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第2章 ゆるゆる逃避行は蚊帳の外?
第009話 故郷を後に……
しおりを挟む「私の親は行商人だから隣りのレンリート伯爵領なら会う事も出来ると思うわ」
「うへへ、これからはリリちゃんと一緒に住めるんだねえ?」
ミル兄の奥さんエイミーさんも移住に賛成のようだ。マリエルに後ろから抱き締められる。俺の周りの若い女はこんなのばっかだな。
その後散々マリエルにオモチャにされたけど、昼前になってやっと村を出る事になった。おじさんもうボロボロだよ? お父さん達は移住の準備もあるし受け入れる方の問題もあるから後日になるそうだ。
「リリちゃん、待っててね? 必ず会いに行くから」
「う、うん」
「えへへ、私ずっと妹欲しかったんだぁ。リリちゃんいっぱい可愛いがってあげるね?」
「うん?」コテリ
何故俺より背が低い姪っ子に妹扱いされているのか、ミル兄に助けを求める目線を送るけど目を逸らされた。
お父さんお母さんと挨拶を交わしてからサッと馬車に乗り込んで村を出る。去り際に窓を少し開けて村を見る。もう此処には来る事は無いんだろうな。
まあ元々20年近く来て無かったんだけど、そう思うとちょっと感慨深い。
「………………シャルロッテさん」
「何かしら?」
「あの、……ありがと」ボソッ
うう、改めて言うと恥ずかしいな。でもわざわざ家族に会わせてくれたり移住まで薦めたり言わない訳にもいかないしな。シャルロッテさんをそっと見ると眉間を指で摩ってる、……何故??
「ええ、気にしないで」
シャルロッテはアイリスが赤くなった頬を両手で隠し上目遣いで見てくる仕草にやられていた。
(可愛い過ぎるでしょう! そんなんだからミリアーナ達にオモチャにされるのよ!!)
しばらくして全員が馬車と馬に乗って速度を上げていく。馬車の中ではナージャさんが楽器のリーフの弾き方を教えてくれた。
「暇潰しには良いでしょ? 曲を覚えたら家族にでも聞かせてあげたらどうかしら?」
確かにこんな楽器を優雅に弾いてたら格好良い……。マリエルに妹扱いされずに尊敬されるかも知れない。俺のやる気を見てナージャさんが小さいリーフを取り出して渡して来た。
「体格に見合わない物は扱い難いしそれだけで滑稽に見えるわよ?」
子供用みたいに見えそうだけどシャルロッテさんがそう言うなら仕方ないか。
『見えそうと言うか明らかに子供用じゃろ』ボソッ
ナージャさんに隣同士で教えて貰いながら小休止を挟み進んで行くと、夕方前には次の町まで着いていた。
「今回はすぐに出るから挨拶は必要ないわ」
シャルロッテさんが門番と話してからこの町の傭兵ギルドに入っていった。
「傭兵ギルドに泊まるのね」
「ええ、子爵領を出るまでは安全を考えてね」
案内された職員用の仮眠室に入るとシラルの町の時と同じ間取りだった。新鮮味は無いけど慣れてるから落ち着けるか。
と思ったけどミリアーナとシャルロッテさんとナージャさんが同じ部屋なのは分かる、けど何で俺までそっちなの?
隣りにはレイク達が泊まるしそっちで良いじゃん。……誰も賛成してくれなかったけどな!
