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三章 一年目ふゆの月
27 ふゆの月19日、シルキーの勘違い②
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「最近、どうにもやる気が出ないんだよねぇ。同じことばかり繰り返して、シルキーは嫌になったりしないの?」
イーヴィンの問いかけに、シルキーはコテンと首を傾げた後、フルフルと首を振った。
「まぁ、そうだよねぇ」
編み物をするシルキーは、穏やかな笑みを浮かべて楽しそうにしている。掃除の時も、料理の時も、家事をしている時は常にそうだ。
「家事、楽しい?」
シルキーは、ふわりと微笑んで頷いた。
たったそれだけのことなのに、シルキーがやると淑女の優雅な礼のようだ。
「牧場を引き継いだのもね、お母さんから女らしくなるためにって言われたからなんだ。畑仕事は楽しいけど、女らしいとはちょっと違う気がする。女らしいってどんなことなんだろう?髪を伸ばして、スカートを穿いて、か弱くて、あとは……なんだろうね。シルキーを見ていると、私は女としてはまだまだ未熟なんだなって思うよ。だってシルキーはいつだって淑やかで上品で、貴婦人みたいだから……って、シルキーは男なのに、こんなこと言ったら失礼だよね!ごめんね!」
パチパチと薪が爆ぜる音がする。シルキーはそっと立ち上がると、薪ストーブの前にしゃがみ込み、中の薪を整え始めた。
(いつもより手付きが雑に見えるのは気のせいかな……?)
背を向けて作業をするシルキーに、イーヴィンはどうしようと焦った。
彼を怒らせたら、イーヴィンはこの家に居られない。
この家の所有権はイーヴィンにあるが、真の主は彼なのである。シルキーを怒らせれば、彼女は主人として落第点をつけられ、家に入ることさえ許されない。
そうなれば、この寒空の下放り出され、実家に帰ったら知らない男の元へ嫁ぐことになる。
「それだけは……それだけは、イヤだ。シルキー、ごめんなさい。お願いだから、私を捨てないで」
シルキーがチラリと後ろを見ると、捨てられた子犬のように濡れた目が、彼を見ていた。
イーヴィンがシルキーを男として認識していないことは分かっていたが、珍しいとはいえ彼は男なのである。
可愛く思っている少女に「あなたみたいになりたいなぁ」と言われては、矜持が傷つく。
少しくらい困らせてやろうと妖精らしい無邪気さで悪戯してみたが、予想以上の反応に困惑した。
捨てないで、とは穏やかではない。
そうは見えないが、過去に辛い経験でもあったのだろうかーーイーヴィンを蔑ろにするクソ野郎が近くにいたならくびり殺してやったものを、とシルキーは唇を噛み締めた。
シルキーは、そこでハッとした。
彼は妖精だ。人間を殺すことに、躊躇いはない。彼が大切にしている家を害する者は、許さない。
けれど、同居人を害する者に対して同じような感情を抱くのは、いつもと違う。
「シルキー……」
不安そうに名を呼ぶイーヴィンの声に、シルキーの苛立ちも吹っ飛ぶ。
それまで彼女を世話するに値する人間としか見ていなかった彼の中に、それだけでは足りないという気持ちが芽生えた。
この少女を、守らなくてはいけない。
その気持ちを考える間も無く、シルキーの体が動く。
あっという間に彼女の側へしゃがみ込むと、小さな体をギュッと抱き締めた。
「あの、怒ってる?ごめんね?」
縋るように抱きついてくるイーヴィンに、シルキーは今後彼女に近付く男は排除することを誓いながら、その背を撫で続けた。
もちろん、そんな男なんて存在しない。シルキーの勘違いである。
男に対して無防備過ぎる彼女が、過去に男性との付き合いで何かあったなんて勘違いが出来るのは、人間の男女関係に少々疎い妖精だからかもしれない。
まさかその勘違いで、イーヴィンの婿選びに暗雲が立ち込めることになろうとは、彼女には知る由もなかった。
イーヴィンの問いかけに、シルキーはコテンと首を傾げた後、フルフルと首を振った。
「まぁ、そうだよねぇ」
編み物をするシルキーは、穏やかな笑みを浮かべて楽しそうにしている。掃除の時も、料理の時も、家事をしている時は常にそうだ。
「家事、楽しい?」
シルキーは、ふわりと微笑んで頷いた。
たったそれだけのことなのに、シルキーがやると淑女の優雅な礼のようだ。
「牧場を引き継いだのもね、お母さんから女らしくなるためにって言われたからなんだ。畑仕事は楽しいけど、女らしいとはちょっと違う気がする。女らしいってどんなことなんだろう?髪を伸ばして、スカートを穿いて、か弱くて、あとは……なんだろうね。シルキーを見ていると、私は女としてはまだまだ未熟なんだなって思うよ。だってシルキーはいつだって淑やかで上品で、貴婦人みたいだから……って、シルキーは男なのに、こんなこと言ったら失礼だよね!ごめんね!」
パチパチと薪が爆ぜる音がする。シルキーはそっと立ち上がると、薪ストーブの前にしゃがみ込み、中の薪を整え始めた。
(いつもより手付きが雑に見えるのは気のせいかな……?)
背を向けて作業をするシルキーに、イーヴィンはどうしようと焦った。
彼を怒らせたら、イーヴィンはこの家に居られない。
この家の所有権はイーヴィンにあるが、真の主は彼なのである。シルキーを怒らせれば、彼女は主人として落第点をつけられ、家に入ることさえ許されない。
そうなれば、この寒空の下放り出され、実家に帰ったら知らない男の元へ嫁ぐことになる。
「それだけは……それだけは、イヤだ。シルキー、ごめんなさい。お願いだから、私を捨てないで」
シルキーがチラリと後ろを見ると、捨てられた子犬のように濡れた目が、彼を見ていた。
イーヴィンがシルキーを男として認識していないことは分かっていたが、珍しいとはいえ彼は男なのである。
可愛く思っている少女に「あなたみたいになりたいなぁ」と言われては、矜持が傷つく。
少しくらい困らせてやろうと妖精らしい無邪気さで悪戯してみたが、予想以上の反応に困惑した。
捨てないで、とは穏やかではない。
そうは見えないが、過去に辛い経験でもあったのだろうかーーイーヴィンを蔑ろにするクソ野郎が近くにいたならくびり殺してやったものを、とシルキーは唇を噛み締めた。
シルキーは、そこでハッとした。
彼は妖精だ。人間を殺すことに、躊躇いはない。彼が大切にしている家を害する者は、許さない。
けれど、同居人を害する者に対して同じような感情を抱くのは、いつもと違う。
「シルキー……」
不安そうに名を呼ぶイーヴィンの声に、シルキーの苛立ちも吹っ飛ぶ。
それまで彼女を世話するに値する人間としか見ていなかった彼の中に、それだけでは足りないという気持ちが芽生えた。
この少女を、守らなくてはいけない。
その気持ちを考える間も無く、シルキーの体が動く。
あっという間に彼女の側へしゃがみ込むと、小さな体をギュッと抱き締めた。
「あの、怒ってる?ごめんね?」
縋るように抱きついてくるイーヴィンに、シルキーは今後彼女に近付く男は排除することを誓いながら、その背を撫で続けた。
もちろん、そんな男なんて存在しない。シルキーの勘違いである。
男に対して無防備過ぎる彼女が、過去に男性との付き合いで何かあったなんて勘違いが出来るのは、人間の男女関係に少々疎い妖精だからかもしれない。
まさかその勘違いで、イーヴィンの婿選びに暗雲が立ち込めることになろうとは、彼女には知る由もなかった。
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