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二人の初めての旅行
2日目〜民泊、ホテル〜
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「……、ふあぁぁ…っ」
窓から眩しい日差しが差し込み、雀のチュンチュン、と鳴く声が風子に朝の輝きを実感させる。
風子は身を起こして、隣に寝ている未来の寝顔を覗いた。スースー…、と気持ち良さそうに寝ている顔に、風子はいつも以上の元気を貰う。
時計を見ると、まだ6時前だった。どうやら昨日は早く寝すぎてしまったらしい。2度寝するには遅い時間なので、風子は洗顔をするために、ゆっくりと布団から出た。
「あら、おはよう風子ちゃん」
「お、おはようございますっ」
リビングに降りると、そこにはエプロン姿の美紀ちゃんが立っていた。キッチンで何やら作業をしているようだった。
……よし!
「私も、何か手伝えることありませんか?」
「あら、いいの!?」
美紀ちゃんは作業する手を止め、嬉しそうな顔でこちらを見た。風子は、昨日何もお手伝い出来てないんで、と苦笑いして答える。
「じゃあ、支度が出来たらこっちに降りてきて貰える?」
「分かりました!」
風子は洗面所に行き、髪のセットや歯磨きをしてから、民泊用のジャージに着替え、美紀ちゃんのもとに戻った。
「えーと…、何すればいいですかね?」
「そうねー、私は昨日皆に手伝ってもらったくるみでケーキを作っているから、朝ご飯作るのを手伝ってもらいましょうか」
「わっかりましたー!」
風子は勢いよく返事をして、サラダの野菜を手際良く切って盛り付けていく。10分もすれば、全員のサラダが完成していた。
「風子ちゃんって、お家でもよく作ったりしてるの?」
美紀ちゃんは驚いたように風子に問いかける。風子は照れながら質問に答えた。
「いや~、たまにですけどね。休日とかはご飯作ったりしてます」
「偉いわね~、もううちの子なんか…」
風子は次に目玉焼きを作り始めた。美紀ちゃんは楽しそうに自分の家族の話をする。風子は美紀ちゃんの話し続けるその嬉しそうな顔を見て、美紀ちゃんの家が民泊を好んでいることの意味がわかった気がした。山の上にポツンと立つ農家の家では、自分達家族の話を他人に聞いてもらえる機会は少ないはずだ。勿論、民泊で新しい体験をさせてあげたいという気持ちもあると思うが、その農家の人達のために学生が出来ることがあると思うと風子も嬉しくなった。
「……、そう言えば風子ちゃん。昨日のくるみ割りも上手だったわよね」
「えっ、あ、そうですか!?」
美紀ちゃんに名前を呼ばれ、風子は我に返る。そうよー、と美紀ちゃんは笑顔で言った。
「昨日も、ほら。未来ちゃんに教えてあげてたじゃない?」
「……っ、そ、そうでしたね…」
風子は昨日の出来事を思い出し、顔を赤くさせた。頭のネジが飛んでいたのだろうか、今では馬鹿なことをしたと反省している。
「とても仲が良いのね、未来ちゃんと風子ちゃん。見ててこっちが恥ずかしくなったわ。あれは友達、と言うよりはカップルねぇ~(笑)」
「…えっ!…あ、熱っ!!」
動揺した風子は、誤ってフライパンに指が触れてしまった。大変!、と美紀ちゃんは水道から水を出し、指をつけるように指示した。
「もう大丈夫かしら?念の為に絆創膏持ってくるわね」
「す、すみません…」
突然の緊急事態に、二人ともさっきの会話の内容を忘れ、もうその事について触れることは無かった。
そんなこんなで朝食もでき、起きてきた美紀ちゃんの家族や、友里、香菜、未来と共に朝の一時を過した。
「よし、こんなものか!みんなお疲れ様!ちょっと休憩にしよう」
風子たちは、美紀ちゃんの旦那さんと共に、朝から農作業の手伝いをしていた。丘に広がる一面の畑。今回は不必要な葉っぱを一定量むしり取り、栄養が必要な実に日光が当たるようにする。何でも、全てむしり取るのも良くないらしく、バランスを考えて工夫するのが大変だったりもする。
そして昼頃、丘の上の方に屋根の付いた軽トラでやって来た美紀ちゃんがくるみケーキを持って現れた。
「みんなが手伝ってくれたくるみケーキでーす!」
「おいしそー!!」
みんなは、軽トラの荷台に腰をかけて座り、美紀ちゃんが用意してくれたケーキとお茶を頂いた。ケーキはたくさんのくるみが入っていて、蜂蜜の味がする、さっぱりした甘い味だった。
「いつも美紀はお菓子を作ってくれるんだ」
美紀ちゃんの旦那さんが嬉しそうに話す。その惚気話にみんな笑顔で相槌を打つ。
「~♪おいしいっ」
風子はあっという間に1つ目のケーキを食べ終えた。
「もっともっと食べていいのよー?こんなにあるんだから!」
「ありがとうございます!それじゃあ…」
風子は横に座っていた未来に肩を叩いて声を掛けた。
「相原さん、ごめんケーキ取ってくれない?遠くて~」
「…あっ。ええ、わかったわ…」
未来は何か考え事をしていたのか、少しびっくりしたように肩をビクッとし、慌ててケーキを取った。
……なんか悩み事でもあるのかな…?
