72 / 110
六章 二年目あきの月
70 あきの月17日、仕事の依頼②
しおりを挟む
(それにしても……シルキーはよく協力したなぁ)
以前、彼は仕事を終えたファーガルを牧場から追い出していた。
今回は、いつもお世話になっているモアの頼みだからと仕方なく了承したのだろうか。
特別扱いされているのは、モアも同じーーそう考えると、イーヴィンの胸はチリチリと痛んだ。
(シルキーは、女の子のお願いを聞きやすいのかしら)
ただの同居人でしかないのに、彼が世話をしてくれることが、特別だと思い始めている。
イーヴィンはそんな自分が、嫌で仕方がない。
何度も何度も、思うたびに打ち消しているのに、懲りずにもしかしてと思ってしまうのは、馬鹿だからなのかと心配になるのは何度目だろう。
(あぁ、もう本当に……シルキーのことばっかり考えて、嫌になっちゃう)
最近、彼のことを考える度にイーヴィンは苦しい思いをする。
せっかく、モアとファーガルの幸せな様子を見て、ほっこりした気分になっていたのに台無しだ。
消化不良を起こしたように胃が重くなるのを感じて、イーヴィンは胃の辺りを押さえて唇をへの字にした。
「イーヴィン?どうかした?」
「ううん、なんでもない」
心配そうに顔を覗き込んでくるモアと、気遣わしげに見つめてくるファーガルに「大丈夫だから」と笑いかける。
だけど、イーヴィンの胸はずっと重いままだ。
しばらくして、お茶の用意を済ませたシルキーがやって来た。
モアに出したクッキーだけでは足りないと思ったのか、キュウリたっぷりのサンドイッチやマフィンまで添えてある。
いそいそと大して幅もないベンチで二人一緒に座るモアとファーガルに、もはや突っ込む元気もない。
胃がおかしいのは空腹のせいかもと誤魔化して、イーヴィンはサンドイッチを摘まんだ。
シャキシャキとした歯応えのサンドイッチは、さっぱりとしていて食べやすい。
モグモグと頬張るイーヴィンを微笑ましそうに見つめてから、シルキーは音を立てることなくお茶の準備を始めた。相変わらず、その手付きには隙がない。
淹れ直してもらった紅茶を飲みながら、モアは鼻を擽るリンゴのような香りに視線を上げた。
しれっとした顔をしながら、こっそりとシルキーを見る。
一体どこから見ていたのか、イーヴィンの些細な仕草も見逃さない優秀で敏腕なシルキーは、消化機能を整える作用のあるカモミールティーをカップに注いでいる。
「これで気付かないなんて……溺愛通り過ぎて変態の域じゃない。気付かないのは彼女の防衛本能なんじゃないかと疑いたくなるわ」
モアの小さな呟きに、シルキーは聞こえているのか無視しているのか定かではないが、たぶんイーヴィンしか見ていないのだろう。
当のイーヴィンといえば、思案顔でサンドイッチを頬張っている。
シルキーがあーんと差し出すものを当たり前のように口にするイーヴィンを見て、この場に居るファーガルだけがギョッとした顔をしていた。
以前、彼は仕事を終えたファーガルを牧場から追い出していた。
今回は、いつもお世話になっているモアの頼みだからと仕方なく了承したのだろうか。
特別扱いされているのは、モアも同じーーそう考えると、イーヴィンの胸はチリチリと痛んだ。
(シルキーは、女の子のお願いを聞きやすいのかしら)
ただの同居人でしかないのに、彼が世話をしてくれることが、特別だと思い始めている。
イーヴィンはそんな自分が、嫌で仕方がない。
何度も何度も、思うたびに打ち消しているのに、懲りずにもしかしてと思ってしまうのは、馬鹿だからなのかと心配になるのは何度目だろう。
(あぁ、もう本当に……シルキーのことばっかり考えて、嫌になっちゃう)
最近、彼のことを考える度にイーヴィンは苦しい思いをする。
せっかく、モアとファーガルの幸せな様子を見て、ほっこりした気分になっていたのに台無しだ。
消化不良を起こしたように胃が重くなるのを感じて、イーヴィンは胃の辺りを押さえて唇をへの字にした。
「イーヴィン?どうかした?」
「ううん、なんでもない」
心配そうに顔を覗き込んでくるモアと、気遣わしげに見つめてくるファーガルに「大丈夫だから」と笑いかける。
だけど、イーヴィンの胸はずっと重いままだ。
しばらくして、お茶の用意を済ませたシルキーがやって来た。
モアに出したクッキーだけでは足りないと思ったのか、キュウリたっぷりのサンドイッチやマフィンまで添えてある。
いそいそと大して幅もないベンチで二人一緒に座るモアとファーガルに、もはや突っ込む元気もない。
胃がおかしいのは空腹のせいかもと誤魔化して、イーヴィンはサンドイッチを摘まんだ。
シャキシャキとした歯応えのサンドイッチは、さっぱりとしていて食べやすい。
モグモグと頬張るイーヴィンを微笑ましそうに見つめてから、シルキーは音を立てることなくお茶の準備を始めた。相変わらず、その手付きには隙がない。
淹れ直してもらった紅茶を飲みながら、モアは鼻を擽るリンゴのような香りに視線を上げた。
しれっとした顔をしながら、こっそりとシルキーを見る。
一体どこから見ていたのか、イーヴィンの些細な仕草も見逃さない優秀で敏腕なシルキーは、消化機能を整える作用のあるカモミールティーをカップに注いでいる。
「これで気付かないなんて……溺愛通り過ぎて変態の域じゃない。気付かないのは彼女の防衛本能なんじゃないかと疑いたくなるわ」
モアの小さな呟きに、シルキーは聞こえているのか無視しているのか定かではないが、たぶんイーヴィンしか見ていないのだろう。
当のイーヴィンといえば、思案顔でサンドイッチを頬張っている。
シルキーがあーんと差し出すものを当たり前のように口にするイーヴィンを見て、この場に居るファーガルだけがギョッとした顔をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる