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青天の霹靂
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しおりを挟むいいようのない緊張感はテンションが上がるよな。
「高橋さん」
ロッカールームから出て、控え室にいる高橋さんに声をかければ俺を見たまま動かなくなる。
そんなにスーツが似合わないんだろうか。
「想像以上だね」
「……似合わないってことですか?」
まあ、自覚はあるよ。それなりに。
「まさか、その逆。よく似合ってるよ」
あははは、そんなふうに真顔でいわれたら照れちゃうよ!
なんか頭クラクラするし!
ラインのすっきりしたベージュのブランドスーツを用意されて目眩を起こしそうになったんだよね。
「さ、客室は一番奥だ」
淡い茶系色の緩くパーマをかけた高橋さんの髪がふわっと揺れる。きらきらした笑顔は俺の弱気を許さないような雰囲気に圧倒され、内心うなだれた。
「ヨウ」
はあ……。もう覚悟決めるからそんなバリアーみたいな笑顔を向けないで、高橋さん!
さくさく後を追って客室に繋がる通路を歩いていけば、丁度奥の部屋の手前から出て来た要さんと目が合う。
驚いたような顔から険しい訝しむような表情へ。そして、伸びてくる腕。それを高橋さんが掴んだ。
「要、話は後だ」
舌打ちをかます要さんは流石というかなんというか。然も俺の横を通り過ぎる時に頭に掌をのせ、髪を掻きまわして行った。
ちょっと、折角セットしたのに!
見兼ねた高橋さんが直してくれたんだけど、まあ、鏡ないし。異様に緊張感増したのは至近距離から香る香水。
「気を取り直して行こうか。要には俺から仕返ししとくから」
嗚呼、要さんご愁傷様です。無事でいて……!
漸く辿り着いた部屋のドアにカードキーを挿して開け、中に入る高橋さんに続いて入る。客室に入るのは2度目だけど慣れないな。
個室は計20部屋。全ての部屋がオートロックで中に入ればフロアがあり、その奥に客室があるっていう豪華さ。声が漏れることのない防音完備。
個室は会員特典のひとつ。フロアは若い客をターゲットに作られたもので、会員制とはいっても個室を使える会員とは金額の桁が違う。そのためなのか個室のホストは別になる。
下手するとフロアにいるホストは個室担当のホストを知らない可能性もあるって聞いたし。
ドアの側にあるインターホンを押すのを人事のように見た俺は俯き一番深く深呼吸をする。
自分で思っていたよりも体に力が入り、緊張してるのが分かった。情けない。
『はい』
「ヨウを連れてきた」
『畏まりました』
ソプラノよりも低い控えめの声はこの部屋を担当しているホスト。
ドアのロックが外れる音がして、いよいよかと思う。
なんかもう訳分かんないし、どうとでもなれ。マナーなんて世間一般のものしか知らないんだし、いつも通りにいってやる!
そう覚悟を決めればストンと気持ちが楽になり、余計な力も抜けていく。
「失礼致します。木佐様、ご指名のヨウをお連れしました」
……ん?一世一代並みに一歩を踏み込んだ俺は何かに引っ掛かった。
間接照明のあるモダンな雰囲気のある部屋へ完全に入室してしまえば、情け容赦なくドアを閉められてしまい、ロックが掛かる。
「太陽様」
え、なんで?さっきまで俺と一緒にいた弁護士の海童と明け方まで睦見合っていた相手、木佐が目の前に揃っている。
「なに、この笑えない冗談」
「ヨウ」
「太陽様、木佐さんは」
「ストップ!」
高橋さんや麗しのホストさんがいるところでなに言うつもりだ、この人は。
「こいつらは他言しないぞ」
知ってるよそのくらい。だからって風潮するようなことでもない。
そっと口元に人差し指を持っていき、何も言うなと気持ちを込めて日頃友人たちに評判の悪い笑みをむける。
「……お前な」
でっかいため息を吐き、首を横に振る木佐にいいようのない怒りが込み上げる。
失礼な!
「少しは自分の容姿に自覚持て」
「藪から棒に何言ってんだ、あんた」
「木佐様、我々は失礼致します」
「ああ、悪いな」
煙草の煙りをぷかぷか浮かべながら苦笑する。
あれ、高橋さんとホストのお兄さん行っちゃうの?!
