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二章
あの日
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10年前。八月十二日。
長野県。結衣子が生まれ育った村は小さな田舎だった。近所同士仲が良く畑で育てた野菜や養鶏場の卵。お裾分けは頻繁だった。
佐々木と木の表札に書かれた立派な家。
高校の社会教師の父、雅人。近所のジャム工房で働いている母、優子。
養鶏場で働いていた祖父、雅彦。家事は祖母、静子がやってくれていた。
その日は年に一度ある村の大きなお祭りが行われるため父、祖父は朝から準備をしていた。神輿の準備。屋台の準備。祖父は見守り隊。父は飲み仲間と焼きそばの屋台。母はジャム工房の仲間と蒸しパンや菓子パンの屋台を任されていた。
結衣子もその日は朝早く起きて祖母と村の掃除をしていた。
太陽が一番高く昇る昼過ぎ。父、祖父、母が支度から戻ってきた。
扇風機が回っている部屋で結衣子と祖母が作った冷麦と天ぷらを食べた。
結衣子は幼い頃からおばあちゃん子だった。
その頃はまだ祖母も働いていた。
そんな祖母も母が工房で働き始めて仕事を年齢も考えて辞めることになった。結衣子が小学四年生の冬だった。
それから結衣子が家に帰ると祖母が待っていてくれるようになった。おやつを食べて祖母と買い物に行くのが結衣子の放課後に過ごし方だった。
母が家にいる頃の平日はもちろん学校があるため、仕事についていけない結衣子は退屈で仕方なかった。おやつを食べたら
時間がかかるから。
と言い買い物に一緒に連れて行ってはくれなかった母。休日は一緒に行くことが多かったが平日に行った記憶は急ぎのようでない限りほとんどない。月に一度か二度はねだって連れっていてもらっていた。結衣子はおやつを食べ終えると退屈で仕方なかった。時計の音が響く四畳ほどの畳の部屋で絵を描くがすぐに飽きてしまう。
ふと外に出て見ると田んぼ道の前で同級生が遊んでいた。いつの間にか結衣子も輪に入り遊びようになっていたが、祖母と買い物に行くようになってからは月に二、三度しか遊んでいなかった。それを見かけて祖母は
「いいのかい?みんなと遊ばなくて。おばあちゃん一人で行ってもいいのよ?」
「ううん。結衣子おばあちゃんと行く」
「そうかい。じゃあ行こうか。車に乗りなさい。」
結衣子は車の助手席に乗ってその日に出来事を話しながら片道三十分の道を車で走る。
結衣子が住んでいるところは田舎なので山を下らなくちゃ大型スーパーはない。
昼食をとり終えると支度を始めた。母は工房に出かけて行き、父は公民館へ。祖父は疲れてしまったのか、見守り隊の会議が始まる四時前には起きると行って二階にある祖母と寝ている寝室へ入って行った。結衣子も夕方には友達と祭りに出かける約束をしていたので二階の自分の部屋に上がって行って友達とメールをしていた。
どのくらい時間がったたのか。結衣子はいつの間にか寝てしまっていた。夏休みに入り夜遅くまで勉強しているので多少疲れがたまっていた。階段の下から祖母が
「ゆいちゃーん。そろそろ起きて‼︎」
結衣子はベットから飛び起き、階段を駆け下りた。気がつけば一時間半も寝てしまっていた。
「階段は静かに降りろよー。」
祖父に注意された。
祖父は社会ルールや礼儀に厳しい人だった。
小学生の頃の結衣子の門限は村にチャイムが流れる時間四時半だった。一度遊びに夢中になりすぎて十分程遅れてしまったことがあった。木の門に鍵がかけられていた。チャイムを鳴らすと祖父が出てきて
「門限を過ぎているだろう‼︎少し反省しなさい」
そういうと祖父は中に入って行ってしまった。五時を過ぎても門を開けてくれることはなかった。近くに村のバス停に時計があったので時間は分かった。
家には母しかいなかった。母は祖父に気を使っていたのだろうか。中に入れてくれなかった。そこに祖母が仕事から帰ってきた。泣いて顔がくしゃくしゃになった結衣子に顔を見て祖母は目を見開き
「ゆいちゃん?誰がこんなこと…。おじいちゃんなの?寒かったでしょ?中に入ろう。雅彦さん許さない‼︎」
