梵 - BON -

壱(いち)

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青天の霹靂

02

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気紛れに女と事に及んだことは数あれど、男と致した事はない。

「小綺麗な男め」

なんだか体が重いと思えば向かい合わせに寄り添い、相手の腕が腰辺りにあってこの重りかと納得して目が覚め、寝ていても美形と言える外見に息を飲めば下半身から異様な鈍痛を訴えられた。

く……っ、尻がいてぇ!

あだだだっ、とベッドで蠢いていれば男に腰を撫でられる。

「おはよう」

若干険しい顔をして掠れ声はセクシーにきめ目が覚めた模様の男へ痛みに悶え苦しんでいた俺は下から睨みつけてやった。

「涙目ってそそるよな」
「冷水浴びて目を覚ませや……っ」

大声を出せば力んだのか例の場所がズキン!とし俯せになって痛みに耐えた。

「おい、痛むのか」
「……ってぇ……っ、このヘタクソ!ぐあっ」

怒鳴れば痛いっていう悪循環。
この男、あれだけアフターケアも兼ねてローションとかスキンとか準備してたくせにこの始末だ!

「……あれだけやれば痛みがあっても普通だろ。どれだけイったか覚えてないのか?」

ブツブツ悪態を付くも昨夜のことは忘れていない俺は男の科白セリフに全て思い出す。

「ぐあああ……っ、いてぇ!」

よしよしと頭を撫でられるが顔なんて上げられる状態じゃない。きっといま俺の顔は羞恥に染まっていることだろう。

顔が熱い!

「なあ、体の相性もいいって分かったし、俺と付き合う条件は満たしたよな?まあ、計五回も自分だけイって気絶したし無理とは言わないと思うが」

そのうちの三回は抜かずのなんとかだったなと苦笑混じりに言われ、途中、行動が読まれていて内心ギクリとした。

コイツは名前も知らない俺がバイトする店の常連客。何を血迷ったのか来る度に俺のことを構い、あろうことか口説いてくる。

最初は冗談かと思い笑顔で流していたら高価なプレゼント攻撃やバイトが終わる時間まで待ち伏せたりと、女が喜びそうなことを何度かされオーナーに問われるわ散々な目に遭ったのは数知れず、3ヶ月が経とうとした昨日。

いま思えば精神的ダメージがあったに違いない。昨夜はずっとバイトが終わるまで店に居続けた男に根気負けし、食事だけならと承諾して連れて行かれたのは創作料理の店。金は男持ちだと思った俺は店のオススメだというワインを調子に乗って飲み過ぎた。

フルコースのディナーは洋を基調とした日本食混合ときて、思わずときめいた結果がこれだ。酔っ払ったが、記憶がなくなるほど飲んだ訳じゃない。酔った勢いで出した体の相性が良かったら考えるというのを真に受けるコイツもどうかと思うが、勢いとはいえ善くして貰って散々喘いだこっちとしてはシーツに伏せるほかなく……。

「ヨウ」

耳元で囁かれる名はバイトで使っている偽名。強ち本名と大差ないが。
何を思ったか男は勢いよく俺を俯せから仰向けに返した。

「ちょ……っ、もうちょい加減にしろ」
「返事は?」

顔の横に肘をつき真っ正面から顔を見れば美形と納得しても高鳴る容姿に腹が立つ。

「痛い」
「俺はこの倍以上いてぇ」

むにっと両頬を摘んでやり、引き延ばしたあと勢いよく放してやった。

「おい」

この男、調子に乗って下半身を俺に押し付けてきた。そういや俺もコイツも隔てのない真っ裸!

「なに勃起してんだ」
「可愛いことするお前が悪い」

んー……と言ったかと思えば首に擦りよってくる。

「ちょっと待てって!」
「無理」

中途半端に止められて苛立つのは分かるが、昨夜あんだけやっといてまだやるか!

ぐぐっと近い顔を押しやって奴の方に手を置くと何を勘違いしたのか脂下がったような顔をされた後、濃厚な口付けを交わす。

「んんっ」

手を上げたのをいいことにタイミングよくシーツの上へホールドされてしまえば、動くのは上半身と下半身しかなくなりバタバタとベッドの上で抵抗すればなんなく足を絡めとられ、唇を噛んでやる!と意気込めば勘がいいのか離れたものの至近距離。

「積極的」
「違う!人の話を聞けって」

もう疲れちゃった、こんだけ動いただけなのに。未だ腰や尻は痛いし!

「なんだ、焦らしてんのか」

可愛いとかいうコイツの感覚が分からん。

「そうじゃねぇ、名前」
「あ?」
「な・ま・え。俺、あんたの名前知らないんだけど」

やっぱ、するなら必要じゃない。ムード考えたらさ。
呆気にとられたような顔をする男に、もしや勘違い?と思い段々と恥ずかしさが増してきた。

「お前な……」

ぽすっと丁度俺の胸の所に顔を置き、ぐったりと乗ってきたからかなり重い。

「ちょ、くるし……っ」
「なんで知らねぇんだ」

俺はあそこの客だぞとくぐもった声がし、そのうえ胸へ息がかかり擽ったい。

裏方だから、俺の仕事。フロアの内部事情は知らない。限られた時間で如何に手際よく作るかを一番に気にする。
そういえば昨日、母さんにゲイバーのウェイターだととっさに嘘をついてしまった。あの人の事だから嘘だってバレてそうだけど。水商売は間違いじゃないが、ホストクラブとは流石に言えなかった。
ホストやってる訳じゃないのに。

「………、だ」
「え?」

やべ、考え事してて聞いてなかった。

木佐 礼二キサ レイジだ」
「……フルネームかよ」
「あ?なんか文句あんのか」
「いや、ないけど。そんな間近かで凄むなって」

皿洗いとか雑用全般のバイトなのにフルネーム聞いていいのかって気を使っただけなんだけど。がぶっと片方の肩を噛まれた。

歯形付けんな。

「ってことでもう1ラウンド付き合え」
「無理だって、俺いまから講義あるし……っ、マジ勘弁!」
「聞こえない」

なんて都合のいい耳してんの?!
昨夜の快感に慣らされた自分の体は思いとは裏腹に首筋から胸へと唇が掠めるだけで過剰反応し、突起をこねられたり舐められたら力が抜け落ちていく。

「肌触りがいいから離れ難い」

なんて、下から聞こえても弱いところを責め立てられて喘いで答えることなんか出来なかった。
結局1ラウンドと言いながら止めどなく行為は続けられ、気を失う俺。


この木佐礼二との出会いが、後々厄介なことになるなんて。

「俺を落とした代償は取って貰う」

知る由もない。
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