョロいって、こういうこと……?)

 これはいけない。

 どうにか挽回しなくてはいけないだろう。

(でも、挽回って……何から、どうやって?)

 初恋すら未経験の彼女は、混乱した。

 何をどうすればいいんだと視線が動く。

 動いた視線が捉えたのは、ロキースの手元だった。

 ロキースの手は大きい。

 紅茶に蜂蜜を溶かすために持ったティースプーンが、とても小さく見えた。

 くるくる、くるり。

 無骨な指が、器用に回る。

(そういえば……この大きな手が、頭を撫でてくれたんだよなぁ)

 初めて会った時、何故だか分からないけれど、ロキースはエディの頭を撫でた。

 悪意は感じなかったのでおとなしくされるがままになっていたが、あれは一体、どういう意味があったのか。

(頭を撫でられるなんて、いつぶりだったんだろう。くすぐったいけど、なんだかホワホワして気持ち良かったんだよね)

 思い出して、なんだか恥ずかしくなった。

 思い出し笑いならぬ、思い出し恥ずかしといったところだろうか。

 赤くなりそうな頰を誤魔化すように、エディはサイドの髪を耳にかけた。

「あの、さ。この前……頭、撫でてくれただろ?あれ、どうして?」

(──って! 何聞いてるんだ、僕ぅぅ⁉)

 混乱した人というのは、ほかのことに突然興味を示したりすることがある。

 エディはまさにそれだったのだが、別の興味もまたロキースのことだったので墓穴を掘る形となった。

 今更後悔したって遅い。

 きっと、カードにあったような『愛しさが募って』とか『可愛らしいからつい』とかそんな甘い言葉が飛び出すのだろう。

 そう思って、エディは身構えた。
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