結衣子はヒクヒクしながら手を引かれ家に入った。
「雅彦さん‼︎どうしてゆいちゃんをこんな寒いのに三十分も外に出しておくの‼︎風邪引くでしょ?手なんか真っ赤よ。」
祖母は今まで以上に怒った。
「ばあさんは心配し過ぎだ。甘やかし過ぎだ。約束を守らせないと結衣子が社会人になって苦労するぞ。」
祖父は小さな声で言った。
「そんなの今は関係ないでしょ?まだゆいちゃんは子供なんだからのびのび育てたいって雅人も優子さんも言ってたじゃないか!」
祖父は黙ってしまった。祖母に何かを言われれば何も言い返せない性格なのはわかっていた。祖父はもちろん普段は優しかった。一緒に散歩をしたり西瓜を食べたり。自分がいけないことをしたらきちんと注意してくれるそんな祖父が結衣子は好きだった。だから今回も自分が悪いのだ…。と。でも祖母が優しくしてくれる。つい甘えてしまう。幼いながらに分かっていた。
「優子さんも優子さんよ。自分の娘が寒い思いしてるって言うのに自分はストーブ焚いてのうのうと料理?そんなことより開けてあげなさいよ!」
「違います。お姑さん。違います。結衣子のことは思ってたけどお義父さんに言われたから。」
母は涙ぐんで言った。
「ゆいちゃんおばあちゃんとお風呂に入ろう。温まろう。可哀想に。」
その後結衣子は祖母にに内緒で祖父に謝った。祖父は顔をくしゃっと崩して笑って許してくれた。
そんなことを思い出しつつもつい
「うるさいなぁ。階段なんて普通に歩いてもドタドタ言うよ。だいたい家自体古いんだからさぁ。壊れても仕方ないよ。」
冗談交じりで言った。
「結衣子‼︎最近反抗期かなんだか知らんけど注意されたら素直に謝れ!全く。雅人も躾がなっとらん。」
いつもこうだ。結衣子が何かすれば父か母の名前を出す。いい加減うんざりだった。
台所に向かって
「おばあっちゃーん。」
と助けを呼んだが返事がない。さっきまで台所にいたと思ったのに。
「ばあさんは、庭の畑に野菜を取りに行ってる。すぐにおばあちゃんに助けてもらうのはやめなさい!全く恥ずかしくないのか!高校生にもなって。優子さんは何を教えてきたんだか。」
「あー。もう‼︎うるさいなぁ。いちいち、いちいち。」
そこへ縁側から野菜の入ったカゴを持って祖母が家に入ってきた。
「はいはい。ゆいちゃんも雅彦さんも落ち着いて。ゆいちゃん可愛い顔が台無し。今日はお祭りでしょ?ねっ。」
結衣子にそう言った。
「雅彦さん‼︎いちいち雅人や優子さんの名前出さないでください。躾とかいいじゃない?あの子たちに任せれば。雅彦さんはおじいちゃん。って言う立場でみてください!結衣子も年頃なんだから。」
祖父にはそう言った。
「でもゆいちゃんも気をつけなさい。床とかいつ抜けるか分からないわよ。ねっ‼︎」
結衣子は黙ってコクリと頷いた。
「はいはい。この話はこれでお終い。おやつにしましょう。麦茶入れるから。この間田辺さんにもらったお菓子あるのよ。あっ。ゆいちゃん今日ちーちゃんと行くでしょ。お礼言わなくちゃね。」
ちーちゃん。とは結衣子の親友田辺千春のことだ。三軒離れたところに住んでいて小学校に上がって始めにできた親友だ。高校は結衣子が私立で千春が公立と別れてしまったが月に一回ほど町に買い物に行く仲だった。夜でもお互いの家を行き来きすることも度々あった。
三時半を過ぎると支度を始めた。祖父も汗をかいたシャツを着替えて公民館に出かけて行った。祖母は千春の祖母と千春、結衣子はと行く約束をしていた。祭りには四人で行く。お互い祖母同士も仲が良かったし、お互いの祖母のことをよく知っていたのでついてくることに嫌だと言う気持ちは無かった。むしろその方が夜は安心と思っていた。
きっと都会の女子高校生なら嫌がる年齢だろう。田舎は大人も子供も仲良しだから小学生に限らず中学生、高校生と仲良しだ。都会ならきっと許されないだろうな。近所でも不審者扱いされてしまうのではないか。隣人でも危ういかもしれない。
そんなことを考えていると祖母がエプロンを脱いで着替え始めた。普段家事をするために派手な服装をしない祖母もこの日だけは少し洒落た格好をしていた。
