ほんとうに君が好き。

カスミソウ

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二人の初めての旅行

3日目①〜積丹半島〜

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「いつまで寝ているのかしら」
「……ん、んぅ~…」

体を揺すられ、風子は夢の世界から意識を取り戻す。まだ寝ぼけながらもゆっくりと目を開けた。

「……。相原さん…?」
「…おはよう、小川さん」

未来は風子のベッド上に座り、風子の顔を覗き込むようにして居た。風子はいきなりの恋人のアップに驚き、完全に目を覚ました。

「お、おはようっ…」
「もう起床時間の10分前よ?何故誰も起きていないのかしら」
「い、いや。それはあくまで目安だから!別に朝食の時間に間に合えばいいし…」

友里と香菜はまだスヤスヤ眠っていた。未来はキョトンとした顔で風子を見る。

ここまで10分前行動とか、真面目~…(笑)まあ、そうゆうとこが可愛いんだけど。

「ね、相原さん」

風子は体を起こし、未来の顔との距離を縮める。未来は少しびっくりしたようだが、すぐいつもの澄ました顔に戻る。

「おはようのキス、してもいい?」
「……んっ!」
「んぅ…」

風子は未来の答えを聞く隙も与えず、唇を押しつけた。でも優しく、軽いキスだった。自分の抑制が効くようにタイミングを考えてキスを終える。

「…はぁ…」
「…ふふっ、」

改めて二人は、真っ赤になったお互いの顔に向き合う。二人は微かな笑みを零して、はにかんだ。

「「おはよう」」

未来と風子は他の二人を起こさないように立ち、洗顔と歯磨きのため、洗面所へ向かう。

「…にしても、朝からよく人がいるところで出来るわね…」
「いや~、あの二人寝てたし!まさかそんなタイムリーに起きてこないでしょ」
「…そうかしら」

二人は鏡の前に立ち、歯を磨く。どちらともまだ寝癖がついていて、風子は未来が起きて、自分をすぐ起こしてくれたのかと少し嬉しくなった。

からかってあげようかな?よーし…!

「……それに、相原さんもちょっと期待してたんじゃない?私だけを先に起こしてくれたのも、キスしたいから…、だったりして!」
「……っ!」

未来はゴホッ、と咳込み、慌てて口に水を含み、うがいをし始めた。それを終えてからも辛そうに、肩で息をしていた。

「あ、大丈夫…?」

風子の声かけに返事をする代わりに、未来はキッと睨みつけた。咳き込んでいたからかもしれないが顔が赤い。風子はその姿が愛おしくて、ふふっと笑った。

「ほんと相原さん、分かりやすいんだから~」
「……!ち、違うわ、私は別に…!」
「「おはよー、二人とも」」
「「…!!お、おはよう!」」

友里と香菜も洗面所にやって来た。時刻は6時を少し過ぎていた。

もうそんな時間か…。……あんまり戯れてると怪しまれるよね。

風子は自然を装って未来との距離をあける。

「…?」

未来はそれに気づいたようだが、友里と香菜が風子に話しかけたので、訳を問う事は出来なかった。



「ねー、今日のバスの座席変えない?」

3日目のスケジュールとしては、クラス別の観光、そして夜は学年のレクリエーションだった。クラスでは積丹半島に行くことになっていてバスの座席にも縛りはないが、流れで未来も三人と行動する事になった。

「四人でシャッフルってこと?」

突然の友里の提案に風子は問いかけた。そゆこと!、と友里は笑う。

「ずっと隣一緒って、なんかつまんないじゃん?」
「んー…、そうかなぁ」

今まで友里と隣に座っていた香菜が少し寂しそうな顔をする。しかしその後、別にいいけどっ、と笑った。まあ、ダイレクトに失礼な事を言えるのが友里だ。みんなその性格についてはよく理解している。

「じゃあ、じゃんけんっ!いくよー」
「「「う、うんっ」」」



「風子、カーテン開けてもいいか?」
「うん、大丈夫だよ。香菜姉」

じゃんけんの結果、風子は香菜と相席になった。その一つ後ろの席には未来と友里が座っている。
未来の顔が少し険しいのは気のせいかもしれないが…。

「積丹半島まで1時間半かかるんだってさ。長いなー」
「北海道は広いしね!それに香菜姉と二人で話すの久しぶりだからちょっと楽しみだし」

嬉しい事言ってくれんじゃん、と香菜が笑った。それに、本当に香菜に話したい事はいくつかあった。風子は早速、質問をぶつける。

「彼氏との馴れ初め教えてよー?」
「…えぇ、それかよ~」

香菜はちら、と後ろを確認する。そしてすぐ風子に向き直り、小声で話した。

「今から話す事は友里には内緒な」
「え、どーして?」
「どーしてもだよっ。いいだろ別にー」

そして香菜は語り始めた。香菜は二年の夏から学習塾に通っていて、彼も同じ教室だった事。秋頃から駅までの帰り道が重なって、塾がある日は一緒に帰ることが多くなった事。そして年が明け、しばらくすると、LINEで告白されたという事。

