Geekに恋した2人

べいかー

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三角関係 二

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 ユイカ、本名本郷唯花ほんごうゆいかは、東京生まれの東京育ちである。そして、幼い頃からみんなに「可愛らしい」と言われ、育ってきた。実際、ユイカは小さい時から、誰からも美人と思われるタイプで、非の打ち所がない顔であった。もちろんそれは、20代の大人になった今でも変わっておらず、そのことがユイカを、同性だけでなく、男性からも人気のあるトップモデルに、しているのであった。

 しかしユイカが本当に優れているところは、決して顔だけではない。ユイカは、幼い時から、負けず嫌いで、ストイックな性格であった。

 小さい頃のユイカは、月曜日はピアノ、火曜日は英会話、水曜日はスイミング、木曜日は書道、また金曜日は合気道と、ほぼ毎日、習い事に勤しんでいた。そして、そのどれも、ユイカは手を抜くことなく、真剣に取り組んできた。もちろん、その全てで、そのレッスンのトップクラスの、成績も収めている。つまりユイカは、顔だけでなく、物事に対して万能であり、いわゆる才色兼備な女の子だったのである。もちろん、学業の方もトップクラスの成績であったことは、言うまでもない。

 普通であれば、このような星の下に生まれたら、自信過剰にでもなりそうなものだが、ユイカは決してそうはならなかった。ユイカは物事に対して、本当にストイックで、真面目な性格であった。それだけでなく、ユイカは優しい一面も持ち合わせており、大半の、(ユイカは決してそのようには思ってはいないが)自分より出来の悪い人に対しても、奢ることなく、快活に接し、時には他の人に、(頼まれればではあるが)アドバイスを、丁寧にすることもあった。

 もちろん、ユイカは負けず嫌いな性格も持ち合わせていたが、それはどちらかと言うと、他人に対して、というものではなく、自分に対して、というものであった。特に、そんなユイカでも時々ある、「今日は、勉強も練習もしたくない。」というような弱い心には、絶対に負けたくないと、ユイカは心に決めていたのであった。

 「絶対唯花だったら、トップモデルになれるよ。ねえ、オーディション、受けてみなよ?」

これは、ユイカが高校生の時に、友達に言われた一言である。その時のユイカは、もちろん年頃の女の子らしく、ファッション、ひいては芸能界に興味はあったが、「自分がモデルになる」という、確固たる目標意識があるわけではなかった。しかし、その後友達が、半ば勝手に、ユイカをオーディションにエントリーしたことで、ユイカの人生は、大きな転機を迎えることになるのである。

 「エントリーNo136、本郷唯花です。よろしくお願いします。」

そこから、ユイカの快進撃が始まった。ユイカは、生まれながらのルックス、プロポーションに加え、多種多様な習い事、また趣味の関係で、様々な質疑応答にも臆することなく、堂々と答え、あれよあれよという間にそのオーディションの、グランプリを獲得した。そして晴れて、ユイカはモデルとして、デビューすることになったのである。

 そして、ユイカはその時から、不思議な感覚に捕らわれた。今までの人生でユイカは、勉強や習い事など、(もちろん、自意識過剰という意味ではないが、)どちらかというと自分のために、努力をしてきた。そうやって自分磨きをして、さらなる高みに達したい、そのために、色々なことに挑戦したい…。それが、今までのユイカの生きてきた道であった。しかし、モデルの仕事は、少し違った。もちろん、モデルの業界だって、自分磨きをしなければならないし、目標を達成して、さらなる高みに行くこともできる。だが、雑誌の編集者等、関係者から、耳にタコができるほど聞かされた言葉は、

「あなたたちは、洋服を綺麗に見せるのが仕事なの。決して、自分を綺麗に見せるのが仕事ではないわよ。」

という、言葉であった。

 「これが、モデルという仕事の楽しさ、やりがいなんだ。」

ユイカは、そう感じた。そして、しばらくこの仕事を続けていくうちに、これこそが自分のやりたかったこと、大袈裟に言えば天職なんだと、思うようになった。いかに着ている洋服を、魅力的に見せ、雑誌の読者に楽しんでもらえるか…。気づいたらユイカは、そのことばかり考えるようになっていた。もちろん、誰にでもあることだが、「今日は、仕事に行きたくない。」と思うことだって、ユイカにもある。でも、そんな時でも、ユイカは持ち前の負けん気で、自分の弱い心に打ち克ち、仕事をしてきたのだった。

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