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1.その男、殺そうか?
②
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俺のタイプではぜんぜんないけど、めちゃめちゃ綺麗な顔してんな、この人……と思ったら、「なんてね……」と言いながら彼は俺から離れた。
「ふざけてないで、それ、返してもらえませんか?」
本当にふざけている場合じゃない。俺は手紙を持っている宇佐神さんにムッとしながら手を差し出した。まったく、人の手紙を勝手に読むなんて、どんな神経してんだか。
「なんで?」
「いや、なんでじゃなくて、それ元から俺の――」
「三重野くんへの想いが書いてあるから?」
「なっ!」
俺の言葉に被せるように宇佐神さんに率直なことを聞かれて言葉に詰まった。
宇佐神さんが言う通り、俺は高校時代、三重野のことが好きだった。でも、告白して嫌われるのが怖くて、俺は卒業するときにタイムカプセルの中に10年後への自分に向けて三重野への想いを書いた。それで忘れることにした。十年誰も開けないのだ。忘れ去られると思っていた。
結果、中身を忘れて、タイムカプセル開封に出遅れ、今、俺は大変な目に遭っている。
いや、本来ならこんなことになるはずはないんですけど?
「これ、彼に見せようか? 響くん、久しぶりに三重野くんに会って、彼のこと、また好きになっちゃったんじゃないの? 彼、性格も良いし、格好良いからね」
宇佐神さんがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「あなた、最低ですね」
人の弱味を握って楽しむなんて悪趣味だ。
ただ、三重野と再会し、彼への気持ちを思い出して、嫌われたくないと思ったのも真実だ。いいや、絶対に嫌われたくない。知られたくない。この恋が成就しなくとも、このままであれば良いと思う。たとえ、今の時間だけでも。だって、俺はまだ三重野と何も話してない。
「どうしたいんですか?」
渋々彼に問う。
「しばらく僕の言うこと聞いてもらおうかな」
「どうしてですか?」
「暇潰し」
――ひまつぶしぃ? この人、本当に最低だ。
ずっと変わらないニコニコ顔も凶悪に見えてきた。
手紙をわざと見える位置に持っているのもいじらしい。
「それで? どうする? 僕の言うこと聞くの? 聞かないの?」
笑顔でファイナルアンサー的に尋ねられて悩んだが
「――……っ、き、聞きます」
「交渉成立」
変な人に目を付けられた運の悪い俺の苦肉の決断という感じだった。
交渉というより、契約のような気がしたけれど、これで三重野と話せる。俺はこのためだけに交渉したのだ。それほど、十年ぶりに会った三重野に惹かれている……。
そう思ったのに、気が付くと三重野の姿はなく、急な仕事で帰ってしまったと皮肉にも宇佐神さんから聞いた。
泣いた。地味に泣いた。
◆ ◆ ◆
「そんなに落ち込まないでよ。今度会う機会作ってあげるから。ほら、僕、彼の先輩だし」
「ずるいです。卑怯だ……」
その言葉で「自分の持っている手紙の効力はまだある」と主張しているのだろう。
だから、俺は元同級生たちが解散したあとに、こうして宇佐神さんと二人で居酒屋に来ているのだ。
三重野に会う機会があるということを考えると手紙のことはまだ内緒にしておいてもらいたい。
「では、乾杯」
勝手につまみとビールを二人分頼んで、宇佐神さんが俺のジョッキに自分のジョッキをぶつけてくる。ぜんぜん盛り上がらない。
「それで? 響くんは、どうして三重野くんを好きになったの?」
宇佐神さんには心がないのか、やけに人が大切にしている思い出についてストレートに聞いてくる。
「それも暇潰しですか?」
「もちろん」
「最低」
心なしか、俺が「最低」という言葉を口にする度、宇佐神さんは嬉しそうな顔をする気がする。
「まあ、良いですよ」
ちびちびとビールを飲みながら、酒の力を借りて俺は少しずつ三重野との思い出を話し始めた。
「三重野は運動神経も良くて、部活も掛け持ちしてて、水泳部にいたときがあって、俺も憧れて試しで水泳部に入ったんですけど、あんまり泳ぐのが上手くないから溺れたんですよね。その時に三重野が真っ先に飛び込んできてくれて……」
「それで三重野くんも溺れた、と」
俺がせっかくあの頃のキラキラした三重野を思い出して浸ってるのに、納得みたいな顔で宇佐神さんが頷く。
「いや、人の記憶歪めるような変な合いの手入れるのやめてもらって良いですかね?」
「ごめん、てっきり」
なにが、てっきりだ、と思ったけれど、話を続けることにする。
「助けてくれたんですよ。それからよく話すようになって、三重野は天然なところがあるけど、王子様みたいで、ダメな俺にも優しくしてくれて……」
「捨てられた、と。可哀想に」
やれやれと言った様子の哀れみの目が俺に向く。
「いや、捨てられてないですから……!」
ドンッと俺はテーブルにジョッキを置いた。
――なんでこの人、合いの手入れてくんの? アイドルのライブか? しかも、わざと三重野の印象を落とすようなこと言って……。
そう思ったときだった。宇佐神さんがある一点を見つめていることに気が付いた。
俺の手首だ。
急いで俺がスーツの袖を引っ張って手首を隠すと、宇佐神さんは何故か「響くん、誕生日いつだっけ?」と聞いてきた。
「は? 教えてないですけど?」
「じゃあ、いつ?」
「4月23日ですけど、なんなんですか?」
「へえ、あっそ」
自分から尋ねておきながら宇佐神さんの返事はやけに素っ気なかった。
それからは特に何も話すことはなく、すべてを宇佐神さんにご馳走になって解散した。
ありとあらゆる俺の連絡先を知られて。
「ふざけてないで、それ、返してもらえませんか?」
本当にふざけている場合じゃない。俺は手紙を持っている宇佐神さんにムッとしながら手を差し出した。まったく、人の手紙を勝手に読むなんて、どんな神経してんだか。
「なんで?」
「いや、なんでじゃなくて、それ元から俺の――」
「三重野くんへの想いが書いてあるから?」
「なっ!」
俺の言葉に被せるように宇佐神さんに率直なことを聞かれて言葉に詰まった。
宇佐神さんが言う通り、俺は高校時代、三重野のことが好きだった。でも、告白して嫌われるのが怖くて、俺は卒業するときにタイムカプセルの中に10年後への自分に向けて三重野への想いを書いた。それで忘れることにした。十年誰も開けないのだ。忘れ去られると思っていた。
結果、中身を忘れて、タイムカプセル開封に出遅れ、今、俺は大変な目に遭っている。
いや、本来ならこんなことになるはずはないんですけど?