風子は話を聞いている間、ずっと黙って香菜の表情を伺っていた。すると恋する乙女とは少し離れた寂しそうな顔でボソボソと話しているのだった。

「……こんな感じかなっ!いや~照れるわ」
「…香菜姉…」
「…ん?」

香菜も風子の顔を見る。すると、あまりに真剣な風子の瞳に、香菜は少したじろいだ。

「香菜姉は、今幸せなの?」
「……っ」

香菜はゴクっと唾を飲み、視線を下に逸らした。しばらく何とも言えない沈黙が流れる。しかしそれを切ったのは香菜の顔に貼られた笑顔だった。

「…し、幸せだよっ!当たり前じゃんっ。リア充の仲間入りしたしぃ~」

余りにもつくられたと言わんばかりの笑顔に、風子は少し悲しくなった。私には相談出来ない何かがあるのだろうか。そう思いながら風子もそっか、と相槌を打つ。そんな風子の様子を見て香菜も何か感じ取ったのか慌てて話題を変える。

「……そっ、そういやさ~!風子も相原さんと仲良いよな!なんかあったの?二人の間でっ」
「え、え~?」

いきなりの展開に風子は声が上ずりそうになった。仲直りのきっかけになった、と言えばそれすなわち、告白して付き合ったってことで…。そういえば友達期間が私達には無かった事を思い出した。

「そういや、去年の打ち上げの二次会すっ飛ばして走ってたよな?確か~…、相原さんが帰った方向…」
「あ、あ、あー⁉︎そ、そうっ!その時にー…、な、仲直りしたんだよっ」
「やっぱケンカしてたのかー」
「う、うん!そうなんだよね~…はは」

仲直りしたのは本当だし…。

変に推測されるよりも、事実を伝えたほうがいいと思い、風子は付き合った事を抜きにして話す事にした。

「…あ、そうだ香菜姉。相談があるんだけど…」
「んー?なんだ…?」

風子は香菜の耳に近づき、コソコソとある考えを話した。



「じゃあみんな!先生の後ろに着いて一列で歩くように!他の観光客の邪魔にならないようになー」

風子達のクラスは無事積丹半島に到着し、トイレを済ませ、ついに出発する事になった。

半島の先まで行くには何度も坂を登り下りしたり、細い道を譲り合って行かなければならず、少し険しい道であった。
この日は天気も良かったので、危険だからという理由で途中で引き返さなければならないということはまず無さそうだ。

「あ、相原さんっ。危険だと思ったら声かけてね⁉︎助けるから!」
「……ええ、ありがとう(この子、私の接近禁止令のこと覚えてないのかしら)」

風子は未来の後に着き、その後ろを香菜、友里が歩く。最初は階段を登ったり降りたりと、穏やかな感じで道を進む。風子達も友里や香菜と写真を撮ったりしながら楽しく進んだ。

「……っ」
「おおっ⁉︎ど、どうしたの?」

暫くして、未来がいきなり立ち止まった。少し気が抜けていた風子はぶつかりそうになって大きい声を出してしまった。

「ん?……あ、」
「……」

未来の足下を見ると、そこは穴が空いて隙間から下が見える踏板だった。下に見える堀(?)はかなり深く、未来は怯えて一歩出せずにいるようだった。

前の人達、もう結構進んじゃってるよね…?後ろも詰まって来てるし…。…よし!

思い立ったが吉。風子は未来の前に行き、後ろに手を伸ばした。

「私が連れて歩くから、相原さん目瞑ってついて来て!」
「…え?」
「絶対、離さないからっ!」
「……」

……!繋いでくれた!

未来は何も言わず、差し出された風子の手を握った。人前でも素直な未来の態度が嬉しくて、風子は気が引き締まった。
風子は未来がつまずかないように、ゆっくり歩いてそのゾーンを進む。