呆気に取られる。
ぱたりと礼儀正しく一礼して出て行く高橋さんを最後にドアは閉められた。
「太陽様」
「ん?」
暫くぼーっとしていた俺は正気に戻る。
「木佐さんは火辰の」
「ああ、うん。関係者なんだろ?」
なに驚いた顔してんの。一緒にいる時点で気付くでしょ。
「度胸も据わってるが勘もいいか、こりゃあ血筋かね」
「そうかも知れません」
苦笑いに近い笑顔は木佐とまた違った男らしい顔。
タイプは違うけど女には不自由しない容姿だ。
「単刀直入に言う。火辰に来い」
「木佐!」
「断る」
なんで命令なんだよ。
「く……っ、あはははははっ」
「笑い過ぎだ、海童」
「お前の発言をキッパリ断るなんて……はははっ」
駄目だ、この人壊れちゃったよ。仕舞には腹抱えてるし。
「ヨウ、火辰に来いつってんだろ」
「嫌だ」
まだいうか!ぶすっと不貞腐れた顔をする男に海童の笑いが伝染したのか俺まで笑ってしまう。
「なんで親でもないのにあんたに命令されなきゃなんねぇの」
たかだか。
「極道かなんだか知らないけど、俺は母さんがいるし親父なんて存在からして知らない。あんたたちが勝手に騒いでかき乱すのは不愉快だ」
笑いを収めて木佐の目を見て伝えれば、横で息をのむ気配が伝わる。
「俺たちは無法地帯だ」
一緒にして表情を変える男は自分の知るものじゃない。
「だったら無理矢理連れてくの」
「太陽様、木佐は火辰の若頭なんです」
「へえ」
って、なに?
「若頭って偉いの?」
なんだかまたツボにハマったらしい。が、なんとか保ち堪えた海童サン。
「若頭ってのは結構融通の利く立場だ」
「で、俺は拉致られんの?」
もしかして。無法地帯っていってたし。
「そんな事したら冴さんが乗り込んでくるぞ」
「一石二鳥だろ」
「要は俺、餌って事?」
やっぱそうなのか。
「それで俺んとこまでねぇ」
ご苦労なこと。うんうんと一人納得すれば舌打ちする木佐がぎゅっと吸っていた煙草の火を灰皿の上で消す。
「勘違いするな。お前の母親はついでだ」
何気に酷いこといってない?
「あんた人の母親をついで扱いして嬉しいと思ってんの」
ヤクザってこーゆーのなのか。よく分かんないな。
「全面的に拒否。ってことでこの話は終わりね、海童さん」
「どうしても、ですか」
お、この人もくいつくね。
「うん。俺って一般市民じゃない、親父がどうであれ。酷いことすると警察に通報します」
「はっ、警察なんて」
「怖くない?でもさ、鹿島さんとか新見さんとかならどうだろ」
母さんの知り合いの。
「大変だろうな~」
嬉々として調べてくれる刑事さんの名前を挙げたら二人とも黙った。なに、そんなに凄いのかあの人たち。
母さんの飲み友達な筈なんだけど。
「お前、鹿島や新見と親しいのか」
「いや、母さんの知り合い。よく家に来て飲んでいくから顔も知ってる」
なんせ飯を作るのは俺なんで。
「ちっ、面倒だな」
「どうりで見つけるのに苦労した訳だ」
なんだろ、二人してどっと疲労が浮かび上がってんだけど、気のせい?
「なあ、このフルーツ盛り合わせ食べてい?」
「ああ、酒も飲めるなら飲め……、お前緊張感の欠片もないな」
「あんたに緊張したら食事も喉に通らないよ」
海童さんは笑うのに忙しそう。まあ、俺はこのフルーツ盛り合わせを食す。
メロン!原価の高いメロンは久しぶりだ!
モグモグ食してれば大袈裟に溜息吐いて呆れた顔をした木佐は何を思ったのか。
「んぐっ!!」
人の頭を鷲掴んで、強引に自分の方へ俺を放り込む。
ちょっ、喉にメロン詰まりそうだった!
「なにしやがっ」
「お前は今日お持ち帰りだ」
「え、無理。帰りに食事しにいくし」
「ほぉ……」
あれ?なんで今度は首横に振ってんの、海童さん。俯き加減で……。
「知ってるか、警察は連絡しないと来てくれないこと」
拉致決定?!
俺なんか地雷踏んだんですか。
「むりむりむり」
「海童、帰るぞ」
「んんンンっ」
「すみません、太陽様」
嘘おお!!マジで?!
口を塞がれて立たされたかと思えば、さっと口の中に何かを詰め込まれ担がれて薬品らしき臭いがした。
◽︎◽︎◽︎◽︎◽︎
「お早う御座居ます、太陽様」
知らない部屋のベッドの上で目が覚めた。
んーー……、あれーー?
つか、どこですかここ。
あはははは……っ、マジで拉致られたようです。母上。やべぇ、般若の如く説教されそうっ。
スルッと襖を開けて部屋へ入ってきた海童さんは憎らしいくらい爽やかに笑みを見せた。
舎弟たちが下書きを持ち出したので続きがありません。
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