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六章 二年目あきの月

70 あきの月17日、仕事の依頼②

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(それにしても……シルキーはよく協力したなぁ)

 以前、彼は仕事を終えたファーガルを牧場から追い出していた。
 今回は、いつもお世話になっているモアの頼みだからと仕方なく了承したのだろうか。
 特別扱いされているのは、モアも同じーーそう考えると、イーヴィンの胸はチリチリと痛んだ。

(シルキーは、女の子のお願いを聞きやすいのかしら)

 ただの同居人でしかないのに、彼が世話をしてくれることが、特別だと思い始めている。
 イーヴィンはそんな自分が、嫌で仕方がない。

 何度も何度も、思うたびに打ち消しているのに、懲りずにもしかしてと思ってしまうのは、馬鹿だからなのかと心配になるのは何度目だろう。

(あぁ、もう本当に……シルキーのことばっかり考えて、嫌になっちゃう)

 最近、彼のことを考える度にイーヴィンは苦しい思いをする。
 せっかく、モアとファーガルの幸せな様子を見て、ほっこりした気分になっていたのに台無しだ。

 消化不良を起こしたように胃が重くなるのを感じて、イーヴィンは胃の辺りを押さえて唇をへの字にした。

「イーヴィン?どうかした?」

「ううん、なんでもない」

 心配そうに顔を覗き込んでくるモアと、気遣わしげに見つめてくるファーガルに「大丈夫だから」と笑いかける。
 だけど、イーヴィンの胸はずっと重いままだ。

 しばらくして、お茶の用意を済ませたシルキーがやって来た。
 モアに出したクッキーだけでは足りないと思ったのか、キュウリたっぷりのサンドイッチやマフィンまで添えてある。

 いそいそと大して幅もないベンチで二人一緒に座るモアとファーガルに、もはや突っ込む元気もない。
 胃がおかしいのは空腹のせいかもと誤魔化して、イーヴィンはサンドイッチを摘まんだ。

 シャキシャキとした歯応えのサンドイッチは、さっぱりとしていて食べやすい。
 モグモグと頬張るイーヴィンを微笑ましそうに見つめてから、シルキーは音を立てることなくお茶の準備を始めた。相変わらず、その手付きには隙がない。

 淹れ直してもらったを飲みながら、モアは鼻を擽るリンゴのような香りに視線を上げた。
 しれっとした顔をしながら、こっそりとシルキーを見る。

 一体どこから見ていたのか、イーヴィンの些細な仕草も見逃さない優秀で敏腕なシルキーは、消化機能を整える作用のあるカモミールティーをカップに注いでいる。

「これで気付かないなんて……溺愛通り過ぎて変態の域じゃない。気付かないのは彼女の防衛本能なんじゃないかと疑いたくなるわ」

 モアの小さな呟きに、シルキーは聞こえているのか無視しているのか定かではないが、たぶんイーヴィンしか見ていないのだろう。
 当のイーヴィンといえば、思案顔でサンドイッチを頬張っている。

 シルキーがあーんと差し出すものを当たり前のように口にするイーヴィンを見て、この場に居るファーガルだけがギョッとした顔をしていた。
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