薄い紫のロングスカートに花柄の刺繍がしてあるブラウス。いかにも祖母らしい、そして可愛らしい格好だ。
「おばあちゃん可愛いよ!」
「本当かい?ありがとう!さてとゆいちゃん。浴衣着るかい?」
「浴衣着る着る‼︎今年はどんな浴衣を作ってくれたの?」
浴衣は毎年祭りの時期に合わせて祖母が作ってくれていた。去年は薄紫色の花。その前は白生地に金魚が綺麗に描かれていた。
「うふふ。今年はね、ピンクのアサガオにしたわよ。」
祖母がそう言って奥の部屋の襖を開け箪笥から浴衣を取り出す。
「すごく可愛い!おばあちゃんありがとう‼︎」
結衣子は祖母が作ってくれる浴衣が好きだった。
祖母に着付けをしてもらいヘアセットをする。長い髪を一つにまとめて簪をさす。
口に紅をさして準備はできていた。
後は千春と千春の祖母が来るのを待つだけだった。
祖母は手作りの稲荷寿しをパックに詰めていた。この村は行事があるたびに稲荷寿司を作る家が多い。祖母も同じだった。酸っぱい酢飯に甘くてふわふわな油揚げの相性は抜群だ。祖母は見守り隊の差し入れとしてパックに包んでいた。
約束に時間は四時半。しかし時計は四十五分をまわっていた。おかしい。約束事には遅れて来ないのが田辺千春なのに。
「おばあちゃん。千春の家まで行ってくるよ。幾ら何でも遅すぎ‼︎」
「ゆいちゃん。もう少し待ってみなさい。支度があるかもしれないんだから。急かしちゃ悪いわよ。」
祖母がそう言うとなんだか逆らえなくなってしまった。
時計の針が五時をさしようやく千春が来た。
「ごめんね。支度に手間取っちゃて…。ほんとごめん!」
そう言われればメイクでなんだか別人になったような。メイクはここまで人を変えられるのかと結衣子は感心した。
「ごめんなさいね。結衣子ちゃん。静子さん。この子支度が遅いから」
千春の祖母が軽く頭を下げた。
「いいんですよぉ。お互い様じゃないですか。それより美味しいお菓子ありがとうございました。」
祖母が言った。
「千春時間に遅れることぐらい誰にでもあるから。もういいよ。お祭り行こう。ねっ」
そんな会話の後四人は祭り会場になっている神社へと向かった。
長野県。結衣子が生まれ育った村は小さな田舎だった。近所同士仲が良く畑で育てた野菜や養鶏場の卵。お裾分けは頻繁だった。
佐々木と木の表札に書かれた立派な家。
高校の社会教師の父、雅人。近所のジャム工房で働いている母、優子。
養鶏場で働いていた祖父、雅彦。家事は祖母、静子がやってくれていた。
その日は年に一度ある村の大きなお祭りが行われるため父、祖父は朝から準備をしていた。神輿の準備。屋台の準備。祖父は見守り隊。父は飲み仲間と焼きそばの屋台。母はジャム工房の仲間と蒸しパンや菓子パンの屋台を任されていた。
結衣子もその日は朝早く起きて祖母と村の掃除をしていた。
太陽が一番高く昇る昼過ぎ。父、祖父、母が支度から戻ってきた。
扇風機が回っている部屋で結衣子と祖母が作った冷麦と天ぷらを食べた。
結衣子は幼い頃からおばあちゃん子だった。
その頃はまだ祖母も働いていた。
そんな祖母も母が工房で働き始めて仕事を年齢も考えて辞めることになった。結衣子が小学四年生の冬だった。
それから結衣子が家に帰ると祖母が待っていてくれるようになった。おやつを食べて祖母と買い物に行くのが結衣子の放課後に過ごし方だった。
母が家にいる頃の平日はもちろん学校があるため、仕事についていけない結衣子は退屈で仕方なかった。おやつを食べたら
時間がかかるから。
と言い買い物に一緒に連れて行ってはくれなかった母。休日は一緒に行くことが多かったが平日に行った記憶は急ぎのようでない限りほとんどない。月に一度か二度はねだって連れっていてもらっていた。結衣子はおやつを食べ終えると退屈で仕方なかった。時計の音が響く四畳ほどの畳の部屋で絵を描くがすぐに飽きてしまう。
ふと外に出て見ると田んぼ道の前で同級生が遊んでいた。いつの間にか結衣子も輪に入り遊びようになっていたが、祖母と買い物に行くようになってからは月に二、三度しか遊んでいなかった。それを見かけて祖母は
