94 / 94
終章
94 花舞い散る中で
しおりを挟む
(特別な相手用の、レシピ)
口元についたパイのカケラを、長い舌がベロンと舐め取る。
『ありがとよ』
ミートパイを最後の最後まで堪能するように、目を閉じて息を吐いたヴィリカスは、のそりと立ち上がるとエディたちから離れ、エマの墓の方へと消えていった。
「おばあちゃんはヴィリカスが大好きだったんだろうなって、気付いたんだ」
「エディは前にも、ヴィリカスへ同じようなことを言っていたな」
「うん。それでね、このミートパイの作り方、おばあちゃんから教わったんだよ。僕には物足りない味なんだけれど、彼は美味しそうに食べていた。最後のひとかけらも残さずに。このミートパイってさ、おばあちゃんがヴィリカスのために作ったんだと思うんだ。ヴィリカスを想って、一生懸命」
ヴィリカスは理性のある魔獣だ。
理性のある魔獣は、人に恋をする。
どうしてヴィリカスが獣人にならなかったのかは、誰にもわからない。
けれど、ヴィリカスとエマの間には、特別な絆があったのではないかとエディは思うのだ。
(だって、好きという気持ちにもいろいろあるからね)
「そういうの、いいね。僕もいつか、ロキースのために、ロキースを想って、特別なレシピを考えてみたい」
「楽しみにしている」
蜂蜜色の目を眩しそうに眇めて、ロキースはエディを見つめる。
幸せだな、とエディは思った。
(こんな時間が、ずっとずっと続きますように)
エディが願ったその時──
春の風が、魔の森から魔素を運ぶように吹き込んできた。
ザァァ、と。紫色の風が、青い花びらを舞い上げる。
エディに目隠しをするように、激しい風が吹いて──
「すごく強い風だったね、ロキース。あ、頭に花びらがたくさんついてるよ……って、ええぇ⁉︎」
髪に絡んだ花びらを払い落とそうと手を伸ばして、エディは仰天した。
「え? え? なんで? は? なんで? どうして今?」
頭に疑問符をいっぱい並べて、くりくりした目を限界まで開いて見つめるその先に、つい今し方までそこにあったはずのものがない。
丸くて可愛い熊耳が、そこにない。
伸ばしたままだった手で、熊耳があったところを撫でても、跡形もなかった。
髪の合間に肌色の、自分と同じ形をした耳を見つけて、エディは「うそぉ」と呟く。
「どうしてだろうな?」
恥ずかしがる暇も、逃げる隙もなかった。
頭に乗せていた手を引かれ、エディとロキースの距離が縮まる。
唇に触れた、柔らかな熱。
それがロキースの唇だと理解した瞬間、エディはフシュウ湯気を出し、彼の胸に倒れ込んだ。
口元についたパイのカケラを、長い舌がベロンと舐め取る。
『ありがとよ』
ミートパイを最後の最後まで堪能するように、目を閉じて息を吐いたヴィリカスは、のそりと立ち上がるとエディたちから離れ、エマの墓の方へと消えていった。
「おばあちゃんはヴィリカスが大好きだったんだろうなって、気付いたんだ」
「エディは前にも、ヴィリカスへ同じようなことを言っていたな」
「うん。それでね、このミートパイの作り方、おばあちゃんから教わったんだよ。僕には物足りない味なんだけれど、彼は美味しそうに食べていた。最後のひとかけらも残さずに。このミートパイってさ、おばあちゃんがヴィリカスのために作ったんだと思うんだ。ヴィリカスを想って、一生懸命」
ヴィリカスは理性のある魔獣だ。
理性のある魔獣は、人に恋をする。
どうしてヴィリカスが獣人にならなかったのかは、誰にもわからない。
けれど、ヴィリカスとエマの間には、特別な絆があったのではないかとエディは思うのだ。
(だって、好きという気持ちにもいろいろあるからね)
「そういうの、いいね。僕もいつか、ロキースのために、ロキースを想って、特別なレシピを考えてみたい」
「楽しみにしている」
蜂蜜色の目を眩しそうに眇めて、ロキースはエディを見つめる。
幸せだな、とエディは思った。
(こんな時間が、ずっとずっと続きますように)
エディが願ったその時──
春の風が、魔の森から魔素を運ぶように吹き込んできた。
ザァァ、と。紫色の風が、青い花びらを舞い上げる。
エディに目隠しをするように、激しい風が吹いて──
「すごく強い風だったね、ロキース。あ、頭に花びらがたくさんついてるよ……って、ええぇ⁉︎」
髪に絡んだ花びらを払い落とそうと手を伸ばして、エディは仰天した。
「え? え? なんで? は? なんで? どうして今?」
頭に疑問符をいっぱい並べて、くりくりした目を限界まで開いて見つめるその先に、つい今し方までそこにあったはずのものがない。
丸くて可愛い熊耳が、そこにない。
伸ばしたままだった手で、熊耳があったところを撫でても、跡形もなかった。
髪の合間に肌色の、自分と同じ形をした耳を見つけて、エディは「うそぉ」と呟く。
「どうしてだろうな?」
恥ずかしがる暇も、逃げる隙もなかった。
頭に乗せていた手を引かれ、エディとロキースの距離が縮まる。
唇に触れた、柔らかな熱。
それがロキースの唇だと理解した瞬間、エディはフシュウ湯気を出し、彼の胸に倒れ込んだ。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ハッピーエンドの完結お疲れさまでした。
ロキースは余裕LOVEシーンでしたねぇ😁
翻弄されまくりのエディタが初々しいわ、リラックマとリアルクマさんとの間を揺れるロキースが可愛いわ、く~~堪らんわっ👍
訳知りとはいえ、『エディタの作ったミートパイ』を他獣人に食べさせても嫌がらないロキースは大地の様に心が広い。
おばぁちゃん秘話も獣人色々で深かったと思いました。面白かったです。恋する獣人最高っす🎵ありがとうございました。
さぁ、頭からもう1篇再読再読😄
niboshi様、感想をたくさんくださって、ありがとうございました。
おかげさまで、最後まで書ききることができました!
ロキースは獣人の中でも愛が重いタイプですが、エディタの手前、お利口さんにしているのでしょうね(笑)
落ち着いたら後日談を書きたいと思っているので、また読んで頂けたら嬉しいです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
ロキースの頼りがいの有る所が魅力的❗
アクションや陰謀の予感がドキドキしますが『幸せの朝』でのロキースがクマっぽくて笑えました。好きです👊
niboshi様、感想ありがとうございます!
クマっぽさが出ていて良かったです。
明日、最終話まで更新しますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
よろしくお願いします!
エディタと一緒に途方にくれてしまいそう💧
おばぁちゃん、助けて(/≧◇≦\)
一族はどんな獣人の血脈なのか⁉️ロキースがルタになんて靡く訳が無いわ❗と鼻息荒く思ったのにとんだ隠し玉が有ったとは((( ;゚Д゚)))
がんばれ~‼️
niboshi様、感想ありがとうございます!
おばあちゃんや一族については今後公開していきますので、お待ち頂けたら幸いです。
ミハウもけっこう頑張るので、お楽しみに!