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三章 一年目ふゆの月
25 ふゆの月13日、魔女の庵③
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魔女の庵は、二部屋しかない。魔女の寝室と、魔女の大釜がある部屋だけだ。
入ってすぐに大釜の部屋があり、その奥に寝室とお風呂などがあるらしい。
入るなり大釜のそばにある椅子を勧められたイーヴィンは、恐る恐るそれに腰掛けた。
ガタガタする椅子は、脚の長さが揃っていない。お尻を落つけようにも、体が傾ぐ。
こっそり壁にもたれながら、イーヴィンはなんとか座っている体勢を保った。
イーヴィンが腰掛けたのを見届けた魔女は、戸棚からガチャガチャと茶器を取り出した。天井から吊り下がっていた謎の植物を千切り、茶器に放り込むと湯を注ぐ。漂い始めた湯気は、ラベンダーの香りがした。
「栄養ドリンクよね?あいにく完成品は在庫がなくて……材料はあるから、すぐに調合するわ。申し訳ないんだけれど、完成するまでこれを飲んで待っていて貰える?」
「あ、はい。大丈夫です」
差し出されたカップを、イーヴィンは慎重に受け取った。そうでないと、グラつく椅子のせいで零しそうだったのだ。
奥の棚から数種類の物体を持ってきた魔女は、ポンポンと大釜にそれらを放り込んでいく。
途中で冬眠していたらしいカエルを叩き起こして『ガマの吐息』とやらを入れているのを見て、イーヴィンは眺めるのをやめた。
慌ててカップに口を寄せ、大釜から視線を逸らす。
栄養ドリンクに何が入っているかなんて、知るべきではない。材料を見たら、飲めなくなりそうだ。
幸い、出してくれたラベンダーのお茶はイーヴィンの緊張をほぐすのにちょうど良いものだった。
大釜が火にくべられると、あっという間に室内か温められる。
お茶の香りと室内の温度で、畑仕事で疲れていたイーヴィンの体は休息を求めた。
ゆるゆると、イーヴィンの瞼が重くなってくる。
(眠いなぁ……)
どれくらい、そうしていただろう。
うとうとと心地よい微睡みに身を任せていたら、ガタンと椅子が大きく揺れた。
イーヴィンが慌てて目を開くと、目の前に魔女が立っている。
どうやら魔女は、イーヴィンが腰掛ける椅子を蹴ったらしい。
(そうだ、ここは魔女の庵だった)
うっかりにも程がある。
機嫌が悪ければ呪いをかけるような魔女の庵で、こうも無防備に眠りこける彼女は大物なのか、それとも神経が図太いだけなのか。
どちらにしても、仕事を依頼したくせに呑気に昼寝をされては、魔女だってたまったものじゃない。
案の定、失礼極まりない依頼者の態度に、魔女は機嫌を損ねていた。
紫色の目をキツネみたいに釣り上げて、真っ赤な唇の端はこれ以上ないくらい下がりきっている。漆黒のロングヘアは、気のせいか少しばかり浮いているように見えた。
「いつまで寝ているつもり?ほら、これが栄養ドリンクですわ。これを持って、さっさとお帰り」
「えっ?あ、すみません。ありがとうございます」
押し付けられた小瓶を慌てて受け取ると、魔女は杖を一振りしてドアを開け放った。粉雪が混じる風が、ヒュウっと室内に吹き込む。
「さぁ、早く帰ってちょうだい。私は忙しいの」
そう言うと、魔女は再び杖を一振りした。見えないなにかが、イーヴィンを追い立てるように彼女の小さな体を立たせ、外へと追い立てる。「え、え」と驚く彼女の目の前で、外界を遮断するように、ドアは勢いよく閉じた。
「なんだったの……?」
山の天気よりもコロコロと変わる魔女の機嫌は、一体どうなっているのだろう。とはいえ、呪いなしに栄養ドリンクを手に入れることが出来たのは僥倖である。
そういえば料金はまだ渡してなかったなと、イーヴィンは扉を四回叩いた。
「すみません、あの、お代は……?」
「結構です!」
ヒステリックな声で返されて、イーヴィンは「ひえっ」と肩を竦めた。