風子は少し心配になったが、気にしないことにして、おやつタイムを楽しんだ。
お菓子も食べ終わり、いよいよ丘の上から美紀ちゃんの家に降りることになった。思えばこの丘は結構高く、家もとてもちっぽけに見える。
「みんな、荷台に腰かけなさい」
美紀ちゃんの旦那さんが軽トラの運転席に乗り込みながら言った。四人は不思議そうに腰掛け、美紀ちゃんは大丈夫なのー?と言いながら助手席に乗る。
「大丈夫さ、落ちても大事には至らない程度に走るから…」
え?今何て言った…?
「みんなー!今からこのまま家まで降りてくから、柱に掴まってなさい!」
「「「「え!?」」」」
四人が理解する暇も無く、軽トラは勢い良く走り出した。畑がいくつも並ぶ場所をグルーっと超えて、何も無い草原の一本道が見える。
軽トラはスピードを上げて、坂を降りていく。
「きゃああぁぁ!!」
「何これ!やばいお尻滑るんですけどっ」
みんなは悲鳴を上げながら、必死に柱にしがみつく。家までにはまだ距離がある。荷台から転がり落ちないように懸命に堪えた。
「ち、ちょっ…」
一瞬、風子の横で何かがふわっと浮いた気がした。
え…?って、もしかして…!!
風子が横を向くと、未来が荷台から滑り落ちそうになっていた。未来は顔を赤くしながら、指で床を掴もうとしている状態だった。
ど、どうして……?……あ、手の届くところに柱が無いのか…!?
未来は訴えるような目でこちらを見てくる。少しずつ未来のお尻が荷台から投げ出される寸前まできていた。
「ふ、風子っ…!」
「…!!」
風子は何かを考える間もなく、咄嗟に柱から片手を手放し、未来の腰に手を回して引き寄せた。ぎゅっとくっつき、風子はバランスを崩して落ちないよう、柱を掴む手に力を込める。
暫くして、トラックは丘を降り終わり、ブレーキをかけた。四人は安堵して、ぐだ~っと体の力が抜けていった。
「だ、大丈夫か?ちょっとスピード出し過ぎちゃったかな…?」
少し申し訳なさそうに笑いながら旦那さんは謝った。友里と香菜は怖かったんですから~、と仕方なさそうに笑って答える。
しかし、風子はそうもいかなかった。
「……ほ、本当に気を付けてくださいよっ!もうちょっとで相原さんが落ちちゃうところだったんですからっ!!」
風子の怒声にその場がしん、と静まりかえる。みんなが唖然とする中、いち早く未来が我に返り、いえ、と声を挟んだ。
「わ、私はっ、小川さんに助けて貰ったので。その、大丈夫ですから…」
「で、でもっ…!」
もういいの、とでも言うかのように未来がしいーっと、人差し指を口の前に立てた。風子はぐっと気持ちを飲み込み、黙り込む。
「ご、ごめんね。こんな最後に。すみませんでした!」
美紀ちゃんの旦那さんが深く頭を下げた。大の大人にこんな風に謝ってもらうのはどうにもいたたまれなく、風子は慌てて頭を上げるように言った。
「じゃあ、戻りましょうかっ?」
何とも言えない雰囲気となり、美紀ちゃんがフォローに入る。友里と香菜も空気を読んで明るく旦那さんの背中を押しながら、美紀ちゃんに付いて家に向かう。
「……小川さん、ありがとう」
自分のしてしまったことに落ち込んで俯いていた風子は驚いたように未来の方に顔を上げる。未来も少し笑って風子の目を見た。
「確かに私は落ちそうで怖かったわ。小川さんが助けてくれなきゃ、実際に落ちていただろうし…。だからありがとう」
「……っ、」
今までの和やかな雰囲気を壊してしまった責任感で押しつぶされそうだった風子は、未来の優しい目と、感謝の言葉に感極まってしまう。瞳から涙が零れそうになり、風子は焦って目の方に手を持っていこうとする。
「…待って」
「…へ?」
未来が風子の腕を掴み、それを阻止した。そして徐々に未来の顔が風子の顔に近づいてくる。
も、もしかして、……キスを…?
