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おっさん、遂に覚醒る
しおりを挟む「ここは……」
頬に触れる冷たい床の感触に俺の意識が覚醒していく。
まるで揺籃から目覚めた幼子みたいな思考が急速に周囲の状況を認識し始める。
神殿を模したかのように磨き抜かれた大理石と黒曜石で形成された都市。
何より都市を囲む【選別の竜巻】を【内側】から視ているという風景……
俺はどうやら無事に【聖域都市】内部に侵入出来たらしい。
あの竜巻を突破するのに疲弊しきって昏倒してしまったのは痛恨の極みだ。
まあ駆け引きもクソもない強引な力技だったからな。
立ち上がった俺は屈伸や双腕旋回運動を交え軽く装備・身体状況を確認。
良かった……最低限に纏めてきたとはいえ、装備面での欠損はない。
強いて言うなら使徒に連なる力【神龍眼】を使った後遺症なのだろう。
酷使した眼の鈍痛はあるが……それ以外、骨や腱に異常はなし。
確かに疲弊はしているが疲労は【黒帝の竜骸】の恒常回復効果で瞬く間に癒えていくので問題ない。
四肢が無事なら戦えるのが前衛職というもの。
確固たる事実に闘志が湧き上がっていく。
ここはある意味未開地であり敵地。
故に過不足なく全身全霊を以て当たることが出来るのは幸いだ。
起きて数秒でそこまで至った俺は周辺の気配を探る。
どこかミステリアスな美青年ノスティマの姿はそこにはない。
俺に呆れてどこかへ行ってしまったのではない限り、侵入の際に別々の場所へと漂着してしまった可能性が一番高い。
何が起こるか分からない以上、別々に行動するメリットは皆無。
彼の安否が気に掛かる。
気に掛かるどころか焦燥すら感じていた。
馬鹿でなくとも今なら分かる。
この【選別の竜巻】を抜ける際に俺が視た過去。
いや――違うな。
時空を歪め因果を遡行したアレは最早、過去の出来事の追体験に等しい。
シア達とのパーティ結成及び初依頼。
メイアと過ごした甘く切ない日々。
そして何より……どれだけ眼を逸らそうとも隠し切れない、俺の最大の痛み。
自身を支える原動力にして骨子――
セラナ・クリュウ・ネフェルティティとの出会いと別れ。
脳内に鮮明に焼き付いた彼女の姿は、未だに色褪せない俺の源生。
でも――何故今になってこのような事が起こったのだろうか?
理由や原因を挙げれば複数考えられるが、ここはシンプルにこう考えよう。
彼……いや、彼女がそう願ったからと。
「きっとそういう事なのだろう、ラナ……」
そう、彼ことノスティマ・レインフィールドの前世がラナであったという証左。
邂逅時の数々の素振りも今にして思えば彼女なりの探りだったのだろう。
疑惑が確信に至ったのはバルコニーでの一幕だ。
今際の彼女が俺に告げた台詞を、あの時ノスティマは話した。
記憶の奥底、喩え魔術でも到達し得ない深淵に沈めたそれを口にした。
そんな事が出来るのは現在・過去・未来を見通す魔人か、あるいは――
「本人しかない。まったく分かり辛いよ」
苦笑を浮かべた俺は首を左右に振り、晴れ晴れとした心で前を見据える。
どのような偶然や因果、宿業が作用したかは分からない。
だが運命のあの日――
死を迎えアリシア達の助力で円環の理へと戻ったラナは足掻いたのだろう。
通常円環に戻った魂は全てを漂白され無地の魂として生まれ変わる。
しかし奇跡的に自分という意識を持ち越すことに成功したのだ。
俗にいう【転生者】として。
転生者はこの世界でも何例か確認されている。
魂の宿る事のない器に招かれる魂、それは時に異世界や前世の記憶を持つ。
歴史上でいえば大召喚術師ユーナティアなどもそうだったと聞いた。
ただ完全に円環の理の影響は拭い切れないらしく、赤子の頃から過去世に目覚めるのは稀らしい。
きっとノスティマ自身も過去の自分(ラナ)に目覚めたのはここ最近だろう。
そうでなければあのお転婆が駆け付けない理由がない。
ただまあ、色々考えていそうだけどな。
男になってしまった自分や魔術学院名家として立場とか。
無論、その想いを踏みにじる訳にはいかない。
ただ次に会ったら一言、言ってやろうとは思う。
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