「これ、彼に見せようか? 響くん、久しぶりに三重野くんに会って、彼のこと、また好きになっちゃったんじゃないの? 彼、性格も良いし、格好良いからね」
宇佐神さんがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「あなた、最低ですね」
人の弱味を握って楽しむなんて悪趣味だ。
ただ、三重野と再会し、彼への気持ちを思い出して、嫌われたくないと思ったのも真実だ。いいや、絶対に嫌われたくない。知られたくない。この恋が成就しなくとも、このままであれば良いと思う。たとえ、今の時間だけでも。だって、俺はまだ三重野と何も話してない。
「どうしたいんですか?」
渋々彼に問う。
「しばらく僕の言うこと聞いてもらおうかな」
「どうしてですか?」
「暇潰し」
――ひまつぶしぃ? この人、本当に最低だ。
ずっと変わらないニコニコ顔も凶悪に見えてきた。
手紙をわざと見える位置に持っているのもいじらしい。
「それで? どうする? 僕の言うこと聞くの? 聞かないの?」
笑顔でファイナルアンサー的に尋ねられて悩んだが
「――……っ、き、聞きます」
「交渉成立」
変な人に目を付けられた運の悪い俺の苦肉の決断という感じだった。
交渉というより、契約のような気がしたけれど、これで三重野と話せる。俺はこのためだけに交渉したのだ。それほど、十年ぶりに会った三重野に惹かれている……。
そう思ったのに、気が付くと三重野の姿はなく、急な仕事で帰ってしまったと皮肉にも宇佐神さんから聞いた。
泣いた。地味に泣いた。
◆ ◆ ◆
「そんなに落ち込まないでよ。今度会う機会作ってあげるから。ほら、僕、彼の先輩だし」
「ずるいです。卑怯だ……」
その言葉で「自分の持っている手紙の効力はまだある」と主張しているのだろう。
だから、俺は元同級生たちが解散したあとに、こうして宇佐神さんと二人で居酒屋に来ているのだ。
三重野に会う機会があるということを考えると手紙のことはまだ内緒にしておいてもらいたい。
「では、乾杯」
勝手につまみとビールを二人分頼んで、宇佐神さんが俺のジョッキに自分のジョッキをぶつけてくる。ぜんぜん盛り上がらない。
「それで? 響くんは、どうして三重野くんを好きになったの?」
宇佐神さんには心がないのか、やけに人が大切にしている思い出についてストレートに聞いてくる。
「それも暇潰しですか?」
「もちろん」
「最低」
心なしか、俺が「最低」という言葉を口にする度、宇佐神さんは嬉しそうな顔をする気がする。
「まあ、良いですよ」
ちびちびとビールを飲みながら、酒の力を借りて俺は少しずつ三重野との思い出を話し始めた。
「三重野は運動神経も良くて、部活も掛け持ちしてて、水泳部にいたときがあって、俺も憧れて試しで水泳部に入ったんですけど、あんまり泳ぐのが上手くないから溺れたんですよね。その時に三重野が真っ先に飛び込んできてくれて……」
「それで三重野くんも溺れた、と」
俺がせっかくあの頃のキラキラした三重野を思い出して浸ってるのに、納得みたいな顔で宇佐神さんが頷く。
「いや、人の記憶歪めるような変な合いの手入れるのやめてもらって良いですかね?」
「ごめん、てっきり」
なにが、てっきりだ、と思ったけれど、話を続けることにする。
「助けてくれたんですよ。それからよく話すようになって、三重野は天然なところがあるけど、王子様みたいで、ダメな俺にも優しくしてくれて……」
「捨てられた、と。可哀想に」
やれやれと言った様子の哀れみの目が俺に向く。
「いや、捨てられてないですから……!」
ドンッと俺はテーブルにジョッキを置いた。
――なんでこの人、合いの手入れてくんの? アイドルのライブか? しかも、わざと三重野の印象を落とすようなこと言って……。
そう思ったときだった。宇佐神さんがある一点を見つめていることに気が付いた。
俺の手首だ。
急いで俺がスーツの袖を引っ張って手首を隠すと、宇佐神さんは何故か「響くん、誕生日いつだっけ?」と聞いてきた。
「は? 教えてないですけど?」
「じゃあ、いつ?」
「4月23日ですけど、なんなんですか?」
「へえ、あっそ」
自分から尋ねておきながら宇佐神さんの返事はやけに素っ気なかった。
それからは特に何も話すことはなく、すべてを宇佐神さんにご馳走になって解散した。
ありとあらゆる俺の連絡先を知られて。
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