風子は思わずぎゅっと目をつぶった。未来の吐息が鼻にかかってこそばゆい。
「……」
「……、相原さん…?」
異変に気づき、ゆっくりと目を開けると凄い至近距離で未来の顔が静止していた。風子はあまりに驚いて、流していた涙も引っ込む。
「…ごめんなさい、私、また…」
「え?な、何っ?」
「……いえ、何も?」
未来は少し顔を赤らめながら、乱暴に自分の袖で風子の涙の痕を拭う。あまりの強さに風子はほっぺたがヒリヒリし、慌てて未来を止める。
「あ、ありがとう…。もう大丈夫っ」
「……私達も戻りましょうか…」
未来はすっと歩き出し、風子も慌ててついて行く。すると暫くして、未来は風子の方に振り返った。
「それと、トラックの時…」
「ん?」
「焦って、名前で呼んでしまって…。ごめんなさい」
……っ!な、名前?…そういや、確かに…!
風子が言葉を発しようとしたその時には、未来はまた前方を向いて歩き出していた。しかし風子は、真っ赤に染った未来の耳を見逃さなかった。
「「「「二日間、ありがとうございました!」」」」
15時頃。学校のバスが迎えに来て、遂にお別れの時間となった。最後は色々あったが、楽しいかった思い出に皆涙し、一言ずつお礼を述べていく。
四人がバスに乗り込んでも、美紀ちゃんと旦那さんと、まだ小学生の子供たちは笑顔で手を振り続けてくれた。
いつかまた、この四人で、ワインを飲みに来れたらいいなぁ。
そう思いながら、一行は野山ファクトリーを後にした。
「疲れた~、やっとホテルかぁ…」
17時半を過ぎた頃、バスはこれから二日間泊まるホテルに着いた。風子も疲れからか死ぬように眠り続けたせいで、酔うことはなく、スッキリした気持ちでバスを降りた。
「やっば、ふーこ寒すぎじゃね?早く入ろ」
「え、うん!まずはこのまま部屋に行くんだよねー?」
班員四人で固まって、鍵を受け取り、部屋のある5階に行く。それぞれのベッドの場所を決め、風子、未来が隣、その向かいに友里、香菜、と並ぶ事になった。
それぞれのベッドで寝転んでお喋りしながら疲れを癒す三人と、荷物の整理をする未来。風子はちら、と未来に目をやる。
こんな所まで真面目なんだよなぁ…。ちょっとは気を抜けばいいのに。
風子はベッドの上からこっそり未来に近づき、その背中をこそばした。
「っひ!」
「あは、気ぃ抜けたー?」
未来はキッと風子を睨みつける。しかし、耳が真っ赤なため、本気で怒ってないと風子は確信して、もう1度こそばしてみる。
「……っ、ちょっ、やめ…な…!」
「相原さんの反応可愛いー♡」
我慢が出来なくなった未来は立ち上がって、風子のベッドに乗り込み、身動きを取れないよう両腕を抑えるようにして仰向けに押し倒した。
「……っ、ちょっ」
「……」
ま、待って…!友里達も居るんだけど…?
