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青天の霹靂
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しおりを挟む「先日、火辰正宗様が亡くなりました」
家に来て早々、弁護士を名乗る男は身綺麗なスーツを着て我が家の玄関先で開口一番にそう言った。
受け取った名刺をただみつめる母を後目に、男は眼鏡の奥にある瞳を俺に向けてくる。
「貴方は」
言葉の途中、目を見張るさまで口に仕掛けてから言い淀むのに何を思うのか。
「俺は太陽。それが?」
今年20歳になる大学生。
「貴方宛てにお父様から遺言が御座居ます」
「は……?」
「帰って」
「……母さん」
「帰って!太陽は私の子。別れたあの人とは無関係のはずっ」
愕然と話を聞いていた母の取り乱しように、ただ事じゃないと分かる。
「冴さん」
「アンタに名を呼ばれる筋合いはないわ、早く出ていって」
未だ玄関先での出来事。この男が来てから家にも上がらさせず、向き合っての様子だ。母からの拒絶に男は溜息を吐き次いで俺を見る眼差しは弱くない。
「貴方には知る権利がある」
「海童……!」
真っ直ぐ見つめる瞳に濁りはなく、どこか懐かしさを覚えるのは気のせいか。
怒鳴り声に怯むこともないこの男に興味を覚えた。
「後日、改めて伺います。では」
二度と来るなという母を余所に平然と笑みをみせ、海童と名乗る男は帰っていく。
「塩持ってくる」
そう呟くと台所にドタバタと歩いて向かう母。
キーワードは二つ。
別れた親父と、今日訪れた海童正道(かいどうまさみち)って弁護士。
また、乱暴に音をさせて玄関へ戻って来た母は手に一掴みした塩を盛大に撒き散らす。
「俺の親父のことについて、きっちり話をしてくれるよな母さん」
余程精神的に疲れたのか溜息を吐いた母は驚いた顔をして振り返った。
「アンタ今まで話しても耳をかさなかったくせに」
確かに、子供の頃は右から左へ流してきた自覚はある。
「どうせ来るなっていっても来るんだからアイツに聞いて」
もう、面倒くさい。と投げやりに言い放つ母に笑いが込み上げてきた。
「じゃあ、ひとつだけ教えて。俺は母さん似?それとも」
親父?
暗に、言葉に含んで聞けば目を丸くした。
ええ、なに?
考える母に、そんな悩むところなのかと眉を顰める。
「アンタは良いとこ取りね。外見は」
「へぇ……」
「内面は父親にそっくり」
「!」
「なに驚いてんの」
いや、そんなにあっさり親父に似てるっていうとは思わなくて、つい。
なんて面と向かっていえるはずもなく。
親父ねぇ。今まで父親の事など振り返りもしなかった。実はもう死んでいるものだと勝手に思っていただけに。
母に告げれば、案の定呆れた顔をされる。
「前言撤回。アンタは誰に似たんだか……!」
と仕切りに笑い、バシバシ腕を叩かれた。然も手加減がないからかなり痛い。
まあ、後日訪れるといったあの男は、また来るんだろう。なら急ぐこともない。
「母さん、昼飯どうする?」
「バイトあるんじゃなけりゃ、外食」
「いや、あるけど。なら外行くか」
シューズボックスの上に置いてある鍵を取り、キーホルダーの輪へ指を通してクルクル回す。
「着替えてくる!」
「いや、そのままで充分」
「メイクすんの!」
はあ、左様で。どんだけ時間かける気なんだか。ヤレヤレと玄関先で待ち惚けをくらう。
「太陽」
「んー?」
案外近い部屋からの声に返事をすれば、前から俺がバイトしてる内容が気になってたらしい事をいわれた。
「ゲイバーのウエイター」
あれ、反応なし?
「ちょっと、水商売に手を出すほど金に困ってたなんて知らなかったわ。いいなさいよ!」
マスカラを手に部屋から出て来た母は仁王立ち。
「困ってないけど事情がありまして」
「どんな?」
「いや、あのね。いろいろと」
「いろいろってな・あ・に?」
片方だけマスカラを塗った女に迫られる恐怖を知る。もう片方には手鏡を持っていて手早くその場でマスカラを塗ると、別の部屋へ行きバッグ片手に出て来た母は不適に笑った。
「楽しい食事になりそうね」
どこのキャバ嬢かと思わせる容姿に化け、唖然とする。若作りするにも関わらず違和感ないのが恐ろしい。
高らかな笑いを上品に決める母にせっつかれながら腕を取られ逃げ場はなくなり、行きつけの店に案内されバイトの事を問い詰められるんだろう。
今日は厄日に間違いない。
口は災いの元とはよく言ったもんだ。
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