「いいのかい?みんなと遊ばなくて。おばあちゃん一人で行ってもいいのよ?」
「ううん。結衣子おばあちゃんと行く」
「そうかい。じゃあ行こうか。車に乗りなさい。」
結衣子は車の助手席に乗ってその日に出来事を話しながら片道三十分の道を車で走る。
結衣子が住んでいるところは田舎なので山を下らなくちゃ大型スーパーはない。
昼食をとり終えると支度を始めた。母は工房に出かけて行き、父は公民館へ。祖父は疲れてしまったのか、見守り隊の会議が始まる四時前には起きると行って二階にある祖母と寝ている寝室へ入って行った。結衣子も夕方には友達と祭りに出かける約束をしていたので二階の自分の部屋に上がって行って友達とメールをしていた。
どのくらい時間がったたのか。結衣子はいつの間にか寝てしまっていた。夏休みに入り夜遅くまで勉強しているので多少疲れがたまっていた。階段の下から祖母が
「ゆいちゃーん。そろそろ起きて‼︎」
結衣子はベットから飛び起き、階段を駆け下りた。気がつけば一時間半も寝てしまっていた。
「階段は静かに降りろよー。」
祖父に注意された。
祖父は社会ルールや礼儀に厳しい人だった。
小学生の頃の結衣子の門限は村にチャイムが流れる時間四時半だった。一度遊びに夢中になりすぎて十分程遅れてしまったことがあった。木の門に鍵がかけられていた。チャイムを鳴らすと祖父が出てきて
「門限を過ぎているだろう‼︎少し反省しなさい」
そういうと祖父は中に入って行ってしまった。五時を過ぎても門を開けてくれることはなかった。近くに村のバス停に時計があったので時間は分かった。
家には母しかいなかった。母は祖父に気を使っていたのだろうか。中に入れてくれなかった。そこに祖母が仕事から帰ってきた。泣いて顔がくしゃくしゃになった結衣子に顔を見て祖母は目を見開き
「ゆいちゃん?誰がこんなこと…。おじいちゃんなの?寒かったでしょ?中に入ろう。雅彦さん許さない‼︎」
結衣子はヒクヒクしながら手を引かれ家に入った。
「雅彦さん‼︎どうしてゆいちゃんをこんな寒いのに三十分も外に出しておくの‼︎風邪引くでしょ?手なんか真っ赤よ。」
祖母は今まで以上に怒った。
「ばあさんは心配し過ぎだ。甘やかし過ぎだ。約束を守らせないと結衣子が社会人になって苦労するぞ。」
祖父は小さな声で言った。
「そんなの今は関係ないでしょ?まだゆいちゃんは子供なんだからのびのび育てたいって雅人も優子さんも言ってたじゃないか!」
祖父は黙ってしまった。祖母に何かを言われれば何も言い返せない性格なのはわかっていた。祖父はもちろん普段は優しかった。一緒に散歩をしたり西瓜を食べたり。自分がいけないことをしたらきちんと注意してくれるそんな祖父が結衣子は好きだった。だから今回も自分が悪いのだ…。と。でも祖母が優しくしてくれる。つい甘えてしまう。幼いながらに分かっていた。
「優子さんも優子さんよ。自分の娘が寒い思いしてるって言うのに自分はストーブ焚いてのうのうと料理?そんなことより開けてあげなさいよ!」
「違います。お姑さん。違います。結衣子のことは思ってたけどお義父さんに言われたから。」
母は涙ぐんで言った。
「ゆいちゃんおばあちゃんとお風呂に入ろう。温まろう。可哀想に。」
その後結衣子は祖母にに内緒で祖父に謝った。祖父は顔をくしゃっと崩して笑って許してくれた。
そんなことを思い出しつつもつい
「うるさいなぁ。階段なんて普通に歩いてもドタドタ言うよ。だいたい家自体古いんだからさぁ。壊れても仕方ないよ。」
冗談交じりで言った。
「結衣子‼︎最近反抗期かなんだか知らんけど注意されたら素直に謝れ!全く。雅人も躾がなっとらん。」
いつもこうだ。結衣子が何かすれば父か母の名前を出す。いい加減うんざりだった。
台所に向かって
「おばあっちゃーん。」
と助けを呼んだが返事がない。さっきまで台所にいたと思ったのに。
「ばあさんは、庭の畑に野菜を取りに行ってる。すぐにおばあちゃんに助けてもらうのはやめなさい!全く恥ずかしくないのか!高校生にもなって。優子さんは何を教えてきたんだか。」
「あー。もう‼︎うるさいなぁ。いちいち、いちいち。」
