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七章 二年目ふゆの月

84 ふゆの月22日、聖夜祭の誘い②

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「二十四日じゃないといけないの?」

「この花に蕾がついてだいぶ経つ。おそらく、保つのは二十四日までだろう」

 ふぅと悩ましげにため息を吐くマキオは、祐輔がほのかには決して見せなかった、弱々しい表情を見せた。
 それを見て、イーヴィンはなんだかむず痒いような気分になる。

 彼はマキオであって祐輔ではない。
 そう断言出来るのに、顔が同じだとついつい祐輔と錯覚しそうになるのだ。

(あの祐輔さんが、私に弱い所を見せている。そんな錯覚をしてしまうのよね……)

「そうだ。イーヴィン、私がベルを手に入れられたら、一緒に聖夜祭を過ごさないか?この花が咲く所を一緒に眺めたいんだ」

「え……?」

 マキオの申し出に、イーヴィンは固まった。

(待って、待って、待って⁈え、ちょっと、待って?今、聖夜祭に誘われた?え、聞き間違いじゃなくて?)

 聖夜祭は、特別な夜だ。
 友達同士で盛り上がることもあるだろう。
 だが、ほとんどの場合、独身の男女が共に過ごすことは、特別な意味しか持たない。

「ベルが手に入らなかったらダメなの?」

「それは……察しろよ」

 ブツブツと言い淀むマキオに、イーヴィンは顔を赤らめた。

「でも、いいの?聖夜祭は家族と……魔女と過ごしたいんじゃない?」

「魔女様は師匠であって、家族じゃない。それに……聖夜祭の意味くらい、私も理解している」

 プイッとそっぽを向くマキオが、可愛く見える。
 イーヴィンは思わず昔の悪い癖ーー興奮して抱きつきそうになったが、グッと堪えた。

「それで……どうなんだ?」

 そっぽを向いているので表情はよく分からないが、きっと恥ずかしそうにしているのだろう。
 ぶっきらぼうに聞いてくるマキオにイーヴィンは「いいよ」と答えようとしたが、ふとシルキーのことを思い出した。

「喜んで、と言いたいけれど……」

「何か問題でも?」

 イーヴィンがいない聖夜祭を、シルキーはどう過ごすのだろう。
 彼女がいなければ食べる人がいないから、ご馳走なんて作らないだろう。当然、ケーキもなしだ。

 それでもなぜか、ご馳走の並んだ食卓の前でシルキーが寂しげに佇んでいる姿を想像して、イーヴィンはたまらなくなった。

「ごめんなさい。聖夜祭は、家族と過ごす予定で……」

「そうか。それは残念だ」

 気落ちするように肩を落とすマキオに、イーヴィンの心が痛む。
 だけど、シルキーも大切なのだ。放っておけない。

(そう、ケーキ!シルキーのケーキは絶品なんだもの。聖夜祭の特別なケーキを逃すなんて、勿体無いわ。そうだよ、きっとそう!だからこれは、仕方がないことなの!だって私は、甘いものが大好きなんだもの)

 特別な夜を過ごす相手を、マキオではなくシルキーにした本当の理由に蓋をして、イーヴィンは言い訳を並べ立てる。

 ここにモアがいたら、呆れ返っていたに違いない。

『いい加減、観念しちゃいなさいよ』

 そう、言ったかもしれない。
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