しばらく逡巡したものの、雪の中に硬貨を置き去りにするのも気が引ける。結局、彼女は有難く栄養ドリンクを頂くことにして、帰宅したのだった。
入ってすぐに大釜の部屋があり、その奥に寝室とお風呂などがあるらしい。
入るなり大釜のそばにある椅子を勧められたイーヴィンは、恐る恐るそれに腰掛けた。
ガタガタする椅子は、脚の長さが揃っていない。お尻を落つけようにも、体が傾ぐ。
こっそり壁にもたれながら、イーヴィンはなんとか座っている体勢を保った。
イーヴィンが腰掛けたのを見届けた魔女は、戸棚からガチャガチャと茶器を取り出した。天井から吊り下がっていた謎の植物を千切り、茶器に放り込むと湯を注ぐ。漂い始めた湯気は、ラベンダーの香りがした。
「栄養ドリンクよね?あいにく完成品は在庫がなくて……材料はあるから、すぐに調合するわ。申し訳ないんだけれど、完成するまでこれを飲んで待っていて貰える?」
「あ、はい。大丈夫です」
差し出されたカップを、イーヴィンは慎重に受け取った。そうでないと、グラつく椅子のせいで零しそうだったのだ。
奥の棚から数種類の物体を持ってきた魔女は、ポンポンと大釜にそれらを放り込んでいく。
途中で冬眠していたらしいカエルを叩き起こして『ガマの吐息』とやらを入れているのを見て、イーヴィンは眺めるのをやめた。
慌ててカップに口を寄せ、大釜から視線を逸らす。
栄養ドリンクに何が入っているかなんて、知るべきではない。材料を見たら、飲めなくなりそうだ。
幸い、出してくれたラベンダーのお茶はイーヴィンの緊張をほぐすのにちょうど良いものだった。
大釜が火にくべられると、あっという間に室内か温められる。
お茶の香りと室内の温度で、畑仕事で疲れていたイーヴィンの体は休息を求めた。
ゆるゆると、イーヴィンの瞼が重くなってくる。
(眠いなぁ……)
どれくらい、そうしていただろう。
うとうとと心地よい微睡みに身を任せていたら、ガタンと椅子が大きく揺れた。
イーヴィンが慌てて目を開くと、目の前に魔女が立っている。
どうやら魔女は、イーヴィンが腰掛ける椅子を蹴ったらしい。
(そうだ、ここは魔女の庵だった)
うっかりにも程がある。
機嫌が悪ければ呪いをかけるような魔女の庵で、こうも無防備に眠りこける彼女は大物なのか、それとも神経が図太いだけなのか。
どちらにしても、仕事を依頼したくせに呑気に昼寝をされては、魔女だってたまったものじゃない。
案の定、失礼極まりない依頼者の態度に、魔女は機嫌を損ねていた。
紫色の目をキツネみたいに釣り上げて、真っ赤な唇の端はこれ以上ないくらい下がりきっている。漆黒のロングヘアは、気のせいか少しばかり浮いているように見えた。
「いつまで寝ているつもり?ほら、これが栄養ドリンクですわ。これを持って、さっさとお帰り」
「えっ?あ、すみません。ありがとうございます」
押し付けられた小瓶を慌てて受け取ると、魔女は杖を一振りしてドアを開け放った。粉雪が混じる風が、ヒュウっと室内に吹き込む。
「さぁ、早く帰ってちょうだい。私は忙しいの」
そう言うと、魔女は再び杖を一振りした。見えないなにかが、イーヴィンを追い立てるように彼女の小さな体を立たせ、外へと追い立てる。「え、え」と驚く彼女の目の前で、外界を遮断するように、ドアは勢いよく閉じた。
「なんだったの……?」
山の天気よりもコロコロと変わる魔女の機嫌は、一体どうなっているのだろう。とはいえ、呪いなしに栄養ドリンクを手に入れることが出来たのは僥倖である。
そういえば料金はまだ渡してなかったなと、イーヴィンは扉を四回叩いた。
「すみません、あの、お代は……?」
「結構です!」
ヒステリックな声で返されて、イーヴィンは「ひえっ」と肩を竦めた。
しばらく逡巡したものの、雪の中に硬貨を置き去りにするのも気が引ける。結局、彼女は有難く栄養ドリンクを頂くことにして、帰宅したのだった。
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