そこへ縁側から野菜の入ったカゴを持って祖母が家に入ってきた。
「はいはい。ゆいちゃんも雅彦さんも落ち着いて。ゆいちゃん可愛い顔が台無し。今日はお祭りでしょ?ねっ。」
結衣子にそう言った。
「雅彦さん‼︎いちいち雅人や優子さんの名前出さないでください。躾とかいいじゃない?あの子たちに任せれば。雅彦さんはおじいちゃん。って言う立場でみてください!結衣子も年頃なんだから。」
祖父にはそう言った。
「でもゆいちゃんも気をつけなさい。床とかいつ抜けるか分からないわよ。ねっ‼︎」
結衣子は黙ってコクリと頷いた。
「はいはい。この話はこれでお終い。おやつにしましょう。麦茶入れるから。この間田辺さんにもらったお菓子あるのよ。あっ。ゆいちゃん今日ちーちゃんと行くでしょ。お礼言わなくちゃね。」
ちーちゃん。とは結衣子の親友田辺千春のことだ。三軒離れたところに住んでいて小学校に上がって始めにできた親友だ。高校は結衣子が私立で千春が公立と別れてしまったが月に一回ほど町に買い物に行く仲だった。夜でもお互いの家を行き来きすることも度々あった。
三時半を過ぎると支度を始めた。祖父も汗をかいたシャツを着替えて公民館に出かけて行った。祖母は千春の祖母と千春、結衣子はと行く約束をしていた。祭りには四人で行く。お互い祖母同士も仲が良かったし、お互いの祖母のことをよく知っていたのでついてくることに嫌だと言う気持ちは無かった。むしろその方が夜は安心と思っていた。
きっと都会の女子高校生なら嫌がる年齢だろう。田舎は大人も子供も仲良しだから小学生に限らず中学生、高校生と仲良しだ。都会ならきっと許されないだろうな。近所でも不審者扱いされてしまうのではないか。隣人でも危ういかもしれない。
そんなことを考えていると祖母がエプロンを脱いで着替え始めた。普段家事をするために派手な服装をしない祖母もこの日だけは少し洒落た格好をしていた。
薄い紫のロングスカートに花柄の刺繍がしてあるブラウス。いかにも祖母らしい、そして可愛らしい格好だ。
「おばあちゃん可愛いよ!」
「本当かい?ありがとう!さてとゆいちゃん。浴衣着るかい?」
「浴衣着る着る‼︎今年はどんな浴衣を作ってくれたの?」
浴衣は毎年祭りの時期に合わせて祖母が作ってくれていた。去年は薄紫色の花。その前は白生地に金魚が綺麗に描かれていた。
「うふふ。今年はね、ピンクのアサガオにしたわよ。」
祖母がそう言って奥の部屋の襖を開け箪笥から浴衣を取り出す。
「すごく可愛い!おばあちゃんありがとう‼︎」
結衣子は祖母が作ってくれる浴衣が好きだった。
祖母に着付けをしてもらいヘアセットをする。長い髪を一つにまとめて簪をさす。
口に紅をさして準備はできていた。
後は千春と千春の祖母が来るのを待つだけだった。
祖母は手作りの稲荷寿しをパックに詰めていた。この村は行事があるたびに稲荷寿司を作る家が多い。祖母も同じだった。酸っぱい酢飯に甘くてふわふわな油揚げの相性は抜群だ。祖母は見守り隊の差し入れとしてパックに包んでいた。
約束に時間は四時半。しかし時計は四十五分をまわっていた。おかしい。約束事には遅れて来ないのが田辺千春なのに。
「おばあちゃん。千春の家まで行ってくるよ。幾ら何でも遅すぎ‼︎」
「ゆいちゃん。もう少し待ってみなさい。支度があるかもしれないんだから。急かしちゃ悪いわよ。」
祖母がそう言うとなんだか逆らえなくなってしまった。
時計の針が五時をさしようやく千春が来た。
「ごめんね。支度に手間取っちゃて…。ほんとごめん!」
そう言われればメイクでなんだか別人になったような。メイクはここまで人を変えられるのかと結衣子は感心した。
「ごめんなさいね。結衣子ちゃん。静子さん。この子支度が遅いから」
千春の祖母が軽く頭を下げた。
「いいんですよぉ。お互い様じゃないですか。それより美味しいお菓子ありがとうございました。」
祖母が言った。
「千春時間に遅れることぐらい誰にでもあるから。もういいよ。お祭り行こう。ねっ」
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