真実

すず

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一章

東京

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6月の温かい日差しがカーテンの間から差し込む。スマートフォンのアラーム時計が鳴り響き目を覚ました。
スマートフォンに手を伸ばしアラームを止める。ベッドからゆっくりと起き上がりカーテンを開ける。
アパートの外に見える川沿いの河川敷では犬を連れて散歩をしている人や、ランニングをする男性の姿が見えた。
佐々木結衣子は東京の大手デパートで働く二十六歳だ。故郷である長野県から離れ三年前東京に上京してきた。
小さなあくびをしながらキッチンに向かう。キッチンといってもガスコンロに、小型トースター、電子レンジ、小型冷蔵庫が並んでいるだけの狭い空間だが一人暮らしに結衣子には充分だった。
キッチンの端の棚にはレトルト食品が並んでいる。普段仕事で遅くなりがちな結衣子の夕食は、閉店間際にるスーパーの値引き弁当かレトルト食品だった。手間もかからないし美味しい。ここ最近はもっぱら自炊などしていなかった。といっても朝食だけは簡単に 作っていた。レトルト食品の棚の上にあるコーヒーメーカーは母が東京に行くと決まったときにプレゼントしてくれた物である。
結衣子は冷蔵庫から卵とベーコンを取り出しベーコンエッグを作る。その間にコーヒーをドリップする。ガスコンロでお湯を沸かしカップスープにお湯を注ぐ。ベーコンエッグを皿に盛り付ける。パンも焼き上がり皿に乗せる。ヨーグルトをプラスチック容器に移し母が仕送りしてくれた手作りイチゴジャムを乗せる。コーヒを注ぎ、ミルクを入れ、テーブルに運び食べ始める。
テレビをつける。時刻は午前六時半。天気予報が流れ始める六月梅雨入りをしてジメジメする季節。いつ雨が降り出すか分からない。結衣子は立ち上がり棚から折り畳み傘を出し鞄に入れた。
朝食が終わるとスーツに着替える。スーツを着ると気持ちがシャンっとする。ヘアセットをしメイクをする。デパートでは清楚が求められる。ネイル、濃い化粧はもちろん禁止だ。
長い髪を黒ゴムで一つにまとめ、パールのバレッタをする。時刻は七時半を回ってニュースキャスターがニュースを読み始めた。幼児虐待、交通事故。心が痛くなるニュースだ。
「ここで情報提供をお願いします。一昨日午後、東京都世田谷区の住宅街で八十二歳の浜田千鶴さんの姿が見えなくなりました。」
姿が見えない…。
胸が高鳴る。
「浜田さんは認知症を患っており度々徘徊する事はあったそうです。しかしこれまで徘徊している浜田さんはすぐに近所で保護されていたそうです。その日家族は忙しく十分程目を離した間に居なくなってしまったそうです。」
居なくなった…。
鼓動が早くなる。
「たった十分間でどこに行ってしまったのでしょう。家族は昨日早朝に捜索願を出しました。失踪でしょうか。自ら失踪したのでしょうか。浜田さんは 身長…          」
捜索願…。失踪…。
息ができない。頭が痛い。
「以上最新ニュースでした。」
テーブルの上にある水を飲み干す。ゆっくり深呼吸をする。
気持ちが落ち着くと出勤の準備をする。手には汗がすごい。
落ち着け。落ち着け。自分に言い聞かせながら鞄に手帳ペットボトルの水を入れる。
戸締りを確認すると玄関に行きパンプスを履く。ドアを開けると厚いコンクリートの壁。やっと現実に戻れたような気がした。階段を駆け下りる。日差しを浴びながらゆっくり、ゆっくり駅へと向かう。
失踪…。その言葉は十年経った今でも辛い記憶の中の言葉。
あの日、あの日。八月のあの日。
懐中電灯で道を照らしながら歩く捜索隊。
電話の前で泣き崩れる母。
結衣子をじっと抱きしめる祖母。
玄関の前でタオルを首に巻きながら立ち尽くしていた祖父。
鮮明に覚えている。
「結衣子…。」

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