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第2章 ゆるゆる逃避行は蚊帳の外?
第015話 閑話 助けられた者達?後編
しおりを挟む腕が千切れた冒険者視点
俺の名はブランドン、ランク4の高ランク冒険者だ。仲間3人はまだランク3だけどそう遠くないウチに4に上がると思っている。そしてその仲間3人と共に強制依頼のゴブリン狩りに来ていた時だ。
俺等はゴブリンナイトとソルジャーを相手にして戦っていたんだ。仲間となら殺れる自信があった。
けど俺がナイトを惹きつけている間にソルジャーを倒して援護に来て欲しかったのに、更にゴブリンの援軍が来てどうにもならなくなっちまった。
ゴブリンナイトの一振りが俺の左腕を斬り飛ばした。一瞬何が起きたか分からなかったが情け無く悲鳴を上げちまった。結果それが良かったのか凄腕の傭兵が助けに入ってくれて助かったんだ。
仲間が血が止まらない俺の腕を紐で縛って焼いて血を止めた。けど俺はもう片腕だ、冒険者としてはやっていけない。せめて華々しく散ってやろうと決意を固めていたら仲間に無理矢理拠点に引っ張られた。
そこでは死線を彷徨っているような奴等が集まっていて思わず息を呑んだ。この田舎町じゃこんな戦争みたいな光景は見た事が無かったからだ。
でも本当に息を呑むような光景はその後に訪れた。桃色の髪と目をした色白の美少女が死にかけの奴等を次々と癒やしていたんだ。……それも無償で。ぼろぼろと涙を流して感謝する奴等、俺もその光景を見て癒やしを受けた訳じゃないのに涙が出ちまった。コレは何の感情だ?
何時の間にか俺の番が来てあっさりと癒されちまった。――しかも斬り飛ばされた左腕をくっつけられて。高位の神官でも焼いた腕を癒してくっ付ける何て無理だろうにとんでもない神業だ。
間近で見た聖女様は幼いながらもとても美しく尊く見えた。その後スタンピードは収まって何とか終息して町に戻った。
今回の件で冒険者ギルドに愛想を尽かして傭兵ギルドに行った奴等もいた。けど俺等はこの町じゃランクも高いし、一からやり直さなくちゃイケないのは正直キツいから諦めた。
そのかわり傭兵ギルドから必要な情報は買う事にした。冒険者ギルドが良い方向に変わってくれれば良いんだけどそう簡単には行かないだろうしな。
数日後、聖女様に偶々会って腕に残った赤いスジを治療させてくれと言われたが治療は断った。申し訳無いがコレは聖女様から癒やして貰った証、子供が出来たら目一杯自慢してやるんだ。
そう言ったら聖女様には困った顔されちまったけどコレばっかりは仕方ない。
戦鬼と呼ばれる女性冒険者視点
アタシはタニア、ランク4の冒険者だ。185cmの長身と鍛えた筋肉から戦鬼なんて影じゃ呼ばれてるけど女だ。大事な事だからもう一度言うけど女なんだ。
女だからってバカにされない為に鍛えまくってたらガタイもあってそんな呼ばれ方されるようになっちまったんだよな。
強制依頼でゴブリン退治に仲間3人と来ていた。ゴブリン共にアタシが無双して仲間がそれをフォローしていく。何時ものやり方だ。
アタシは冒険者ギルドじゃもうすぐランク5に上がって男女合わせても町の冒険者でトップになる。その自尊心がアタシの勘を鈍らせちまった。
ゴブリンナイト2匹とソルジャー達が群れを為して襲い掛かって来た。耐えているウチに背中からソルジャーに斬り付けられた。もう駄目かと思ったけど、それでも仲間と耐えていたらとんでもない凄腕が1人で皆んなぶっ殺しちまった。
コレが本物の凄腕か、ちっぽけな町で出来たアタシの自尊心は簡単に壊された。
背中の傷は思ったより深く広く血が止まらなかった。アタシも此処で終わりか。仲間が泣きながらアタシを抱えて撤退して行く。良い仲間に出会えたな。悔いは腐る程あるけど仕方ない。
近くの拠点に行こうとしたら癒やしの聖女がいるからと別の拠点に行かされた。こんな田舎に神聖教会が聖女を派遣したのか? けど幾らお金が掛かるか分からないしこれだけの深手を癒せるとも思えない。
万が一癒せてもそんな高位の祝福なら下手しなくても全員身売りして奴隷堕ちでもしないと払えない筈だ。そんな事になるくらいならアタシ1人死んだ方がマシだってのに、皆んなアタシが助かるかもって喜んでやがる。本当に良い仲間だぜ。