何かもやもやするから鍛練でもしようかと思ったけどそれも許可が出なかった。昨日も身体動かせなかったから剣を振っておきたかったのに。
「鍛練場を使えば目立ち過ぎるし屋上を使う許可を取れば職員に勘繰られるわ。此処は味方ばかりじゃないのよ? 中には教会の信者もいるの、危険はなるべく避けないとね?」
「……はい」
しっかり釘を刺してシャルロッテさんは出て行った。
『うむぅ、仕方がないのう。魔法の鍛練でもするのじゃ』
何をするんだよ。
『体内で魔力循環じゃ。魔力操作レベルを上げるのじゃ。魔力の無駄遣いが無くなるし魔法発動が早くなるのじゃ』
外魔力循環じゃないんだな? あんなもん自力でなんてやりたくないからな。
『うむ、我を通さねば汚染された魔力を吸収する事になるからの』
お前の魔力も俺にはキツいんだけどな。まあ良い、やる事無いしやるか。
「リリスお嬢様、リーフでも練習しましょうか」
やる事あったわ。
シャルロッテはアイリスの事をナージャとミリアーナに任せて隣りのレイク達の部屋で、先行させたサージェスから情報を受け取っていく。
「今のところ不穏な情報は無いな。この傭兵ギルドでも聖女の噂はぼんやりしたものだったぞ」
「そう」
「冒険者ギルドでも酒の肴程度の噂だ。軽く探ってみても何も掛からなかったな。ただ教会には動きがあった」
私は思わず目を細くして話しを聞くとサージェスは怯えながら話していく……失礼な奴よね。これで無能なら踏み潰してやるのに。
「えーっと、神兵を集めていて、シラルの町に向かわせるらしい」
「シラルの町?」
「ああ、聖女を傭兵ギルドから取り戻す、――らしい」
「……へえ?」
聖女様をねえ? 既に町を出ているのに、何時までもそんな所にいる訳無いじゃない。でも下手をすれば村で会っていたかも。いえ、サージェスが居ればそんな事は無いか。
「それがブラフで此方に来る可能性は?」
「ブラフは無いだろう。最もアンタ等が来た事で何か勘付かれる可能性を考えなければ、だがな」
「貴方がそう言うのならそうなのでしょうね」
レーナは上手く躱せるかしら? まあ大丈夫よね。想定の範囲内だしそのくらい簡単に乗り越えて逆に利用してくれないと教育した甲斐が無いわ。
「それで、俺等はどうすりゃ良い? 朝一には町を出るんだろ?」
このまま神兵や衛兵の動きを探っておかないといざと言う時対処出来ないわね。神兵や衛兵、片方なら傭兵だけでどうとでもなるんだけど。でもサージェス達には先行して次の町までの安全を確認して欲しいし、どうしようかしら。
コンコン
「シャルロッテ様、此処のギルド長が呼んでいます。町長が会いたいそうです」
「門番の伝言を聞いて無いのかしら。会う予定は無いと伝えてきて頂戴」
「それが、伝言を再度伝えたのですが、そうしたらギルド長を通して更に面会を求めて来たのです」
そこまで行くと断ると変な憶測を呼びそうね。全く面倒な、つまらない事だったらどうしてあげようかしら。
つまらない事だったわ。自分の不正を正しに来たと思い込んで探りを入れたり金で釣ろうとしたり脅して来たり本当くだらない。何故か私がイラついていると町長だけじゃなくギルド長や副ギルド長までビクついているようだったけど、厳つい身体して根性ないわね。
徹底的に鍛え直すよう上に進言しようかしら。想像して思わず笑みを浮かべたら更に怯えられたわ、こんな美人に微笑まれてその反応、本当に失礼よね。
「で? あの町長、明らかに不正を行なっているようだけどどうするの?」
「どう、とは?」
「どうやって告発まで持って行くか聞いてるのよ」
「それは、俺の判断ではちょっと……」
町長を帰した後ギルド長にどう対処するのか問い質したけど、このギルド長は駄目ね。イラっとくる気持ちを抑えて副ギルド長の方に命令をしていく。
「商工ギルドと連携を取って町長側の情報収集をして頂戴。傭兵には町の動きを見張らせて。何でも良いから何時もと違う動きがあればすぐに知らせるように、良いわね」
「はっ、分かりました」
「情報が集まらない、集めた情報を活かせないって事があるならシラルの町の傭兵ギルドのギルド長、レーナにでも伝えて頂戴」
私は明日にはこの町を出るからこれ以上関われないから、と断りを入れてサージェスの所へ戻って行った。でも私が関われないって言った時の2人のホッとした顔、忘れないわよ。
「成る程、上手い事この町の傭兵ギルドや商工ギルドを監視に使えたって事だな。全く、恐ろしい女だよアンタは。それじゃ俺等は予定通り先行して次の町まで行って良いって事だな」
「そうね、でも恐ろしい女ってどう言う事かしら? 詳しく教えて貰えないかしら?」
ええ、これはとても重要な事だもの。何故か顔をひきつらせているサージェスだけどしっかり聞いておかないとね?
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