「貴方、いい加減にしないと…」
ぎゅっと腕に掴む力が強くなる。未来の顔が徐々に近づく。
あ、相原さん本気だ…!!止められないっ…!
「何?なんか楽しそうじゃん?」
「次はふーこをこそばす感じ?」
二人は未来が風子の上に覆い被さる姿をこそばしの仕返しだと思い、参戦してきた。
未来はその二人の姿を見て、はっとしたように顔を真っ赤にさせて自分の荷物の方へ戻ってしまった。
よ、良かった、二人とも鈍くて……って、え!?
「…ちょぉっ、やめて香菜姉っ!ぎゃははっ」
「おらー、ここどうだー?」
「ふーこ脇腹弱いんだぁ~」
「ってか、仲良くなりすぎじゃね?相原さんと」
「う、うぇっ?そんなことないよっ」
戯れる三人組を他所に、未来は荷物の整理を再開する。風子は二人の攻撃を何とか阻止し、はあーっと大きく息を吐いた。
ちょっとからかってほぐしてあげたかっただけなんだけどなぁ~…。
未来はというと、どうも胸を抑えて呼吸を落ち着かせているようだった。まだ顔が真っ赤で、やっぱりさっきもキスしようとしていたのだろうと伺える。
相原さんも、好きな人が相手なら、理性保てなくなっちゃうのか…?なんて、自惚れすぎかっ!
「……私、お風呂に行ってきてもいいかしら?」
未来が用具を揃え、スッと立ち上がった。
「あ、お風呂なら私も行くよ!」
「…っ!」
「え、ふーこマジで言ってんの?」
風子の発言にまたまた頬を紅潮させる未来と、少し引いている友里と香菜。あれ、と風子は変な事を言ってしまったのかと焦る。
「いや~…、相原っちと仲良くなったからって、さすがにそれは…」
「え!ふ、風呂って皆で入るもんだよな!?」
「いや、それは大浴場の話だろ?」
「うちらの今回の旅行は部屋の風呂使うって話じゃん?」
そ、そう言えば、しおりに書いてあった気が…。
「…お先に行ってくるわ…」
未来は、はあ、と大きなため息をついて、その場から去って行った。
そのままずっと四人で過ごしていたため、何事(?)もなく二日目を終えた。
窓から眩しい日差しが差し込み、雀のチュンチュン、と鳴く声が風子に朝の輝きを実感させる。
風子は身を起こして、隣に寝ている未来の寝顔を覗いた。スースー…、と気持ち良さそうに寝ている顔に、風子はいつも以上の元気を貰う。
時計を見ると、まだ6時前だった。どうやら昨日は早く寝すぎてしまったらしい。2度寝するには遅い時間なので、風子は洗顔をするために、ゆっくりと布団から出た。
「あら、おはよう風子ちゃん」
「お、おはようございますっ」
リビングに降りると、そこにはエプロン姿の美紀ちゃんが立っていた。キッチンで何やら作業をしているようだった。
……よし!