「……相原さん、もう大丈夫だよ?」
「……あ。…ありが、とう…」

未来はそう言うなりパッと手を離し、風子を置いて先に進んで行った。立ち尽くす風子に、後から来た香菜と友里が声をかける。

…行っちゃった…。人目気にしてるのかな?まあ、仕方ないよね…。

風子はそのまま三人で道を進んだ。目的地までは後もう少しだった。



「やあ~っと着いたぁ~!!」
「結構体力使うよなぁ」

無事、半島の先に着き、目の前には照り輝く海原が広がっていた。吹く風が冷たくて、潮の匂いがして、気持ち良い。

風子達のクラスはそこで集合写真を撮り、各々で分かれていく。風子は香菜と友里と共に、未来を誘いに行く。

「相原さん、写真撮ろ!」
「…ええ、分かったわ」

四人で海をバックに何枚か写真を撮る。すると、人前ではあまり笑わない未来がにっこり微笑んでいた。その表情がまた可愛くて風子は胸がキュッと締め付けられる。

「あれ、相原さんと写真撮ってるのー?私達もいいかな?」

四人の楽しそうな雰囲気にクラスの女子が釣られてやって来た。まあ、常に憧れの存在である未来が一緒に写真を撮ってくれるなら、それこそ嬉しい事はない。

「え、ええと。私は…」
「いいじゃん!撮って来なよー!」

いきなりのお誘いに慌てふためく未来を、三人は全力で押し出した。ほぼ無理矢理といっても過言ではなかったが、未来はそれに従い、申し訳なさそうに輪の中に入って行った。

「あ、私達もこの後いい?」
「相原さーん、私達も一緒に~」

一度、他の人と馴染む未来を見ると、次々に他の女子達も押し寄せた。次第にここぞとばかりに男子達も寄ってきて、未来の周りにはちょっとした列が出来ていた。

これが、風子の狙いだった。

この前のデートの時、相原さんの友達の話をして泣いちゃったのは、きっと人と付き合う事に恐怖感があるからだと思ったんだよね。1番信頼していた親友と疎遠になって、周りが信じられなくなった。だから、今も優等生として他人と距離を置いていたんだと思う。
そして、私は相原さんと恋人関係になった。相原さんにとって、側にいて安心できる人になれたと自分では思ってるんだ。

だから、私の解釈が間違ってなかったら……。
私のやるべき事は、その恐怖感を拭消してあげること。クラスと馴染ませてあげるのが私の使命なんだって、そう思うんだ…!

風子は少し離れた所で未来を見守る。他の女子とは殆ど撮り終わったらしく、男子の山に囲まれていた。

……ん?

「未来ちゃ~ん、ほら、横きてよ!」
「い、いや、そんなに近くは…」

あるしつこい男子の絡みに未来は困惑しているようだった。未来は必至に抵抗している。
ふざけた調子で男子が未来の肩に触る。

風子の中で、何かが切れた。

「…っ!え?」
「お、おいっ!小川っ⁉︎」

風子は未来の手を取り、そのまま誰もいないところへ走り出していた。未来もそれに釣られて走り出す。
風子は無意識だった。それに気づいたのは、未来が風子に声を掛けた時だった。

「…はあっ、…小川さんっ!」
「……えっ⁉︎」

我に帰ると、風子はサアーッと青ざめた。未来の手を急いで離す。

し、しまった。やらかした…。

「ご、ごめん相原さん!折角クラスの人達と仲良く出来てたのに…っ。ていうか、禁止令も破っちゃって…!」

未来は息を整えながら風子の謝罪を聞く。風子も顔の前で手を合わして、全身全霊の勢いで謝った。

「…顔を上げて?小川さん。別に私は怒ってないわ」
「…うん」

風子はしゅん、と萎んだような声を出す。未来は小さなため息を吐いた。

「それに、禁止令はもう無くしてもいいかなって…」
「…え⁉︎どうして?」
「貴方が、私をクラスメイトと馴染めるように仕向けてくれたのは分かっているわ。いつもより大声で、周りの人に聞こえるように、私と写真を撮っていることをアピールしてたし…」
「……あ」

バレてたんだ…。私の考えてたこと、全部…。

「…だからもう、貴方と仲良くしていても浮いてしまう事はないわ。私ももっと他の人と仲良くなれるように頑張るから…」

未来は優しい笑みで風子を見つめた。未来のこのふとした時の笑顔が風子は凄く好きだった。風子は恥ずかしくなり、未来から目を逸らす。

「……でも、あんまり他の人と仲良くならないでよ…?」
「…?」
「嫉妬、しちゃうじゃんか…っ」

風子は未来に抱きついた。未来は抵抗しようとしたが、余りの強さに諦めたようだった。その強いハグに風子の愛を全身に感じた。

「好きだよ、相原さん…」
「……っ、だから耳元で喋らないでって…」

未来は顔を赤らめてはぁ、と息を吐いた。そして、自分の口を風子の耳に近づけた。

「私も好きよ、小川さん」
「…っ、~~!!」

風子は未来のあまりの可愛さに悶え死にそうになる。未来はその姿を見て笑いながら体を離した。

「小川さん、二人で写真を撮らない?」
「うん!」

二人はどこまでも広がる水平線を背景にして、体を寄り添いあった。
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