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第4話 貴族牢から見える月
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「シエラを地下牢へ連行しろ!」
一通り、再会を喜び合った後で、王太子が会場に控えている衛兵たちに命じた。
「待て、王太子!」
王太子の命令を国王が制止した。
「なぜですか、父上? この女は不当に公爵令嬢、そして我が婚約者を語った大罪人。牢につなぐが妥当かと?」
「うむ、処遇が決まるまでどこかに拘束しておくのは賛成だが、貴族の令嬢をいきなり凶悪犯を収監する場所に連れて行くのは……」
「父上は甘すぎます」
「周囲を見ろ、王太子。事件はシエラ嬢が赤子の時に起こったこと。彼女自身に責任を問うことはできない。ゆえにいきなり『偽物』であることを明かされたシエラ嬢への同情の声もあちこちから聞こえている。この状況で彼女をいきなり罪人扱いをするのは……」
「では、どうすれば!」
王太子はいら立ちを隠せず父王に問うた。
「今宵は国中の貴族が集う祝宴じゃ。これ以上王家や公爵家の問題で来賓を煩わせるのはよろしくない。後のことは後日関係者にて話し合えばいいことじゃ」
国王の判断でシエラは貴族牢にていったんとどめ置かれることとなった。
衛兵に連れられたシエラは貴族牢の中で来ていたドレスを脱がされ、王宮が用意した部屋着に着替えさせられた。
着替えは女官が粛々と手伝っただけだが、無理やり腕を引っ張られたり、コッソリつねられたりすることがなかったことにシエラは感動した。
しかもその部屋着の肌触りのなめらかなこと、それも感動した。
単に王族が使う物と同じ品質の来客用のものを用意されたにすぎないのだが。
ローゼンシア公爵家では夜会用のドレスなど対外的な衣装は、体面を考え一流のものをシエラに身につけさせる。
しかし部屋着など外から見えないものは、シエラに対しては、両親や弟妹達が使っている物より品質が二段階くらいランクダウンしたものしか許してくれたことはなかった。
「お食事をお持ちしました」
部屋(貴族牢)で人心地がついたシエラに、入ってきた使用人が声をかけた。
「これ全部食べていいんですか?」
ワゴンに乗っている食事を見てシエラが尋ねた。
「はい、パーティの残り物で申し訳ありませんが……」
使用人が答えた。
「ありがとう、こんなごちそう初めて。うれしい」
ええっ!
公爵令嬢ならもっといいものを食べているだろ?
シエラの心のこもったお礼の言葉に使用人はいぶかった。
食事においても、シエラは両親や弟妹達と同じテーブルを囲むことはめったになかった。
シエラは自室で食事をとることを命じられ、いつもそうしていた。
意地の悪い使用人たちは、提供する食事を使用人用のものとすり替えて提供し、時に極端に量を減らして与えることもあった。
子供の頃のシエラは日常的におなかがすいており、コッソリ厨房に行って残ったものをあさっていたのを家の者に見つかりひどく叱られたこともある。
王太子の婚約者になってからは、王宮のパーティにも頻繁に出席するようになったが、テーブルに並べられる食事に食いつくのはみっともないとされ、食べたいのをいつも我慢してきたのだった。
ああ、パーティ会場のテーブルに並べられたメニューを好きなだけ食べる夢がまさかここでかなうなんて!
シエラは神に感謝した。
思う存分、一流のパーティメニューを堪能した後、もう一度使用人に礼を言ってワゴンを下げてもらった。
ようやく一人になったシエラは天井近くの丸窓からのぞく月を見上げた。
皮肉なものね。
罪人扱いで収監された牢の中の方が、自分の部屋よりも居心地がいいなんて。
これから自分がどうなるのかわからない。
不安で仕方がない気持ちのシエラにも月は優しくその光を注いでくれるのだった。
一通り、再会を喜び合った後で、王太子が会場に控えている衛兵たちに命じた。
「待て、王太子!」
王太子の命令を国王が制止した。
「なぜですか、父上? この女は不当に公爵令嬢、そして我が婚約者を語った大罪人。牢につなぐが妥当かと?」
「うむ、処遇が決まるまでどこかに拘束しておくのは賛成だが、貴族の令嬢をいきなり凶悪犯を収監する場所に連れて行くのは……」
「父上は甘すぎます」
「周囲を見ろ、王太子。事件はシエラ嬢が赤子の時に起こったこと。彼女自身に責任を問うことはできない。ゆえにいきなり『偽物』であることを明かされたシエラ嬢への同情の声もあちこちから聞こえている。この状況で彼女をいきなり罪人扱いをするのは……」
「では、どうすれば!」
王太子はいら立ちを隠せず父王に問うた。
「今宵は国中の貴族が集う祝宴じゃ。これ以上王家や公爵家の問題で来賓を煩わせるのはよろしくない。後のことは後日関係者にて話し合えばいいことじゃ」
国王の判断でシエラは貴族牢にていったんとどめ置かれることとなった。
衛兵に連れられたシエラは貴族牢の中で来ていたドレスを脱がされ、王宮が用意した部屋着に着替えさせられた。
着替えは女官が粛々と手伝っただけだが、無理やり腕を引っ張られたり、コッソリつねられたりすることがなかったことにシエラは感動した。
しかもその部屋着の肌触りのなめらかなこと、それも感動した。
単に王族が使う物と同じ品質の来客用のものを用意されたにすぎないのだが。
ローゼンシア公爵家では夜会用のドレスなど対外的な衣装は、体面を考え一流のものをシエラに身につけさせる。
しかし部屋着など外から見えないものは、シエラに対しては、両親や弟妹達が使っている物より品質が二段階くらいランクダウンしたものしか許してくれたことはなかった。
「お食事をお持ちしました」
部屋(貴族牢)で人心地がついたシエラに、入ってきた使用人が声をかけた。
「これ全部食べていいんですか?」
ワゴンに乗っている食事を見てシエラが尋ねた。
「はい、パーティの残り物で申し訳ありませんが……」
使用人が答えた。
「ありがとう、こんなごちそう初めて。うれしい」
ええっ!
公爵令嬢ならもっといいものを食べているだろ?
シエラの心のこもったお礼の言葉に使用人はいぶかった。
食事においても、シエラは両親や弟妹達と同じテーブルを囲むことはめったになかった。
シエラは自室で食事をとることを命じられ、いつもそうしていた。
意地の悪い使用人たちは、提供する食事を使用人用のものとすり替えて提供し、時に極端に量を減らして与えることもあった。
子供の頃のシエラは日常的におなかがすいており、コッソリ厨房に行って残ったものをあさっていたのを家の者に見つかりひどく叱られたこともある。
王太子の婚約者になってからは、王宮のパーティにも頻繁に出席するようになったが、テーブルに並べられる食事に食いつくのはみっともないとされ、食べたいのをいつも我慢してきたのだった。
ああ、パーティ会場のテーブルに並べられたメニューを好きなだけ食べる夢がまさかここでかなうなんて!
シエラは神に感謝した。
思う存分、一流のパーティメニューを堪能した後、もう一度使用人に礼を言ってワゴンを下げてもらった。
ようやく一人になったシエラは天井近くの丸窓からのぞく月を見上げた。
皮肉なものね。
罪人扱いで収監された牢の中の方が、自分の部屋よりも居心地がいいなんて。
これから自分がどうなるのかわからない。
不安で仕方がない気持ちのシエラにも月は優しくその光を注いでくれるのだった。
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