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てんと せん

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幕間② ファミリー3の夏 Ⅱ

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「うーん、勿体無いとは思うけど、ま、ずっと置いとくわけにもいかないからさ」

そう言いながら澪は全てのペットボトルのキャップを緩めて行くとチューブを一斉に抜いた。──よりにもよってなぜかまだ上の受け皿に水が溜まっているペットボトルのチューブまでも抜いた。

「あ」

誰かの声がした気がした。変なところからチューブを抜いたことにより、当然受け皿に溜まっていた水が流れ落ちた。澪はびっくりしたように飛び退いた──さっき蓋を外したペットボトル側に。そこからはカオスだった。まず、澪が飛び退いたことにより、蓋のないペットボトル達がバランスを崩して倒れた。ウッドデッキに寝転がっていた湊音はペットボトルから撒き散らされる水を避けようと素早く転がってその場を離れようとして、足元にあった、ウッドデッキの下のペットボトルを引っ掛けた。そのペットボトルのそばに座っていた悠乃はペットボトルからの突然のスプラッシュを避け切れるわけもなく、びしょ濡れに。湊音もペットボトルに足を引っ掛けたことで逃げ遅れ、ずぶ濡れに。澪は澪で上から流れ落ちてくる水を止めようと何を焦ったのか、ペットボトルにピッタリはまっている受け皿を抜いたことで、ペットボトルによってろうとのように少量ずつ落ちていた水が一気に流れ、澪の足を直撃した。唯一水を汲んで帰ってきたらところだったために少しみんなより装置から遠いところにいたるいだけが水害を免れた。

「「「…………」」」

「……え、何してんの……」

目の前で起こったカオスについていけないるい。

「……お前、今の受け皿を抜いたやつ、現状で思いつく限りの最悪の選択肢だったぞ」

右半身に水を被った湊音が起き上がってポタポタと水を垂らしながら澪に言った。

「……百歩譲って、抜かない方がいいチューブまで抜いたのは、忘れてたとかならまあわかるけど、なんでほんとにその受け皿取った?」

悠乃も髪から水を滴らせながら澪を見上げた。澪は硬直したまま顔だけゆっくりと2人の方に動かして言った。

「……水止めないと、と思って……」

「むしろ勢いましたよ」

「状況悪化してんね」

「マジごめん……」

謝る澪に2人はツッコミを入れながらゲラゲラと笑った。状況を飲み込んだのかるいも控えめにクスクスと笑っていた。

「いやー!澪って焦ることあるんだな!」

「めっちゃ面白かった」

「今の動画とっとけばよかった!」

みんなに釣られたのか澪も笑い出した。結局その後も、まともに片付けても水が流れるたびにみんな「受け皿……(笑)」となってしまい、夕食までずっと笑っていたのだった。今思えばあれがファミリー3で初めての4人での遊びだった。

***

「もー!なんなの!!」

悠乃が去年の夏を回想している間にるいは大分ずぶ濡れにされたようだ。

「いやー去年だってお前だけ濡れてないじゃん」

「今年は濡れてもらうから」

2人も去年のこと覚えてるんだ、と悠乃は1人嬉しくなった。澪と湊音の2人はもう完全に開き直って逃げ回るるいをシャワーホースで狙って確実に仕留めようとしている。2人なのを利用して挟み撃ちにしたり、シャワーホースのノズルを切り替えて広範囲に水を散らしてるいの逃げ場を無くしたりしていて、なんというか、非常にイキイキとしていて楽しそうだ。なんだかんだ逃げ回るるいも笑顔で悠乃はほのぼのとしていた。と、その時、るいの顔に湊音のホースから出た水が命中した。

「へぶっ」

るいが情けない声をあげてうずくまった。

「うわっ。ごめん、流石に顔に当てるつもりはなかったんだけど」

湊音が謝った。るいは動かない。

「痛かった?大丈夫?」

「怪我したか?」

動かないるいを心配したのか澪も湊音もシャワーホースを地面に置くとるいの様子を伺った。

「大丈夫。ちょっと待ってて」

るいはすくっと立ち上がるとやけに冷静な声で答えた。ウッドデッキに登ったかと思うと悠乃の横を通って部屋に入って行った。

「……あいつもしかして怒った?」

3分ほど経っも戻らないるい。

「……ちょっとやりすぎたかな……」

ちょっと度が過ぎていたかも、と澪と湊音が心配し出して、悠乃がさすがに様子を見に行くべきか、とウッドデッキに登ろうとした時だった。

「うわっ」

湊音が叫んだ。悠乃が振り返ると湊音のシャツが濡れていた。

「え、」

「なんで」

驚く悠乃と澪。だが次の瞬間、澪の後頭部にも水が命中した。

「冷たっ!」

びっくりする3人に上から声が降ってきた。

「驚いたでしょ、ここから反撃してやる!」

なんとるいが家のルーフバルコニーから水鉄砲で「狙撃」してきていたのだった。

「悠乃、あんたはやってないけど、見てて止めてくれなかったから同罪ね」

今度は悠乃に狙いを定めるるい。悠乃は焦った。

「待って、待って」

「何。濡れたくないの?それなら……そうだな……こっちの基地はまだ人手不足でここに一本水鉄砲のあまりがあるけど。返事次第では濡らすね」

「もちろん!もちろん仲間になります!」

濡れない上に楽しそうだ。悠乃は2人を即決で裏切ることにした。

「え、おい、悠乃、おまえはこっちサイドだろ」

突如の裏切りに兄2人は動揺した。

「僕は楽しいことには敵味方とかどっちサイドとかないと思うんだ」

「良さげなこと言ってるけど、僕らを水鉄砲で狙撃することを楽しいって思ったってことよな、それって」

悠乃は返事をせずにニヤッと笑うと室内に戻ってルーフバルコニーに登った。第二次水かけ戦は悠乃が参戦したことによって、ただでさえ場所的に有利だったルーフバルコニー組の圧倒的勝利で終わった。

***

 それが去年の夏のことだ。るいは去年の攻防を思い出して1人笑った。毎年恒例となりつつある、夏のずぶ濡れデー。家族が一段と仲良くなる夏の一コマが待ちきれない。今年は何があるのかな。るいはワクワクしながら3539年、6月のカレンダーをめくった。ファミリー3で過ごす3回目の夏はもうすぐそこだ。
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