「私も、何か手伝えることありませんか?」
「あら、いいの!?」
美紀ちゃんは作業する手を止め、嬉しそうな顔でこちらを見た。風子は、昨日何もお手伝い出来てないんで、と苦笑いして答える。
「じゃあ、支度が出来たらこっちに降りてきて貰える?」
「分かりました!」
風子は洗面所に行き、髪のセットや歯磨きをしてから、民泊用のジャージに着替え、美紀ちゃんのもとに戻った。
「えーと…、何すればいいですかね?」
「そうねー、私は昨日皆に手伝ってもらったくるみでケーキを作っているから、朝ご飯作るのを手伝ってもらいましょうか」
「わっかりましたー!」
風子は勢いよく返事をして、サラダの野菜を手際良く切って盛り付けていく。10分もすれば、全員のサラダが完成していた。
「風子ちゃんって、お家でもよく作ったりしてるの?」
美紀ちゃんは驚いたように風子に問いかける。風子は照れながら質問に答えた。
「いや~、たまにですけどね。休日とかはご飯作ったりしてます」
「偉いわね~、もううちの子なんか…」
風子は次に目玉焼きを作り始めた。美紀ちゃんは楽しそうに自分の家族の話をする。風子は美紀ちゃんの話し続けるその嬉しそうな顔を見て、美紀ちゃんの家が民泊を好んでいることの意味がわかった気がした。山の上にポツンと立つ農家の家では、自分達家族の話を他人に聞いてもらえる機会は少ないはずだ。勿論、民泊で新しい体験をさせてあげたいという気持ちもあると思うが、その農家の人達のために学生が出来ることがあると思うと風子も嬉しくなった。
「……、そう言えば風子ちゃん。昨日のくるみ割りも上手だったわよね」
「えっ、あ、そうですか!?」
美紀ちゃんに名前を呼ばれ、風子は我に返る。そうよー、と美紀ちゃんは笑顔で言った。
「昨日も、ほら。未来ちゃんに教えてあげてたじゃない?」
「……っ、そ、そうでしたね…」
風子は昨日の出来事を思い出し、顔を赤くさせた。頭のネジが飛んでいたのだろうか、今では馬鹿なことをしたと反省している。
「とても仲が良いのね、未来ちゃんと風子ちゃん。見ててこっちが恥ずかしくなったわ。あれは友達、と言うよりはカップルねぇ~(笑)」
「…えっ!…あ、熱っ!!」
動揺した風子は、誤ってフライパンに指が触れてしまった。大変!、と美紀ちゃんは水道から水を出し、指をつけるように指示した。
「もう大丈夫かしら?念の為に絆創膏持ってくるわね」
「す、すみません…」
突然の緊急事態に、二人ともさっきの会話の内容を忘れ、もうその事について触れることは無かった。
そんなこんなで朝食もでき、起きてきた美紀ちゃんの家族や、友里、香菜、未来と共に朝の一時を過した。
「よし、こんなものか!みんなお疲れ様!ちょっと休憩にしよう」
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そして昼頃、丘の上の方に屋根の付いた軽トラでやって来た美紀ちゃんがくるみケーキを持って現れた。
「みんなが手伝ってくれたくるみケーキでーす!」
「おいしそー!!」
みんなは、軽トラの荷台に腰をかけて座り、美紀ちゃんが用意してくれたケーキとお茶を頂いた。ケーキはたくさんのくるみが入っていて、蜂蜜の味がする、さっぱりした甘い味だった。
「いつも美紀はお菓子を作ってくれるんだ」
美紀ちゃんの旦那さんが嬉しそうに話す。その惚気話にみんな笑顔で相槌を打つ。
「~♪おいしいっ」
風子はあっという間に1つ目のケーキを食べ終えた。
「もっともっと食べていいのよー?こんなにあるんだから!」
「ありがとうございます!それじゃあ…」
風子は横に座っていた未来に肩を叩いて声を掛けた。
「相原さん、ごめんケーキ取ってくれない?遠くて~」
「…あっ。ええ、わかったわ…」
未来は何か考え事をしていたのか、少しびっくりしたように肩をビクッとし、慌ててケーキを取った。
……なんか悩み事でもあるのかな…?
風子は少し心配になったが、気にしないことにして、おやつタイムを楽しんだ。
お菓子も食べ終わり、いよいよ丘の上から美紀ちゃんの家に降りることになった。思えばこの丘は結構高く、家もとてもちっぽけに見える。
「みんな、荷台に腰かけなさい」
美紀ちゃんの旦那さんが軽トラの運転席に乗り込みながら言った。四人は不思議そうに腰掛け、美紀ちゃんは大丈夫なのー?と言いながら助手席に乗る。
「大丈夫さ、落ちても大事には至らない程度に走るから…」
え?今何て言った…?
「みんなー!今からこのまま家まで降りてくから、柱に掴まってなさい!」
「「「「え!?」」」」
四人が理解する暇も無く、軽トラは勢い良く走り出した。畑がいくつも並ぶ場所をグルーっと超えて、何も無い草原の一本道が見える。
軽トラはスピードを上げて、坂を降りていく。
「きゃああぁぁ!!」
「何これ!やばいお尻滑るんですけどっ」
みんなは悲鳴を上げながら、必死に柱にしがみつく。家までにはまだ距離がある。荷台から転がり落ちないように懸命に堪えた。
「ち、ちょっ…」
一瞬、風子の横で何かがふわっと浮いた気がした。
え…?って、もしかして…!!