その拠点では驚く程に空気が軽く感じた。癒やしを受けたんだろう奴もその仲間も皆んな笑顔だ。大金を請求されたとは思えないくらいだ。
その聖女は幼い美少女だった。背も低く見るからに美少女だ。アタシもこんな風に生まれていたら戦いに身を置く事もなく世界が変わって見えたんだろうか。
こんなガタイでつまらない劣等感を感じながらも、金が無いから断ろうとしたら無償で癒やしているそうだ。
神聖教会がこんな事を許すのか? 困惑しながらも癒やしを受けたらあっと言う間に治されてしまった。仲間達は泣きながらお礼を言ってるけどアタシは只々困惑していた。
その後血を流し過ぎて休んでいるとゴブリンキングが出て来たと知らせが来た。動ける奴等は皆んな出て行ったがあんな化け物みたいな凄腕がいるんだ。ゴブリンキングくらいどうと言う事もないだろう。
その予想通り暫くしたら終息したと言う知らせが届いた。
町に戻って数日後、変装している聖女様に偶々会った。あの時アタシは困惑して、碌に礼も言えなかったから改めて礼を言わせて貰った。生きて仲間と一緒に、奴隷堕ちもせずにいられるのは間違いなくこのお方のお陰だからな。
だがこの聖女様にそれよりも傷跡は残っているから治させて欲しいと言われてしまった。畏れ多いと断ったけど私達、民を守ってくれたお礼を受け取って欲しいと言われてしまい断れなかった。
だがついでにと言われて右膝と目を治して貰えたのには驚いた。右膝の古傷は分かるけど目は何でだろうと思ったらとんでも無く良く見えるようになっていたんだ。そう言えば子供の頃はこんな風に見えていた気がする。アタシは目も悪くなってたんだな。
クリアになった視界に感動していると治させてくれてありがとうございますと逆にお礼を言われてしまった。聖女様のその笑顔にはアタシの心まで溶かされちまいそうになったよ。
けど騙し騙しやって来たけどコレでアタシはまだ上に行ける。いずれあの凄腕のようになってやる。思わず獰猛な笑みをしてしまったら聖女様を怯えさせてしまった。
しかしこんな見た目だけじゃなく中身まで綺麗な聖女様が神聖教会にいるなんて神聖教会も捨てたモンじゃないのかもな。
って思ってたらあの聖女様は性別を偽って神聖教会から逃げていたらしい。やっぱクソだな神聖教会は。あの聖女様が神聖教会に捕まってたら金を産む性奴隷にされていただろうな。うっ、想像したら神聖教会をぶっ潰したくなって来たぜ。まあそう思ってる奴はこの町には腐る程いるだろうけどな。
男でもアイリスならイケると言う猛者達の視点
騒動からしばらく後の話し。――グリースト達の仕事は堅実で実力もシラルの町では上位に入る。それでも傭兵ギルドでの評判が微妙なのは理由があった。
「しっかしリリスは可愛いかったな!」
「おう、いなくなる前によろしくヤりたかったぜ! グハハハハ」
「へっへっへっ、だよなぁ。でも俺は男の格好の時の方が良いかな?」
「ギャハハハハ! それは拗らせ過ぎだろお前」
「俺はカリンとの姉妹セットで頂きてえがな!」
「おお、流石グリースト! 良いなそれ!」
「「「わはははは!」」」
此処は傭兵ギルドの受け付け前、コレット達がカリンに仕事の報告をしている真後ろでグリースト達がしている会話だった。
山賊と見紛うゴツい強面揃いのグリースト達だ。コレット達はドン引きどころか怯えてしまっている。アイリスがいた時は気丈に振る舞って庇っていたが、やはり怖いモノは怖いのだ。
「ちょっと、コレットさん達が怯えてるじゃないですか! おかしな事を言うのは止めて下さい!」
「何言うんだよカリン。俺等は順番待ちの間にちょっと仲間と話してただけだぜ?」
「そうそう、ただの日常会話だぜカリンちゃん?」
「ちょっ、ちゃん付け止めて下さいよグリーストさん! ゾワゾワって来ましたよ!?」
「うはははは、そんな顔で見るなよカリンちゃん。傷付いちゃうじゃねえか!」
「そうだぜカリンちゃん」
「その大っきなお胸様で泣きたくなるぜ」
「「「グハハハハ!」」」
思わず自分の体を抱き締め蔑んだ視線を送るカリンだったが、寧ろグリースト達にはご褒美になっていた。
グリースト達の悪ノリはエリックが止めに入るまで続いていていた。ギルドからの評判も微妙になるのは当然の事だった。
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