梵 - BON -

壱(いち)

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青天の霹靂

03

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店に来て早々、ナンバーワンホストの要さんに捕まった俺はホストが開店前に集まるフロアへ連れていかれ、ふかふかのソファーに座らされた。然も隣に。なんか恐れ多いんですけど!

「お前、昨日木佐さんに捕まってたろ」

ちんまりと借りてきた猫のように仰々しく座っていたら、さっくり昨日の事を問われて密かに冷や汗を掻く。

「え、ほんとに?」

ぞろぞろと側にいた要さん同様、容姿が煌びやかな面々が近寄ってきて動揺どころか目が眩しい。
俺がバイトしてるのは高級ホストクラブ。

ワイゼット。スペルに置き換えたらY'zだったかな。確か面接の時にオーナーから貰った名刺に印字されているのを見た。

「オーナーに送って貰わなかったの?」

どっかりと座る要さんとは違い、俺の左隣に座った和樹さんは長い脚を組み心配気な様子で聞かれた。
昨日見事に喰われましたとか言っていいのか?いや、駄目だろ。

今まさに血に飢えた野獣と化してる人が隣にいるし。目からビーム出そうだし!
独りで苦悩してると、横からぬっと手が伸びてきたかと思えば肩を掴まれて体ごと要さんの方に向きを変えられた。

「な、なんですか」
「ヨウが俺に見惚れてて妬いたんだよ」
「ええ?」

正面の険しい顔をした要さんと笑って言う和樹さんを交互に見た俺は、もう一度要さんを見たあと後悔する。正義の味方、特撮ヒーローがいたら今すぐ助けて欲しい。般若のお面みたいに怖いんですけど!

「立て」
「えっ」
「起立!」
「はいっ」

しどろもどろの俺にそう言うと、のっそりと立ち上がった。

「歳若いお前の肌艶がいいのはよしとして、昨日そんなに店は忙しくも重労働な作業も無かったはずなのになんで腰が引けてる」

そう俺に言い、ロングタイプの煙草に火を点けた要さんはふーっと煙を吐き出した。
何だかんだ昼近くまで、微睡んでいたツケがここできたのか。

「ほら、正直に言ってみろ」

にんまり、営業スマイルが後押ししてくる。やばい。このままじゃこの人に圧される!

「ヨウ、昨日木佐さんと……」

後ろにも手強いのがいたんだった!
見えない汗が上から下まで流れるような感覚に陥る。
木佐が待ち伏せしだしてからオーナーや要さん、和樹さんにそれはもう耳にタコが出来るほどアイツには近付くなと言われていた。それをあっさり昨日承諾してた俺……。 

「俺の考えが正しいなら」

突然くるっと後ろにいる和樹さんの方へ回れ右をさせられ、さわさわと尻を撫でられた。

「うひぃあわあっ」

悲鳴にもならない声を上げてしまう。昨夜から昼頃までの行為に俺の下半身、特にごにょごにょなところは出勤前に木佐から薬を塗られたとはいえ、触れればじんじんと痺れた感覚が蘇る。

「決まりだな」
「……ヨウ」
「へ?」

器用にテーブルとソファーの間に座り込んだ上からの声に、素っ頓狂に答えた。

「あれほど言ったのにてめぇ、アイツに犯られたな!」
「ぎゃあああ!!」
「呆れた……」

前では深いため息をこれでもかと吐かれ、後ろからは首を絞めんばかりにプロレス技をキメられて必死でタップ……!

「その辺にしといてやれ、要」

遠巻きにしている外野とぎゃあぎゃあ攻防する所に、落ち着いた低い声が霞むことなく聞こえた。

「多紀さん」
「お前、止めてやれよ。死にそうだぞヨウが」

苦笑いしながら和樹さんに話しかけるのを力が緩んだ腕の中から見て思う。この人は俺の神!と。

多紀さんは日焼けして見た目が野性的でチーターや豹を連想させる要さんやハーフで金髪、瞳は光の加減でグレーっぽく見える和樹さんとは違い、第一印象が執事。物静かそうで、ピンと背筋が伸びて姿勢がいい。3人共容姿がハイレベルなのは間違いない。
脚長いし。何食べればあんな風になれるんだ。

「ヨウ、オーナーがお呼びだ」
「ええ……」
「お仕置きかもよ」

マジで?!こ、こわっ。

「自業自得だバカタレ」

やれやれと頭を小突かれる。

「いや、客が来てるらしい。取り敢えず急いで向かえ」
「……はい」

客って誰だ?大学が一緒の友人にもこの店でバイトしてるなんて教えてもいないのに。

「ヨウ」

オーナーがいる応接室に向かう途中、個室前の廊下で呼び止められて振り向けば、多紀さんが後ろにいた。黒いスーツは高級そうな色合いから、光沢があるのが分かる。シルバーフレームの眼鏡越しに見える表情から、なんだか不穏な雰囲気を知った。

「多紀さん」
「お前、火辰と知り合いか?」

ひとき?どっかで聞いたような……。

「さあ、聞いた覚えがあるようなないような」
「どっちなんだ」

曖昧な答えに笑われてしまう。

「知り合いにそんな名前の奴は居ません」
「……そうか」

見るからにホッとする多紀さんに首を傾げる。

「急がせたのに呼び止めて悪かった。厨房の方には遅れると伝えておく」
「はい、有難う御座居ます」

ひらひらと手を振り、去っていく多紀さんが見えなくなってから目的地に急ぎ、ドア前まで来てふと思い出した。

「ひとき」

確か、俺の親父だと言われた男の名字も……。眉を顰めたその時、タイミングよく目の前のドアが開く。

「お前なにしてんだ」
「あはははは」

渇いた笑いは虚しく響いた。バッドタイミングだよオーナー!
シャツの襟を掴まれ、漸く来た俺はズルズル後ろから引きずられて中に入れられる。なんかコントみたいだ。

「大変お待たせしました。お探しの奴です」

言ったが早いか、くるっと前に方向転換させられ、客だと思わしき人物の前に立つ。勢いによろめいて背中がオーナーの懐に当たり、受け止められながら。

ちくしょう、体格差が丸わかりだ。

「太陽様」

はい?様付けで呼ばれることはそんなにないぞ。

「あれ、アンタ……」

座っていたソファーから立ち上がって俺を呼ぶ男は、先日我が家に訪れ海童と母に呼ばれていた人だった。
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