風子が横を向くと、未来が荷台から滑り落ちそうになっていた。未来は顔を赤くしながら、指で床を掴もうとしている状態だった。
ど、どうして……?……あ、手の届くところに柱が無いのか…!?
未来は訴えるような目でこちらを見てくる。少しずつ未来のお尻が荷台から投げ出される寸前まできていた。
「ふ、風子っ…!」
「…!!」
風子は何かを考える間もなく、咄嗟に柱から片手を手放し、未来の腰に手を回して引き寄せた。ぎゅっとくっつき、風子はバランスを崩して落ちないよう、柱を掴む手に力を込める。
暫くして、トラックは丘を降り終わり、ブレーキをかけた。四人は安堵して、ぐだ~っと体の力が抜けていった。
「だ、大丈夫か?ちょっとスピード出し過ぎちゃったかな…?」
少し申し訳なさそうに笑いながら旦那さんは謝った。友里と香菜は怖かったんですから~、と仕方なさそうに笑って答える。
しかし、風子はそうもいかなかった。
「……ほ、本当に気を付けてくださいよっ!もうちょっとで相原さんが落ちちゃうところだったんですからっ!!」
風子の怒声にその場がしん、と静まりかえる。みんなが唖然とする中、いち早く未来が我に返り、いえ、と声を挟んだ。
「わ、私はっ、小川さんに助けて貰ったので。その、大丈夫ですから…」
「で、でもっ…!」
もういいの、とでも言うかのように未来がしいーっと、人差し指を口の前に立てた。風子はぐっと気持ちを飲み込み、黙り込む。
「ご、ごめんね。こんな最後に。すみませんでした!」
美紀ちゃんの旦那さんが深く頭を下げた。大の大人にこんな風に謝ってもらうのはどうにもいたたまれなく、風子は慌てて頭を上げるように言った。
「じゃあ、戻りましょうかっ?」
何とも言えない雰囲気となり、美紀ちゃんがフォローに入る。友里と香菜も空気を読んで明るく旦那さんの背中を押しながら、美紀ちゃんに付いて家に向かう。
「……小川さん、ありがとう」
自分のしてしまったことに落ち込んで俯いていた風子は驚いたように未来の方に顔を上げる。未来も少し笑って風子の目を見た。
「確かに私は落ちそうで怖かったわ。小川さんが助けてくれなきゃ、実際に落ちていただろうし…。だからありがとう」
「……っ、」
今までの和やかな雰囲気を壊してしまった責任感で押しつぶされそうだった風子は、未来の優しい目と、感謝の言葉に感極まってしまう。瞳から涙が零れそうになり、風子は焦って目の方に手を持っていこうとする。
「…待って」
「…へ?」
未来が風子の腕を掴み、それを阻止した。そして徐々に未来の顔が風子の顔に近づいてくる。
も、もしかして、……キスを…?
風子は思わずぎゅっと目をつぶった。未来の吐息が鼻にかかってこそばゆい。
「……」
「……、相原さん…?」
異変に気づき、ゆっくりと目を開けると凄い至近距離で未来の顔が静止していた。風子はあまりに驚いて、流していた涙も引っ込む。
「…ごめんなさい、私、また…」
「え?な、何っ?」
「……いえ、何も?」
未来は少し顔を赤らめながら、乱暴に自分の袖で風子の涙の痕を拭う。あまりの強さに風子はほっぺたがヒリヒリし、慌てて未来を止める。
「あ、ありがとう…。もう大丈夫っ」
「……私達も戻りましょうか…」
未来はすっと歩き出し、風子も慌ててついて行く。すると暫くして、未来は風子の方に振り返った。
「それと、トラックの時…」
「ん?」
「焦って、名前で呼んでしまって…。ごめんなさい」
……っ!な、名前?…そういや、確かに…!
