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番外編
僕らの音のない演奏会
しおりを挟む狂気でもなく、この子の闇はどうしてこんなにも純心にして鮮やかに燻るのか
「流?」
無心に、古くからある枝垂れ桜の木を見つめる。
13歳になったばかりの少年に子供の表情はなく、冴えていて自分を呼ぶ後ろに現れた大人への反応もない。
一心不乱
脳裏に浮かんだ事に苦笑う大人は黒いスーツを身に纏った男。結んだネクタイを緩めて静かに少年へと近寄る。
今は都心にも雪が舞う季節の中、狂い咲いた枝垂れ桜に子供は夢中になって見入る。
少し積もった雪の中に桜の花びらが舞い落ちた。
「綺麗だな」
ぽつりと呟いたのに、らしくもないと男は自嘲した笑みを浮かべる。
自分の胸辺りにある少年が身じろぎ、下から見上げる表情に男は驚く。
日頃、言葉も感情ですら表さない少年に。
「キレイ?」
首を傾げる動作付きで尚更。あまり見せない行動に優越感と独占欲が入り混じり、抱きしめる腕の力が増してしまうのはこの際知らないフリをする。
「お前にはどんな風に見える」
冷たい風が吹き付け、男や少年を通り過ぎてゆく。
「あかい」
「……赤?」
毎年この家で咲く桜はごく一般的な色。
「桜が、赤い」
「……!?」
思わず体が震えた男は、胸に抱く少年を自分の着ているコートの中に入れ、天を仰ぐ。
いるはずもない、信じもしない神に毒を吐いた。
強ち間違っていない表現ではあるが少年の目には、枝垂れ桜の花びらが赤く見えるんだろう。
禍しい程に。
桜の下には屍が眠るり、そのいき血は桜の栄養となり花を咲かせる。
この少年は、何処まで分かっているのだろう。
迷信だと、笑い飛ばせたらどれだけ幸せなのか計り知れない。
自分の囲いに大人しく収まっている少年を優しい眼差しで見つめていれば、小さく嚔をした。
マフラーやイヤーマフをしていても雪が降った翌日もあり肌寒い。風邪を引いてはいけないと声を掛け、家の中へ入ろうと促すと小さく頷いた。
きらきら日にあたり輝く雪は次第に溶けて水たまりになって消えていく。
芽吹く春はまだ先に。
どうか染まらぬように、浚われぬようにと願いながら手を繋ぐ。
この時を忘れないように。
終
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