風子が言葉を発しようとしたその時には、未来はまた前方を向いて歩き出していた。しかし風子は、真っ赤に染った未来の耳を見逃さなかった。
「「「「二日間、ありがとうございました!」」」」
15時頃。学校のバスが迎えに来て、遂にお別れの時間となった。最後は色々あったが、楽しいかった思い出に皆涙し、一言ずつお礼を述べていく。
四人がバスに乗り込んでも、美紀ちゃんと旦那さんと、まだ小学生の子供たちは笑顔で手を振り続けてくれた。
いつかまた、この四人で、ワインを飲みに来れたらいいなぁ。
そう思いながら、一行は野山ファクトリーを後にした。
「疲れた~、やっとホテルかぁ…」
17時半を過ぎた頃、バスはこれから二日間泊まるホテルに着いた。風子も疲れからか死ぬように眠り続けたせいで、酔うことはなく、スッキリした気持ちでバスを降りた。
「やっば、ふーこ寒すぎじゃね?早く入ろ」
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班員四人で固まって、鍵を受け取り、部屋のある5階に行く。それぞれのベッドの場所を決め、風子、未来が隣、その向かいに友里、香菜、と並ぶ事になった。
それぞれのベッドで寝転んでお喋りしながら疲れを癒す三人と、荷物の整理をする未来。風子はちら、と未来に目をやる。
こんな所まで真面目なんだよなぁ…。ちょっとは気を抜けばいいのに。
風子はベッドの上からこっそり未来に近づき、その背中をこそばした。
「っひ!」
「あは、気ぃ抜けたー?」
未来はキッと風子を睨みつける。しかし、耳が真っ赤なため、本気で怒ってないと風子は確信して、もう1度こそばしてみる。
「……っ、ちょっ、やめ…な…!」
「相原さんの反応可愛いー♡」
我慢が出来なくなった未来は立ち上がって、風子のベッドに乗り込み、身動きを取れないよう両腕を抑えるようにして仰向けに押し倒した。
「……っ、ちょっ」
「……」
ま、待って…!友里達も居るんだけど…?
「貴方、いい加減にしないと…」
ぎゅっと腕に掴む力が強くなる。未来の顔が徐々に近づく。
あ、相原さん本気だ…!!止められないっ…!
「何?なんか楽しそうじゃん?」
「次はふーこをこそばす感じ?」
二人は未来が風子の上に覆い被さる姿をこそばしの仕返しだと思い、参戦してきた。
未来はその二人の姿を見て、はっとしたように顔を真っ赤にさせて自分の荷物の方へ戻ってしまった。
よ、良かった、二人とも鈍くて……って、え!?
「…ちょぉっ、やめて香菜姉っ!ぎゃははっ」
「おらー、ここどうだー?」
「ふーこ脇腹弱いんだぁ~」
「ってか、仲良くなりすぎじゃね?相原さんと」
「う、うぇっ?そんなことないよっ」
戯れる三人組を他所に、未来は荷物の整理を再開する。風子は二人の攻撃を何とか阻止し、はあーっと大きく息を吐いた。
ちょっとからかってほぐしてあげたかっただけなんだけどなぁ~…。
未来はというと、どうも胸を抑えて呼吸を落ち着かせているようだった。まだ顔が真っ赤で、やっぱりさっきもキスしようとしていたのだろうと伺える。
相原さんも、好きな人が相手なら、理性保てなくなっちゃうのか…?なんて、自惚れすぎかっ!
「……私、お風呂に行ってきてもいいかしら?」
未来が用具を揃え、スッと立ち上がった。
「あ、お風呂なら私も行くよ!」
「…っ!」
「え、ふーこマジで言ってんの?」
風子の発言にまたまた頬を紅潮させる未来と、少し引いている友里と香菜。あれ、と風子は変な事を言ってしまったのかと焦る。
「いや~…、相原っちと仲良くなったからって、さすがにそれは…」
「え!ふ、風呂って皆で入るもんだよな!?」
「いや、それは大浴場の話だろ?」
「うちらの今回の旅行は部屋の風呂使うって話じゃん?」
そ、そう言えば、しおりに書いてあった気が…。
「…お先に行ってくるわ…」
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「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
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